第178話 戦い③

振り下ろした剣はルーベルトの背中に直撃した。


「ぐはっ!!」


もろに食らったルーベルトは地面に叩きつけられ、うめき声を上げる。


「ククク。こんなところで終わるなよ、エセヒーロー。お前が散々悪者だと見下した相手が目の前にいるのだぞ!」


僕は煽り立てる。


何とか立ち上がろうとしたルーベルトだが、僕はそれを許さない。


今度は相手の脇腹めがけて剣を横に振る。


それもまともに食らったルーベルトは、そのまま左へと横向きで数回転する。


「お前っ!」


これでもか!と言わんばかりの憎悪を込めて僕を睨む。


だがその目は、そう、敗者の目だった。


強者に抗えない弱者が向ける恨みがましい目。


そんな目を向けられるのは、今世だからこそ味わえるものだ。


「喧嘩を売る相手を間違えたお前が悪い!貴族である僕に逆らうから、そうなる!平民は平民らしく、へりくだってればそれでいいんだよ!」


前世の時だってそうだ。


選ばれし名家の生まれである僕が、どうして敗者になり下がらなければならなかったのか?


なぜだか平民の生まれの奴に、僕はいつだって負けてしまうのだ。


そんなこと、あってはならない。


選ばれた人間は強者として存在しなければならない。


だから、前世は間違っている。


平等なんていらない、身分という格差、序列、秩序こそ重要なんだ・・・・・・違う。



違う違う違う違う。



また気持ちが割れてしまう。


家柄こそ全てと思っている貴族主義、身分至上主義、差別主義者の自分と、それを否定するもう一人の自分がいる。


転生前、死ぬ時もそうだった。


まだ、僕の心はこの世に染まりきれていない。


家柄は絶対。


それを証明するために成り上がり共を潰さなくては。


目の前の奴も、リリスも、これから僕の前に立ちはだかる奴も。


それが僕が転生した証になるからな!


「ふん、悪ってやつは、いつでも油断をするんだな!」


一人で自問、葛藤をしていて僕はルーベルトを見ていなかった。


いつの間にか立ち上がって距離を取り、地面に何やら魔法陣を描いていた。


「貴様、まだ抗うのか?」

「黙れ!お前の勝利なんて絶対認めないからな!」


そう言いながらルーベルトは魔法陣に魔力を注ぎ始める。


そして詠唱した。


「いでよ精霊、そして我を守るものを、作り給え、【クリート・サムン、フレースウルフ!】」


ルーベルトが描いた魔法陣が黄色に輝き、一瞬で何かを形成しだす。


それはあまり知られていたない召喚魔法だ。


召喚魔法とは、魔法で術者が新たに使役できる魔物を生む魔法のこと。


使用時間に制限はあるが、魔力を使えば使うほどより強力な魔物を生み出せる。


あまり認知されていない理由は、召喚された魔物が暴走して術者の言うことを聞かなくなる場合が多々あるからだ。


目の前の魔法陣に、僕の背丈の三倍近くもある灰色の狼が現れる。


さっきの詠唱を聞く限り、風を操るウルフ系の魔物だ。


「フレースウルフ!そいつを殺れ!」


ルーベルトがそう指示すると勢いよくこちらに向かってくる。


どうやら使役には成功したらしい。


フレースウルフは走りながら風魔法を生成する。


そしてこちらめがけて撃ってくる。


それを正面からバリアで防ぐと、一気に背後に回り隙を突いてくる。


だが、所詮、魔物の考える発想だ。


攻撃を読み切っていた僕は背後にもバリアをして、噛みつこうとしてきたのを防ぐ。


一旦距離を取ろうとするが、僕はそれを許さず逆に距離を詰める。


正面に突如現れた僕に驚いたフレースウルフは何とか前足で攻撃しようとしてくるが、そこから更に僕はスピードを上げる。


前足の攻撃をスカし、今度は僕が背後へと回る。


それに合わせるように背中に向けてフレースウルフは先程と同じ魔法を打ってくる。


それをバリアで防いで、背中へと剣を振るう。


ただ、それには反応して、すんでのところでかわされた。


いや、そう誘導した。


フレースウルフが避けて着地した先でトラップ魔法が発動する。


グルルァァァ!!!


発動した火魔法により、豪火に包まれるフレースウルフ。


何も反撃しないまま跡形もなく消えた。


「えっ!?」


僕たちの戦闘を見ていたルーベルトは、素っ頓狂な声を上げる。


上級の魔物を召喚したにもかかわらず、ものの数分で殺られたから驚いたのだろう。


まあ、コカトリスよりも弱い部類だから負けるわけがない。


「さて、じゃあ次はお前の番だ」


僕はゆっくりとルーベルトに近づいていった。

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