第97話 疑問 (アルス視点)


南に向かって進んで早三日。


帝都を越え、自分の全く知らない場所に思わず目を輝かせる。


「おいおい、前のめりになりすぎるな」


馬車から顔を出し、外の空気を感じる。


ルイ領とは違い、暑苦しい風が吹き、馬車内では燦々と照りつける太陽のせいでみんなが汗をかく。


「流石に暑いな」


そう言いながらルイ兄様が魔法を発動させる。


すると一気に涼しい風が馬車に行き渡り、体温が下がっていくのを感じる。


「はぁ〜〜〜後一週間も耐えないといけないのか」


ルイ兄様は太陽を見ながら言葉を吐く。


目的地の南方のスピット村を目指して馬車は進む。



何故自分らがそこへと向かっているのか。


正直に言えば分かっていても分からない。


入学してから一週間して、突然ルイ兄様に精霊や精霊術士のことを調べるから手伝えと言われた。


理由は一度聞いたが、ただ「危険だからだ」の一点張り。


まあ、ルイ兄様の頑固は今に始まったことではないから特に問い詰めもせずに従った。


最初は精霊や精霊術士などただの伝説だと思っていた。


事実、物語としか出てきていないのだが、中にはそれらしき人物が活躍した証拠が歴史書で書かれていた。


もちろん、それが精霊術士がいた事や精霊が事件を起こした事など書かれているわけではない。


ただ、魔法使いであるだの、ただの不慮の事故だのでは片付けられない不可解なこともあった。


そして、それらは全て大きな事件へと結び付けられている。


最大の例で言うなら、マジルレイ王国滅亡について。


滅亡直前に突如として現れて、突如として消えた謎の無詠唱を使う者。


無詠唱魔法は現在ルイ兄様と自分、レーナしか使えないはず。


というよりこれまでは使える人はいなかったはず。


その文献には詳細な事が書かれているが無詠唱魔法とは言われていない。


全てが不可解、なにか繋がれた糸を感じる。


だからこそ、これが全て精霊術士が起こしたとすれば怖い。


そしてルイ兄様が警戒するのも無理がないと思った。


自分のクラスに精霊術士らしき人物が一人いる。


名前はリリス、平民の普通の女の子。


だが、その使う魔法が全く分からない。


突然消え相手の前に現れる、まるで瞬間移動したような魔法。

重力を操ったように剣を重くさせ、人を吹っ飛ばす魔法。

大気を操ったような、見えない風魔法。


全てが謎すぎる。


だからルイ兄様はリリス、そしてその友人となった第三皇子殿下を敵対視しているのかもしれない。


・・・・・・いや、第三皇子殿下に関してはただルイ兄様が見下しているだけか。


「おい、アルス。何か変なことを考えなかったか?」

「いえ、ただルイ兄様は非常に自尊心が強い方だと思っただけでございます」

「ああ、そうだとも!」


ルイ兄様の誤解を解いた所でもう一度考える。


今回向かうスピット村は精霊について伝承のある地。


それも、ちょうどマジルレイ王国が滅びた頃だ。


そして最も重要なのが、スピット村で起こった事件を解決したのが他でもない、あの不可解な魔法使いだ。


どうしてか繋がっているようにしか見えない。


この謎を解くために向かっている・・・のだが、やはりどこかでいるわけがない!何故向かわなければいいけないのか?と思ってしまっている。


それだけ精霊とは、途方もない妄想にしか思えない。




それから一週間後。


スピット村近くに着いた自分らは近くの領主の館に泊めていただくことになった。


着くと、なんと思わぬ人と遭遇。


実戦授業のラオス先生の奥さんが働いていたのだ。


どうやらこの屋敷の主が親戚らしく、住み込みで子供の面倒を見ながら働いているらしい。


軽く挨拶をした後、そこで一晩過ごした。


そして翌朝になり、早速目的地へと向かう。


屋敷からは大体二時間ほど。


辺境の村で、特徴的なものもない普通の田舎の村。


東側には大森林が広がっており、迂闊に入ることができなさそう。


だが、その奥地におそらく伝承の地があるのであろう。


まずは案内をしてもらうべく、村長の家を訪れたのだが―


「駄目に決まっておる!ただでは入れさせん!」

「こいつ!!!」


今にも殺しそうな勢いのルイ兄様をオールド師匠が何とか取り押さえている。


一応ルイ兄様は公爵家の嫡子にも関わらず、村長は毅然とした態度を取る。


自分はそれを不思議がり、何故拒否をするのか尋ねる。


「どうして案内してていただけないのですか?」

「別に、”しない”と言ってるわけではない。ただ、昔とある貴族を案内した結果、あろうことか森林の木々を伐採し、伝承の遺跡の地に置かれている建石を破壊したのだ」


なるほど、それで警戒しているのか。


「では、どうしたら案内していただけますか?」


問うとしばし考え、村長が口を開く。


「では、一つ頼みを聞いてもらいたい」

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