第21話 思い

「さて、これからアルマー侯爵家を潰すための会議を始める」


僕の部屋に今いるのはアルス、セバス、オールドの三人。


「一つ質問よろしいですか、坊っちゃま?」


オールドが手を挙げる。


「何だ?」

「この事は、当主様はご存知なのですか?」

「それについては心配ない。父様は静観を貫くらしい。だから全ての責任はセバスが背負う」

「はっ!」


セバスが短く答えるように返事をする。


僕が責任を全て被るべきだって?おいおい、馬鹿言っちゃいけないよ。そんなの部下に押し付けるのは当然だろ!


それにまず、子供の僕がそれを背負えるはず無いじゃないか。


「しかし、坊っちゃま。本当に潰しに行くんですか?」

「ん何?何か不満か?」

「いいえ。ただ不安です。仮にも相手は侯爵家です。簡単にはいきません」


オールドは諭してくるが、彼自身潰せないとは発言していない。ただ、不安であるとしか言っていない。


「潰せるから潰す。僕だって無謀なことはしないよ」

「それならまあ、いいですけど」


僕に反対意見など、言語道断だ。


「ルイ兄様、発言いいで―」

「却下だ」

「何で!」

「冗談だ。発言は何だ?」


頬を膨らませながらアルスは質問してくる。


「どうしてあの奴隷を助けるような事をなさるのですか?」

「助ける?これは、僕の奴隷を奪おうとしたことへの報復だ」

「それでも、潰す必要は無いように感じます。あくまで奪ってきたのはダン令息です。その家にまで報復する理由はありません」

「・・・・・・」

「ですから、もしかするとあの奴隷の為にかと」


・・・そう言われて、確かに自分の主義に反することだと我ながら思う。


レーナが元伯爵令嬢とはいえ、今は僕の奴隷。しかも本来、敵になるはずのやつだ。


たかだか奴隷を奪われそうになったからといって、侯爵家を潰すという行為は確かにおかしな話だ。


アルスが推測するように、僕がレーナに恋をしていて、彼女のために彼女ら一家を陥れた侯爵家を取り潰すというストーリーの方が、筋書きとしては納得いくかもしれない。だから、疑問に思われても仕方ない。


しかし、別に僕はレーナに恋をしてるわけでもなく、助けようとしているわけでもない。


「そうだな、敢えて言うならレーナを救おうと思ったんだ」

「「「???」」」


三人とも意味が分からず首を傾げた。


まあ当然、そういう反応をするだろうな。


本来家柄、血筋、身分が絶対!何て言ってるやつが奴隷を救うなどと発言しているのだから。


もう一度言うが、これは自分の主義に反する行動だ。


だが、レーナには前世の僕と似た部分があった。


家に恵まれながらも僕と違った形で落ちぶれてしまい、持っていたものを全て奪われ、親にも捨てられる。


レーナと僕で唯一違うとしたら生への固執。


前世の僕は生を求めながらもすでにどこかで諦めていた。そりゃ〜そうだよ大人なんだから。いくら甘い言葉で励まされたって、現実ぐらい自分で見分けられる。


だが、レーナはまだ生に固執している。どこかでいつか自分は救われると願い信じている。もう大人だった僕と違い、まだ子供だから夢見がちだし現実も知らない。でも、それでいいんだ。




自分みたいにはなって欲しくない。




こんなガチガチの思想を持つ僕みたいな奴にはなって欲しくない。



第二の人生を生きている者として、前世での後悔は悔やんでも悔やみきれない。


せめて、レーナには、僕と似たような奴には、子供には、




救われてほしい。




それがたぶん、僕の中に残っている唯一の善意。


三度繰り返するが、これは自分の主義に反する行為だ。


だが、それでも救う価値はあるかもしれない。


もしかすると救ったことで僕に忠誠を誓って・・・


そうだ、僕は利己的に、打算的に救うんだ。侯爵家を潰すんだ。


そう自分に言い聞かせるように言う。


「さて、とりあえず本題に移る。作戦はいたって簡単だ。証拠を相手に突きつけて自白させ、そのまま裁判に掛けて取り潰す。正攻法だ」

「そんなに上手くいくのですか?」

「心配ない。上手くやる。セバス、証拠は?」


セバスを見ると自信満々そうな顔を浮かべている。


「既に頼まれた奴隷商人、不正な金の動き、アルダリース伯爵家を陥れた実行役の貴族の証言も取れました」

「よろしい。では潰しに行く。出立だ!」

「「「はっ!」」


公爵家の下の身分のくせに、いい気になっている愚か者を蹴り倒してやる。

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