第90話 主人公③ (リリス視点)


グサッ   グルァァァ!!!


「ふぅ〜終わった終わった!」


私は最後の一体のゴブリンを倒して、一息つく。


前方ではアレックスくんの指示の下、生徒たち全員で最後の残党を倒していた。


「私の出る幕はないね」

[まあ、リリスは十分な働きをしたからな]


クロが私の着ている服のポケットから顔を出して言う。


「て言うか、なんでそこに入っているのよ!」

[し、仕方ないだろ!何か洞窟が薄気味悪くて怖いんだよ]


へぇ〜精霊にも怖いものがあるのか。


でも、このダンジョン内にも精霊が居るところを見るに、それぞれ苦手が違うのかな?


まあ、分からないことを考えてもしょうがない。


「少し、休もう――ん?何だあれ?」


私は酷使した体を休めるべく壁にもたれかかろうとした。


だが、そんな私の目に、正面から謎の小さな光が見えた。


本当にかすかな水色の発光。


興味本位で私はもっと見ようと、反対側の壁まで歩いていった。


光が出ているところは普通の壁。


だが、他のところより少し凹んでいた。


[おい、気をつけろ!触らないほうがいいぞ。何か嫌な予感がする]

「大丈夫だよ」


私は楽観的に答え、手を近づけた。


その瞬間、手が何かに引っ張られる感覚になった。


[おい!どうした!]

「なんか、引っ張られーーきゃぁぁ!!」


そこで数秒?意識が途切れた。




次に意識を取り戻したのは、小さな部屋のような場所だった。


なんの変哲もない土の壁に囲まれた薄暗い部屋。


[おい、さっきのは何なんだよ?]

「私にも分からないわ。でも、ここは・・・隠しダンジョン?」


部屋の隅の方にある階段を指さして私は言う。


隠しダンジョンは、ダンジョン内のどこかにあると言われる難易度の高いダンジョン。


見つけることも大変だが、そこにいるボスもまた強いと言われている。


過去、隠しダンジョンが見つかったのは八つ。


そのうち攻略されたのは五つ。


未だに三つもボスが倒されていない。


ただ、倒した時の戦利品とお宝は、上級ダンジョンの五十層ボスレベルと言われている。


まあ、どんなにすごいのかわからないが、とあるパーティーがその戦利品で一生生活に困らなくなったらしい。


[んで、ここからどう抜け出す?]


そうだ、早く合流しないと。心配をかけてしまう。


「え〜っと、壁に出口は無いわね」


小さい部屋のためか簡単に一周できる。


[壊してはいけないのか?]

「ダンジョンが崩れるから、壁は破壊しない方がいいの」

[そうか。でも、こういうのってどうやって脱出するんだ?]

「だいたい瞬間移動トラップと同じ。そこのボスを倒せば、出口が勝手に出現する」

[つまり・・・]

「うん、降りるしかなさそうね」


私たちは階段の方を見る。


ここにいても分かるような圧を下から感じる。


「倒せるかな?」

[僕が見るに・・・五分五分かな]

「・・・じゃあ行くかな」


倒せないわけじゃないなら行くしか無い。


私は階段を降りていった。



思った以上に階段は長く、暗いため火を灯しながら進む。


「う〜んまだ着かないのか?」

[圧が大きくなってきた。そろそろだと思う]


私はクロと話をしながら進む。


そろそろ着くぞ、となった時。



[助けて!!!]



突如助けを呼ぶ声が聞こえた。


「クロ、何か言った?」

[いいや言っていない]

「つまりクロ以外の精霊が居る、ってこと?」

[ああ、急いだほうがいい]


声を聞いた私達は階段を急いで降りる。


そして数分した頃。


ようやく部屋が見えてきた。


階段を降り終え、部屋へと入る。


そこは巨大な空間だった。


赤土に囲まれ、天井は学校の体育館ぐらいの高さ。


横幅も数十メートルはある。


「ここが隠しダンジョン」

[おいリリス、前を見ろ!]


感心していた私にクロが焦ったように指示する。


その瞬間、頭上に大きな影ができた。


私は咄嗟に何かが来ると思い、唱えて逃げる。


【ストップ】!


唱えたと同時にいつもの無の感覚に陥る。


私はもうそれには驚かず、右へ影を避けるように飛んだ。



ドゴォォォ!!!



ストップが解けた瞬間、大きな轟音が響き渡る。


私が先程までいた場所に大きな石の手が落ちてきていた。


大きな巨体に土と石でできた体。


「ゴーレム・・・」

[おい!それよりあれを見ろ!]


目の前の魔物より、クロは後方の物に驚いていた。


私がそこに目線を動かすと、小さな私の頭サイズ程の檻があった。


大量の鎖が巻かれているその中に、水色の発光体―水色の精霊がいたのだった。

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