第86話 まだ続く


「では出発する」


しばらく昼休憩をしていた僕らに声をかけるラオス。


初めてのダンジョン探索のためか皆、疲弊していた。


すぐに立ち上がった者も数人で、あとは渋々といった感じだ。


「はぁ〜〜情けない。こんなにも体力が無いなんて」


僕がそう呟くと、ナータリが突っかかってくる。


「ちょっと!経験者の貴方じゃないんだから。魔物退治はみんな初めてなんだから、流石に疲れるわよ」


その言葉に同調する声。


「そうだ、ナータリに激しく同意!」

「流石に疲れるよ!」


まさか、部下どもに反抗されるとは。


「お前ら―」

「ルイ兄様!それ以上言うのは駄目ですよ。それはリーダーではありません」

「何だと?」


アルスが口出ししてくる。


「こう言えばいいんですよ」


アルスが耳打ちをする。


僕は疑問に思いながらも、そのままの内容を大きな声で話した。


「では聞こう。貴様らはここで終わっていいのか?Bグループに負けたいのか?」

「ま、負けるも何も―」

「よく聞け。もし、向こうよりも下の階に行くことができたら、ラオス先生から特別報酬が出るのだぞ!」


「「まじか!」」


「え!ほんと?」


予想もしていなかった言葉に、生徒たちは驚きと疑念の声を上げた。一方、身に覚えのないことを言われたラオスは、戸惑いを露わに。


「本当ですか、先生!?」


生徒たちの純粋に期待する目が、ラオスに向けられる。


「あ、いや、その〜今のは」


と、ここでアルスがラオスに向かってわざとらしく言う。


「あれ、先生〜〜嘘を仰るのですか?ダンジョン探索が始まる前に、ルイ兄様にそう告げていましたよね?!」


もちろんそんな事実は無い。


アルスの嘘だ。なので、すぐにラオスに否定されるはず・・・が、


「あぁ、もう分かった。もし向こうのチームよりも下の階層に行けたら、何でも好きな食べ物を食堂で奢る。それでいいか!」


「「「わぁ、やったぁ!!!」」」


食べ物で釣られるのか?しかもみんな、小学生みたいに純粋に喜んで?


しかし、どうしてだ?


「なあ、アルス。何であんな簡単な嘘をついたんだ?それになぜ、ラオスは否定しなかった?」

「その理由は、ラオス先生が子供好きだからです」

「え、それが理由!?」


まぁ、子供好きと言うか教えることが好きなのは教師になるくらいだから、そりゃそうだろう。いやでも、この学園の教師である理由は他にもありそうだ。なにせ学園の生徒たちの多くは、将来この国を担う者たちだ。教師の中には、教育を通じて自分の影響力を発揮しようとする政治的思惑もあるだろう。


「簡単に分かりますよ。あのような、ぶっきらぼうな見た目ですが、実戦授業でも生徒に安全なように結界を作ったり、治療のできる人物を副教師に置いたり。今回の授業でも教室の生徒の意思を汲んで、ルイ様に不満のある生徒たちに代わって苦言を呈したり」

「そんなもんか?」

「ルイ様は知らないと思いますが、先生には子供が三人いるらしいです。どうやら帝都から行くのに二週間はかかる、離れた場所にいるらしく、やはり心配なのでしょう。そういう事情もあって、自分ら生徒に、お子さんの姿を多少とも投影しているのではないかと思われます」


・・・まぁ、その気持ちは分からなくもない。それが親心だ。


僕自身も前世では、自分の子供を奪われ、離れて暮らしてきた。


それがたとえ、幼い頃に顔を少ししか見ていない子だとしても、どうしているかな、と心配になる。


「で、何でラオスは嘘を否定しなかったのか?と聞いている」


突然思い出した自分の中の変な感情を誤魔化すように、アルスに尋ねる。


「純粋な子供の期待を裏切りたくないんでしょうね」

「はぁ〜〜〜。面倒くさいな。ていうか、ご褒美ぐらいで騒いでいる奴らもガキだな」


ご飯を奢られるだけで、そんなに嬉しいものなのか?


その疑問にアルスが苦笑いを浮かべて答える。


「まあ大人っぽいルイ兄様には理解できないと思いますが、やはりタダで何かを貰えるというのは嬉しいものですよ!」

「お前もそうなのか?」

「ええ、ルイ兄様に頂いた魔剣は今も大切にしています」


精神が大人な僕には分からん。


「とりあえず出発するか」


一通り生徒たちは騒いだ後、出発することになった。



僕らが進んでいるのは四階層。


十階ごとにボスが存在するが、流石にそこまでは行けないだろう。


四階層が強いかと聞かれたら僕には判断できないが、他の奴らの疲弊具合を見ると、まあまあ辛い所なのだろう。


何人かは仲間の治癒魔法を使ってもらって、何とか歩けているという状態。


「前方にラージスライム四体!ゴブリン五体!」


斥候の取り巻きAの知らせを受けて、全員が顔をこわばらせる。


階層が下がるにつれ、魔物が現れる頻度がどんどん上がる。


皆、重い体を動かして自分の配置につく。


剣使いは何とか剣を振り回し、スイッチを幾度も繰り返す。


それに合わせて、魔法使いは魔物に魔法を放つ。


だが、それが決定打になることは無く、また剣使いが剣で応戦。


そしてスイッチ・・・・その繰り返し。それでも、


「こちら、終わりました!」

「こっちも終了!」


次々に終わりの報告が上がる。


前線で戦っていた剣使いのほとんどが地面に倒れ、呼吸を整える。


流石にこれ以上継続不可能と判断したのか、ラオスが生徒たちを集めて告げる。


「これ以上はお前たちに無理をさせるわけにはいかない。これより帰還するための魔法陣を書くから各自―」


ギガーーー  ドス  ドン  ギゴ


ラオスの声を掻き消すように、突如、洞窟の奥の方から何かが来る。


生徒たち全員に恐怖が走る。


徐々にそいつは姿を現した。


見た目は、土でできた機械のような体。洞窟の天井に届く大きさで、こちらを見下ろす。


「おお、ゴーレムじゃないか!!」

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