第48話 夢 (フレッド視点)
『こんな家、出てってやる!』
『ああ、良いとも!お前のようなドラ息子と縁が切れて清々するぜ!』
『うっせークソ親父!』
『黙れバカ息子!』
親と喧嘩別れをして出て行って早一年。
十二歳のおれは今、第三皇子アレックス殿下の使用人兼護衛として王宮に住んでいる。
地方騎士爵の家に長男として生まれたおれは、地方という閉鎖的な場所に飽き飽きしていた。訓練はサボり、毎日近くの森に湧く魔物を倒していた。
ただ騎士爵である親父はそれを許さなかった。
騎士爵とは、貴族ぎりぎりの位であり、半分平民と同じだ。領地を持っている騎士(試験に合格すれば誰でもなれる名誉ある兵士)の事を指す。
堅苦しい事が嫌いな俺は騎士という道を選びたくなく、冒険者になりたかった。だが、親父はおれを騎士にさせたかった。
そこで喧嘩したおれはそのまま家を出て、親との縁も切った。
そんなおれが何故アレックス殿下に仕えているのか?
それは数年前にあったとあるパーティーで仲良くなったからだ。
「なあ、フレッド。俺はお前が羨ましいよ」
ある日の昼。殿下が突然呟いた。
おれは耳を疑った。どうして皇子様がそんなことを呟かれるのかと。
「何、当てつけとか嫌味とかではない。ただ、羨ましいだけだ」
どうして?と聞こうとしたが、その前に答えてくれた。
「お前は親と喧嘩したのかも知れない。でも、喧嘩をした事自体羨ましいよ」
悲しそうな表情を浮かべる。
「俺なんて話すらまともに聞いてくれないんだ。父上は仕事ばかりで、母上は会えばいつも皇帝になれと言われる。兄上たちは俺を歯牙にも掛けず、宮廷の女供は俺の権力にしか寄ってこない。どいつもこいつも俺なんか見てくれないんだ」
溜めていたものを吐くように言われる。辛く悲しく疲れてか、どこか生気のない顔をしている。
「なあ、フレッド。お前は何で生きている」
今までの話を聞いておれは言葉を詰まらせる。
おれは親父が嫌いだ。でも、話や喧嘩はしてきた。お袋とも悪い関係ではなかった。兄弟とも関係は良好だった。そう思うとおれは恵まれていたのかも・・・
いやいや、それはない。
おれだって悩みはある。
実家を出てったものの冒険者には十五歳からしかなれない。たまたま殿下に拾われたから良かったが、出会わなければ今頃死んでいたのかも知れない。
そして、今おれの最大の悩みこそ、夢だ。
このまま仕えていくだけでいいのだろうか?
おれは何がしたい?
「おれが―」
「ぷっ、はははは」
おれが話しだそうとした瞬間、突然殿下が笑い出す。
「・・・またですか」
「ごめんごめん。まだ慣れていなくて」
手を合わせながら謝ってくる。おれが大事な話をしようとしたのにこの方は。
「本当にごめんって。未だにその語尾を上げる おれ が慣れなくて」
おれの地方訛りを面白そうに笑う殿下に、先程の悲しそうな表情は無くなった。
しかし、おれの中では先程の質問は消えていない。
殿下が生きる意味を探しているようにおれは自分の夢を探している。
実家と縁を切ってまでここにいる理由。いなければならない理由を。
『フレッド、本当に行くのか?今なら間に合うよ』
『フレッド兄!何で行っちゃうの!』
『おい、フレッド!おれらとの友情はそんなもんかよ!』
お袋、妹、故郷の友人。
彼らの言葉が頭に響く。
自分が決心して行動したことに今更ながら不安に襲われている。
「おい、フレッド。さっきの質問の答え聞かせてくれ」
一通り笑い終えたのか、真面目な表情で答えを促してくる。
「おれは・・・」
どう言葉をつむげばいいか分からない。
「おれは、自分の夢がありません。殿下は何か夢はありますか?」
おれが質問すると俯いて答えてくれる。
「俺の生きる意味を見つける、っていうのを夢というのか分からないがそれだな」
「そうですか」
おれや殿下にある心の穴。
「殿下、一緒に見つけませんか?」
おれは提案する。
「見つける?」
「ええ。おれは夢を、殿下は生きる意味を」
「どこで?」
「学園で」
「見つかるか?」
「見つけましょう」
殿下はフッと笑う。
「あいつも忘れているぞ」
「ああ、そうでしたね。ハンネス令息もでしたね」
学園入学は来月。おれらはそれぞれのために入る。
おれ、フレッド・ダ・ルースは夢を見つけるために。
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