第96話 ルイ領


帰郷してから三日後。


惜しまれながらも(?)僕らは旅行という名の調査へと向かった。


本当は僕とアルス、レーナ、その他二名の護衛と行くつもりだったが急遽護衛がオールドだけとなった。


護衛兼監視役であるオールドが付いてくるのは嫌だったが、護衛として不足している!とも言えず。


僕らは馬車で南方へと向かうことになった。


と、その前に向かう所がある。


そう、僕の領地であるルイ領(元アルマー家領)へと寄ることになった。


流石に領主としてずっと留守にしているのは良くないと父に言われたから。


まあ、僕が行ったらたんまりと賄賂が送られてくるし、行く価値はある。



領内へ入ると、僕は思わず声を漏らす。


「何なんだよ、これ!」


そこに広がっているのは川と川の間に広がる麦藁色の平原。


目を凝らしてみると、全てが小麦なのだと理解できた。


「やっと終わりましたか」

「おい、アルス!何のことだ!」

「あれ、気づいておられなかったのですか?」


気づく?何に?


僕がこのルイ領に入るのは一年ぶり。


孤児院の事があってから父に呼び戻され、公都で入学までの時を過ごしていた。


その間にも僕に税収は普段通り入ってきており、逆に増えたくらいだ。


僕が増えるように仕向けたのだから当たり前だけど・・・この発展は何なんだ!!!


「ルイ兄様、いつ頃の話をしているのですか?ルイ兄様が入られた次の年から着々と小麦の栽培を増やしていったのですよ」


知らなかった。というより興味が無かった。


「確かにルイ様は自分のこと以外興味がありませんよね」


心を読むな!


「でも、どうしてあんなに小麦畑が増えた!」

「簡単です。堤防を作ったからですよ」

「堤防?」

「はい。ルイ兄様の発案もありまして、税収の一部を川の氾濫への備えとしました」

「ああ、確かそうだったな」


そのために増税した。


「最初は中々受け入れともらえませんでしたが、着々と工事が進むにつれて段々と理解してもらえました」

「何でだ?」

「堤防を作ることで、より川に近い場所でも小麦を作れるようになったからです。小麦が育つ条件の一つである水はけの良い場所。川の近くにも多かったのですが、そこで栽培するとなると、川が氾濫を起こしたとき全てが水泡と化します。そのハイリスクを避け、これまで行われてこなかったのです」

「つまり、堤防を作ることでそのリスクが軽減された。だから、作るようになった」

「ええ、そうです。更に堰を設けることで水の調整もでき、より育つようになる」


なるほど、理解はできた。


「だが、それにしては僕に入ってくるお金が少ない気がする」

「それはそうですよ。減税したのですから」

「減税だと!!!!どういう意味だ!!!!」


僕はアルスに掴みかかる。


「そのままの意味ですよ。人々が豊かになったのですから減税して、財布の紐を緩くすることで経済を回す。


辺境の村で、特徴的なものは何もない普通の田舎の村。

当然です。ただ、ちゃんとルイ兄様に入るお金が増えるようには調整しました。ですから、これまで気づかれなかったのでしょ?」


ニヤリとしてシタリ顔をするアルス。


こいつ、マジ殺す!!!!


「まあまあ、お二人とも。そろそろ着きますぞ」


僕とアルスの間にオールドが割って入る。


にしても、アルスめ。こいつが急に大きく見えてきたな。




屋敷に着くと、役人や使用人、騎士達全員が出迎えてくれる。


僕は当主としてある程度の報告を聞き、本題の賄賂へと移る。


領内が発展して関税も無くなったことで多くの商人たちが来るようになった。


領内が栄え、それを聞きつけた商人たちが来て、また栄え・・・・の繰り返し。


大商人たちも根を張るようになり、賄賂はたんまりと貰うことができた。



久しぶりの屋敷を見て回ろうと思い、ぶらついていた僕。


渡り廊下を歩いていると、ふと中庭に目線が行く。


そこでは一人の騎士と数人のヒヨッコ騎士達がいた。


その中で見覚えのある奴が一人。


「ん?あれは確かクソガキじゃないか」


僕は練習している彼らのそばに寄っていく。


「誰って、領主様!このようなむさ苦しい所に何の御用で」


剣術を教えていた教官がこちらに気づいて寄ってくる。


「いや、何か見覚えのある―」

「あ!まさか手下―イテッ!」

「こら!領主様と呼べ!!!!」


やはり変わらない生意気なクソガキ、もといマルクであった。


「ふっ、クソガキは相変わらずだな」

「なっ、偉そうに―イテッ!!!」

「偉いんだよ、この馬鹿! 申し訳ありません、領主様。この者、腕は非常に良いのですが少し乱暴でして」


まあ、いつも通り、通常運転だな。


「ちゃんと敬語を使って話せ」

「すいません・・・」


教官に怒鳴られてしゅんとなるクソガキ。


それにしても、悔しい。


目の前にいるクソガキを、僕は見上げていた。


同年代の平均よりは少し高い僕の、更に頭一個分ほど大きくなっていたのだ。


僕はそんな悔しさもあって特に何も話さず、その場を後にしようとした。


その僕の背に向かってクソガキが大声で言う。


「一言だけ!手下のお陰で夢が叶ったぁ!!!ありがとう―――イテッ!!!」

「コラァァ!!!領主様と呼びなさい!!!!」


僕はそれに答えず歩き去っていった。



最後のあの言葉に少し嬉しさを感じたのは、気のせいだろう。


一日滞在した僕らは、ルイ領を後にした。

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