第191話 交渉➃
「こんにちは、ルイ様」
そう言いながら挨拶をする背の高い男。
スラリとした姿で、頭には黒色の帽子を被っている。
「ふむ、誰だ?」
「はい、私はアップラ商会の会長をしておりますネックと申します」
アップラ商会はこのアメルダ民主国において五本の指に入る大商会の一つだ。
主に家具などの生活日用品を扱っており、我が帝国でもその名は知られている。
「大商会の会長がどうして僕のところに来たんだ?」
その問いに満面の笑みでネックは答える。
「それはもちろん、ルイ様と仲良くなりたくてに決まってるじゃないですか」
商人らしい胡散臭い笑顔。
相手は商売人、交渉のプロ。
だからと言って、腹の探り合いをこのまま続けたくもない。
「何故僕なんだ?他国の人間だろ?正直に言え!」
さあ、何が目的だ!
「・・・そうですね。失礼しました。駆け引きとかは貴方様には無用ですね」
そう言いながらネックは背筋を正した。
「率直に申しますと、どうかルイ領で生産されている木材を優先的にウチの商会に回してほしいのです」
ルイ領の木材?
僕はそんなに欲しいものなのかと訝しむ。
後ろで控えていたアルスが僕に耳打ちしてくる。
「ルイ兄様。実は公爵領からルイ兄様の領地までに広がる森林に生える木材は高額で取引されているのです」
そう、なのか?
「ええ、はい。寒冷地域ゆえに強い木材へと成長しており大変人気があります。更にそれらは魔力を持っているのも特徴です」
なに?木が魔力を持つ?
「ええ、その木から加工された商品は魔法がかけやすいのです」
なるほど、つまり無機物である木に強化魔法などを付与されている商品は売れる。
そして魔法がかけやすい木というのがある。
それがウチの木、というわけか。
「ふむ、そうだな。どれぐらいが欲しいのだ?」
僕は正面の男、ネックに尋ねる。
確かに家具を扱う彼らにとって「魔法がよく効く木材」というのは商品価値も高く、欲しいのだろう。
「現在、公爵家様からは輸出量の二割を。ルイ様方からも二割です」
輸出しているうちの二割が彼らに渡っているのか。
多いのか少ないのか判断しづらいが・・・
「ルイ様、少し話が変わりますがお渡ししたいものがありまして」
そう言うと、ネックは部下の入室の許可を聞いてくるので許した。
彼の部下が持ってきたのは大きな箱。
それをテーブルに置くと、中を見るように促してくる。
箱を開くと中には甘い匂いを漂わすカヌレが入っていた。
その美味しそうな香りに思わず腹が鳴るが、ふと中をよく見てみると底が高くなっていた。
ほうほう、つまり・・・
「お土産は、どんなお菓子だ?」
「はい、我々アップラ商会の帝国支部の経営権です」
何と、そんなものを!
「帝国支部と言うと、帝都と公都の?」
「はい、そうです。いかがでしょうか?」
まあ、いいだろう。
「一割、いや二割増やしてやる」
「これはこれは太っ腹!ありがとうございます!」
そう褒めているが、きっと予想通りの結果なのだろう。
顔からの笑みは先程よりもにこやかだった。
「今後ともよろしくお願いします!」
「ああ、そうだな。帝国支部の人事はこちらで行うがいいな」
「はい、それはもちろん!」
「詳しいことはまた話そうか」
「ええ、ぜひ」
そんなこんなで交渉は終わった。
その後、いくつかの商会が僕を訪ねて来た。
まずは五大商会の一つ、ベージタブル商会。
第一次産業の取引を主にしており、深く貿易し合うということで交渉が成立した。
こちらでしか採れない農作物と向こうでしか採れない作物との交換。
次に来たのは五大商会に匹敵する、アズマルト商会。
武器関係の商売をしている。
まあ、こちらとも一応話し合ったが折り合いがつかず交渉は決裂。
どうせブルボン公爵家御用達の武器商人もいるので、特に何も思わない。
その後もいくつかの商会が来て、交渉をしてくる。
交渉成立は半分ぐらいで終わった。
他の五大商会は訪ねてこなかった。
まあ、それもそうだ。
一つは金融系だし、一つは鉱山資源、もう一つは魔系だ。
ちなみに魔系は、魔物の死体やコアといったものを扱う商売のことだ。
僕にとって必要ないものだし、向こうも分かっているのだろう。
ということで、次!
―――
最近は私用で忙しく、毎日投稿が中々できない状況です。大変申し訳ありません!
後一週間もすれば少しは時間的余裕もできるので、それまでは毎日投稿はしません。
一応、なるべくここ後書きで次回の投稿日時をお知らせするようにします。
次の投稿は、7月7日(日)になると思います!
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