留学編 4章
第189話 荒らしますか!
さてさてスタンフォルス中等部二年を見事に手中に収めた僕は、誰にも文句を言われない生活が続いた。
僕には誰も逆らわず、むしろ僕に媚びへつらう者まで現れる。
流石、僕だ!
それでも僕を「悪」だと騒ぎ立て、自らを「正義」と名乗る輩もごくたまに現れる。
だがもちろん、そんな奴らもことごとく潰してきた。
ところで、僕は「悪」なのかって?
いや、選ばれた人間なのだから「正義」なのだ!
しかも、前回ルーベルトたちの一件に関しては奴らが勝手に喧嘩を売ってきた。
困ったもんだ。
こういう自由を謳う社会では、大抵、物事が先走ってしまう。
それが後の祭りになるとも知らずに。
まあ、ルーベルトたちの件もそうなるように裏で仕向けたのは、アルスとレーナなんだけどね。
でも、あの二人の憤りはもっともだ。
自由だ、平和だ、平等だ、と謳っているくせに格差は一向に無くならない。しかもこの国をよく観察すると、むしろ格差は広がっていたりする。
大義がない戦争もするし、理不尽に逮捕もされる。いじめだって子どもの間でも大人の間でも起きている。
結局そういう自由だ、平和だ、平等だ、と口だけ偉そうな奴らも根っこは同じなんだ!
だから支配階級にいる人間なら、威張れ、誇れ、そして国や社会を良くするために下っ端共をこき使え!って僕は思う。
偽善者どもめ!
アルスやレーナも、おそらくそういうところに憤っていたんだろう。
もっと素直に正直に、僕のようになれと!
民主国なんてやめて、だったら王国やら社会主義国やらを作れと!
「ルイ兄様、それは少し違います」
隣で事務仕事をしていたアルスがツッコんでくる。
「お前、どんだけ心が読めるようになったんだよ!」
「いえ、何となくで分かりますよ」
・・・まあいい。
「お前はどうして奴らに憤っていたんだ」
「まあ、ルイ兄様と似ています。偽善が許せなかった、それだけです」
「僕と同じではないか!」
「いいえ、違います」
即座に否定する。
「この国は民主主義を公言し謳っているからこその怒りです。国の欺瞞に対する憤りです。現実社会にはいじめも差別もあるのに大人たちは見て見ぬふりをしてるからです」
確かにそうだ。
平和、平等、自由を謳っておきながらその実態は帝国と変わらない。
格差、差別、いじめ。
何もかも起きているし、そういう意味では自由かもな!ハハハ!
結局、この国の支配者層の考えも僕たちのような貴族寄り。
いつだって人より力を持ちたがるし、いつだって人を支配したがる。
それが選ばれた者ども、権力者ども、上昇志向者どもの性である。
「レーナはどう思っている?」
「だいたい同じです」
書類仕事を黙々とやりながら答える。
「あ、ルイ兄様。それよりこれを」
そう言ってアルスは一枚の紙を持ってきた。
紙には数十名分の名前が書かれていた。
更に名前の隣に丸バツが付けられている。
「これは?」
「これはこの国の議員の名前です」
アメルダ民主国の議員か。
「隣に書かれている丸バツはルイ兄様をどう思っているかです。丸がルイ兄様寄り、バツが反対派、三角が静観派です」
なるほど、よくまとめたな。
「で、これをどうして?」
「それはもちろん、ルイ兄様に使っていただくためです」
その言葉を聞いて僕は満足げにニヤる。
「どういうことニャ?」
テラが横から顔を出す。
「猫には意味が分からないのか?」
「ニャ!?}
「仕方がない、これから僕がやることを教えてやろう。ずばり、この国を荒らしてやる!」
「・・・・・・」
目が点になるテラ。
もうすぐ二学期が終わるが、まだ三学期がある。
「まさか、僕が留学だけしにここへ来たと思っているのか?だったら大間違いだ!何のために三人にあの仕事をさせていた?何のために『弱み』を集めていた?」
そう。全てはこの国をかき混ぜるために。
荒らして僕の存在を知らしめるために!
「そんなことをして許されるの?」
「何を馬鹿なことを言っている。僕が全てだ、僕が絶対!」
この世界は選ばれた人間のために出来ている。
その選ばれた人間が何をしようと勝手だ。
「奥方様には叱られかもしれませんね」
レーナが呆れたように言う。
ま、まあ、どうにかなるっしょ!
「僕は好きなようにやるから、勝手にブレーキをかけておけ!」
僕は二人に命令する。
「二人はそれでもいいニャ?」
テラの質問に息を合わせて答える。
「「ルイ(兄)様ですから」」
・・・従者たちの話は聞かなかったことにしよう。
「それより、早速だが、僕と繋がりたい奴らとの話し合いの場をセッティングしてくれ!」
「はい、分かりました!」
さてさて、この国を荒らしますか!
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