第188話 主人公④ (リリス視点)
アレックスくんが誰と付き合っても私は文句を言えない。
それは本人が決めたことであり、口を出す権利はない。
でも、何故か心が苦しい。
その隣にいる存在を恨んでしまう。
アレックスくんとマリーアが付き合い始めたという噂は直ぐに広まった。
何故?どうして?
そんな言葉が生徒間で話された。
でも、納得する人たちもいた。
マリーアの実力に惹かれたに違いない、と。
しかも、マリーアには私と違って華もある。
明るく、気品があり、どこか男心をくすぐる部分がある。
一方、私はそこまで明るくなく、気品もない。
恋愛には疎く、昔、自由奔放すぎる、と師匠に言われたこともある。
そう。私は自己肯定感が低く、誰かと恋をしたり、馴れ合ったりできない、いやするべきではない人間なんだと思ってきた。
でも、この学園では全てが許された。
他とは異なる私、身分の低い私、嘘つきの私だけど、
最初に、そんな私を肯定してくれたのがアレックスくんだった。
皇子という立場にありながら私と友達になってくれた。
一緒にご飯を食べ、一緒に帰り、一緒に鍛え合った。
最近は彼の立場もあり距離を置かれているが、私の事を気にはかけてくれている。
だから・・・マリーアとの関係に私は憤ってしまった。
もちろん、二人の関係に口出しするのは傲慢だし、自分勝手だし、押し付けがましいことは承知している。
それでも、自分が嫌いな人とアレックスくんが一緒にいるのは許せないし、なんだか裏切られた気分になる。
私はこれからどう接していけばいいんだろう・・・
何を話せばいいんだろう・・・
あの時、アレックスくんの表情を見てその場から去ってしまった。
逃げてしまった。
どうすれば・・・・
そんな悩みを抱え込んでいたある日のこと。
いつものようにアレックスくんと距離を取るように席についた時。
「リリス、ちょっといいか?」
ハンネスくんとフレッドくんが遠慮気味に近づいてきた。
「・・・何?」
思ったよりも冷たい声が出てしまった。
もう少し優しく言えばよかったと後悔する。
「ちょっと来てくれ!」
そう手招きをされた。
無視してもよかったけれど、何か重要なことだと思い二人に付いて行った。
そして人気のないところに連れてこられた途端、二人は急に私に頭を下げた。
「「どうか殿下を嫌わないでください!」」
ん?
深々と頭を下げる。
「・・・どういうこと?」
本気で分からない。
何で二人が私に頭を下げているのか。
「殿下は君が苦しむようなことは本意ではない」
「じゃあ、何でマリーアと付き合っているの?マリーアは、私を苦しめた元妹なのに」
「それは・・・・脅されているからだ」
脅されている?
「ボクも殿下もフレッドも。君と話をしているのがバレたら終わりなんだ」
何の理由で?そんな隠すことでも三人にはあるのか?
「これは話していいのか・・フレッドはどう思う?」
「情けねえ話だよ。でも、殿下を救えるのはリリスぐらいだ」
私が殿下を救える?どういうこと?
「実は・・・殿下は君が精霊術士ということを知っている。そしてボクたちも」
ドキッとした。
でも、よく考えればそれは納得がいくものだった。
なぜなら、王族が精霊術士という存在を知っていても不思議じゃないし、私が魔法を使っていないことも知られている。
それらを繋ぎ合わせれば、私という存在を導き出せる。
ルイくんみたいに。
「つまり、マリーアが私の正体をバラすとでも脅したの?」
二人はコクリと頷く。
私が精霊術士だと知られれば迫害されるのは明らかだ。
魔法は使えないが異端の術を使う人間として。
「何で三人は私を庇ってくれるの?」
つまり、アレックスくんは私のために嫌々マリーアと付き合っているということ?
私のせいで?
「ボクはただ友人を守ろうとしているだけです」
「おれもそうだ」
「殿下は?」
二人が顔を見合わせて答える。
「「本人に聞けばいいよ」」
・・・・私はどうすればいいのだろうか?
―――
間章終
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