第155話 どうする?

日焼けしたような褐色の肌。


小顔の上についている三角形の猫の耳。


口からは猫特有の牙に似た八重歯。


まさしく獣人と言っても過言ではなかった。


ただ、胴体から伸びた短い四肢の先に包帯が巻かれており、その手足のなさが異常に見えてくる。


「なるほど、確かに面白そうな商品だな・・・」


僕はそう平然と答えた。


一方で後ろに控えているアルスとレーナは複雑な表情を見せていた。


怒り、悲しみ、同情・・・


「・・・どうしてその子はそんな状況なのですか?」


アルスが質問する。


「さあ、そこまで詳しくは知りませんよ。ただ、ブルボン家に送られた刺客、暗殺者としか聞かされていません。まあ、そこに価値を感じたんですがね!安かったですし!!」


掘り出し物を安く買い取って嬉しそうな表情を浮かべる奴隷商に、怒気をはらんだレーナが詰め寄る。


「貴方はあの子をただの商品だと・・・」

「そこまで怒らないでくださいよ〜。奴隷を商品として扱っているから奴隷商なんですよ!私だって生活のためなんですからね~」


奴隷商の言うことはもっともだ。


「レーナ、下がれ」

「ですが―」

「命令だ!」


僕に言われ、渋々後ろへと下がる。


「まあ、私も人の心は持っていますからね。獣人とはいえ同情の心も多少はありますよ。ですから、こうやってルイ様に売ろうと考えたのです」

「ほぉ〜〜」

「ルイ様なら、そこにいるレーナのように大切に扱われるはずですし」


「「大切に?」」


奴隷商の言葉に首を傾げるアルスとレーナ。


「まあ、普通の貴族よりはマシですが・・・」

「人使いは荒いですね・・・」


また何か言い始めた!


「ま、まあ、とりあえずいかがでしょうか?獣人とはいえ珍しい品ですよ!」


ん、獣人とはいえ?


ああ、そうだった、この世界では獣人は差別される存在だった。


人間が世界の七割を占めている多数派だからこそ、異質な見た目をしている少数派は差別される。


一方で見世物としては非常に価値がある。


興味本位で見る分なら良いだろう、と思う人間がいるから観賞用奴隷としての価値はある。


前世でもそういう時代が歴史的にはあった。


通常の人の姿とは違う奇怪な見た目をした異形の人間たち(フリークス)。彼らは、見世物小屋やサーカスなどでショーにされていた。


家族にも疎まれ、捨てられた彼らにとって、自らの姿を人前に晒すことが生きる手段であり、そうするしか道はなかった。


この獣人奴隷の家族や一族は裏稼業、暗殺でなんとか生計を立てていたのだろう。


だが、ある日、これ以上使い物にならない姿で戻って来たので、口減らしもあって売られたのだろう。


まあ、運が悪かったんだ。


暗殺に失敗したにもかかわらず、殺されず、命があるだけまだマシかもしれない。


「名前は何て言うんだ?」

「さあ、我々は存じ上げておりません。名札には奴隷番号しか書いてないので・・・」


レーナの顔が、再び曇る。


つまり、奴隷商が言ってることは本当のようだな。


「どうです?買われますか?」


奴隷商が笑顔で僕に尋ねる。


さて、買うか買わないか。


アルスの方に顔を向けると首を振って答えた。


「自分はやめておいた方がよろしいかと。できれば助けてあげたい・・・という気持ちはあるのですが、冷静に考えると、奴隷として何の役割もないのはお金の無駄になります」


ふむ・・・現実的な問題か。


しばし黙って思案していると、アルスが再び口を開いた。


「・・・繰り返しますが、助けたい気持ちはあります。ですが、誰がこの子の世話をするのでしょうか?世話役を見つけても今度は、その世話役が抜けた穴を誰が埋めるのでしょうか?・・・そのあたりまでしっかり考えて、購入するかしないかを決めないといけません・・・」


前世で僕が「ペットを飼いたい!」と言った時に、親に言われた言葉のまんまだな!


ただし、犬・猫よりも食費やら衣服やら費用がかかると思うし。


レーナの方を見ると、彼女はずっとうつむいているだけ。


あえて何も進言しないように見えるが、無言の圧を感じる!


さて、どうする?


役に立たないなら買う意味がないし、観賞用と言っても見飽きるだろう・・・・


????


待てよ!どうしてこの少女は綺麗に四肢だけないんだ?


戦闘中に四肢を失うほどの負傷をしたならば、他にも大きな怪我を負うはず。


…と言うか、ブルボン家に暗殺に来たのなら殺されていても不思議はない。


生かされているということは、何か理由があるのかもしれない?


・・・いや、それにだいたい誰がこいつの四肢を斬ったのか?


普通、侵入者はすぐに殺される。


だが、こいつは生き残っている。


ブルボン家に侵入してきたのに・・・だ。


こんな芸当をできる奴は・・・・


思い当たる人物がブルボン家には一人だけいる。


・・・フフフ・・・そうか!そうか!


あいつにたまにはやり返したいし、一度あいつをギャフンと言わせてみたいしな。


「よし、奴隷商。いいだろう!買おう!」


僕は新しい奴隷を買った。


値段は安かった。


リンゴ三つ分ほどだった。


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