第167話 真実と戦い
僕の指示に戸惑うアルスとテラ。
「ルイ兄様、急にどうされたのですか?」
訝しむようにアルスが近寄って聞いてくる。
「別に、ただ暇だからだ。何か面白いことはないかと考えたんだ」
「しかし、テラとセバスさんを戦わせるのはどうかと・・・二人には因縁もありますし・・・」
何か問題か?
過去の出来事なんて僕にしたら、そんなの知るかっ!だ。
「いいから準備しろ!セバスにはしっかりと指示しておいたからな。さあ、早く戦ってもらおう!」
僕はテラに向かって言うが、何故か尻尾を逆立てて警戒するようにこちらを睨む。
こらっ、猫!僕が何かやったか?
「おい、やるのかやらないのか、何か言ったらどうなんだ!」
「・・・一つ聞きたいことがある」
「ふん、奴隷の分際で。なんだ?まあ、聞いてやろう」
「さっき、『獣人たち』と言っていたが、あれはどういう意味だ?」
先程の僕の発言に引っかかりを感じたらしい。
「どういうことも何も、テラとアルス、お前ら二人のことを言っているんだ」
「えっ!?だけど、アルスは・・・」
「何だ、知らないのか?アルスの血の半分は獣人であることを?」
驚愕の表情を浮かべるテラ。
僕はアルスの母親が獣人であることは昔から知っていた。
だから、このネタで父を脅してきたのだ。
ただでさえ外で子供を作っておきながら、しかもその母親が人間社会では蔑まれている獣人。
今でもその事を僕の母は知らないが、知ったとなれば父の命は危ない。
だから常にこのネタで父を脅せるのだ。
「今まで戦闘訓練をしていて違和感は感じなかったのか?人間にしてはアルスの年齢で、あまりにも動きが良すぎると?」
「・・・確かに獣人であるニャーよりも動きがいいなんて、才能だけでは説明できないけど・・・」
そうだ。アルスの身体能力の高さは獣人であるなら説明がつく。
身体能力だけで言えば、アルスは僕よりも強い・・・ということは認める。
もちろん、総合力では僕の方が上だがな!つまり、ぼ・く・の・ほ・う・が、強いけどな!!!!!
てっきり獣人同士だからイチャこらしているのかと思ったが・・・・違うらしい。
「ごめんね、別に隠しているつもりはなかったんだ」
「い、いや、ニャーは気にしてないニャ。アルスが同族だったなんて・・・・ポッ」
また、二人の世界に入ろうとしているな!
「おい、本題に戻れ!」
「あ、そうだった」
「いいか、セバスに勝てたら好きなだけ僕を襲う権利をくれてやるよ!」
「ルイ兄様・・・」
「何だ?こいつは僕を殺したいんだろ?だったら好都合じゃないか!」
どうせセバスには勝てっこないし。
それに一度負けた相手と対面して、正常でいられるだろうか?
「ルイ兄様、自分も参加してよろしいでしょうか?」
「・・・急にどうした?まさか、お前も!」
「違いますよ!ただ、誰かと連携してセバスさんと戦ってみたいからです。サポートしかしませんから」
まあ、アルスがいても問題ないでしょ。
「ああ許可する。勝敗については、どちらかが降参する、或いは戦闘不能になった時点だ。いいな」
テラはコクリと頷いた。
「じゃあ、セバス!入ってこい!」
「人使いが荒いですよ、ルイ
僕をわざと坊っちゃま呼びしながら入ってくるセバス。
その姿を見て、テラは唖然として膝から崩れ落ちる。
「えあ、いや、ぎゃ、えあ」
意味の分からない言葉とともに発狂し出し、その場で泣き崩れる。
「―――本当に趣味が悪いですよ」
セバスがテラを見ながら悲しい表情を浮かべる。
「過去のトラウマなんて振り払えばいい」
「それは、簡単じゃないですよ。ルイ様はそれを理解していますか?」
「ああ、簡単ではないが出来る、という事は知っている」
生まれ変われたのなら出来るはずだ。
しばらくテラが叫ぶ光景を眺める。
どうにも自殺前の自分をまた見ているようで、虫唾が走る。
イライラが限界まで来た時、アルスがテラの傍に駆け寄り、耳元で何か囁く。
すると泣き止み、何故かアルスに掴みかかるテラ。
それをものともせず、アルスは正面からテラに向かって何事かを言う。
しばらく言い争う二人。
ちなみに遠目に見ている僕には彼らが何を言っているのか分からない。
時折単語はいくつか耳に入ってくるが・・・断片的で理解不能。
「・・・分かったニャ!ニャーはやってみる!」
先程とは打って変わった様子で、強い意志で立ち上がるテラ。
・・・これが元スピンオフ主人公の力なのか?
涙を拭い、足を震わせながらも、セバスの正面に立ちナイフを構える。
その後ろでアルスも弓を構えた。
「では、始めましょうか。どうぞ攻撃を打ち込んで来てください」
そうセバスが言うと、テラが一瞬でセバスの間合いに入ってナイフを投げる。
それに合わせるようにアルスがセバス目掛けて弓を放つ。
その二つは目くらましだろう。
本命はその背後。
ナイフと矢の両方を避けようとしたセバスの背後に回るテラは、義手を戦闘モードにして勢いよく突き刺そうとする。
「甘いです」
それを見切ったセバスは、その義手を自分の持っていたナイフで弾き返そうとする。
「それも囮です!」
だが、弾き返したはずの義手が何故か宙を舞う。
そう、腕に装着してていたはずの義手が宙を舞っているのだ。
つまり、義手を取り外したということ。
驚いたセバスの隙を見逃さず、放った義手の背後に隠れて飛び上がったテラは第二のナイフでセバスに襲いかかる。
だが、それでも反応したセバスはギリギリのところで横へ飛び避ける。
「そんな・・・」
会心の一撃だったのだろうけど、残念だな!
セバスは僕ぐらいには強いんだ!
しばらく睨み合うセバスとテラ。
だが急にセバスが背を向けだす。
「その攻撃は?」
「ニャーたちよりも強い敵と戦ったときを想定した戦いです!」
「そうですか・・・よく自分の恐怖に勝てましたね」
そう言って出口へと向かうセバス。
「お、おい!セバス!どこへ行く!まだ勝負は終わっていないぞ!」
「いえ、私の降参です」
えっ・・・・???
残された三人は目を点にするのだった。
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