第20話 決断

不法侵入をしてきて決闘を挑み、一瞬で負けて牢に入れられたキザ野郎、もといいダン・デ・アルマー。


事情聴取やら何やらで数日経ち、やっと報告を受けた。


「セバス、どうだった」

「思っていたよりも、裏がありました」


顔を顰めながら言う執事。


「詳細を」

「はい」


そう言ってセバスは分かったことを全て話し始めた。


聞いていると、事が思ったよりも複雑だと理解できた。



事の発端は二年前。


レーナに一目惚れしたダンが告白して一刀両断されたことに始まる。


そのせいでダンは引きこもりがちになった為、アルマー侯爵家はアルダリース伯爵家にレーナとの婚約を迫る。

それが断られると、怒った侯爵家は伯爵家に不満を持っている貴族と手を組み、不正をしたとしてでっち上げたらしい。


いや、小説内のルイやないかい。


没落した伯爵家はレーナを売り、侯爵家はそれに目を付けた。

息子の元気を取り戻すためにレーナを買おうとしたが、直ぐに買ってしまっては疑われるかも知れない。

だからレーナを買った奴隷商人に、一年間何処にも売らないように約束し、一年後何処で売買するかの情報を流すようかなりの額を払ったらしい。

公都で売買が行われ、侯爵家お抱えの商人がレーナを買って献上した、という筋書きにしようとしたらしい。


だが、ここで問題が発生。


そう、僕だ。


あろうことか本当にたまたま公爵家の僕が買ってしまったことで計画は崩れた。

だから帰りがけに襲われたのだ。


そして、さらにめんどくさいのがダンによる盛大な勘違い。

父親より、大きな陰謀に巻き込まれてレーナの家が没落したと吹き込まれて、レーナを買ったことでその陰謀の源こそルイだと解釈してしまったらしい。


好きな人が悪い奴に嵌められ奴隷となる。

それを颯爽と助けるヒーロー。

そして二人は結ばれる・・・。


そんな筋書きを夢見たんだろう。


今は牢屋に捕らえているが、僕を悪だ悪だと騒いでいるらしい。めんどうだ。


「はぁ〜、大体分かった。レーナを呼んで来い」

「はっ」


話を聞き終わって、指示を出す。


本当にめんどくさい陰謀にいつの間にか片足を突っ込んでいたよ。


 コンコンコン


「入れ」

「失礼します」


怯えるように体を震わせ、入室してくる。


「申し訳ありませんでした」


入ってきて直ぐにレーナは土下座をした。


それを椅子に座って僕は見つめる。


「わ、私のせいでルイ様にた、多大なご迷惑おかけしてしまいました。も、申し訳ありませんでした」


か細い声で小さな声で、体が震えながら謝ってくる。


奴隷としては主に迷惑を掛けるのは万死に値する。


「僕は怒っている」

「ヒッ!」


僕が言うとレーナは声を上げる。何をそんなにビビる?


いや、恐いのだろう。


奴隷だからこそ何をされてもおかしくない。


何かにずっと怯えて生きている。どんどん自分を奪われていく。


前世とはまた違う、しかし似た思いをしているのかもしれない。


目の前にいるのはまだ十一の女子。


「ど、どんな、ば、罰でも受けます」

「何を勘違いしている。僕が怒っているのはアルマー侯爵家に対してだ」

「・・・へぇ?」

「僕の所有物を奪おうと盾突いた。それが腹立たしくてならない」


顔を上げ、驚いた表情を浮かべるレーナ。


「僕はこの世界でも色々なものを持って生まれた。家柄、才能、金、部下。それを奪われるのは嫌いだ」


前世のような惨めな思いはしたくない。手に入れられものは全てを手元に置く。誰にも取られたくない。


「レーナ。お前は家族の復讐がしたいか?」

「・・・はい」

「だったら早く支度をしろ。これからアルマー侯爵家を潰しに行く」


僕に盾突いたこと、奪おうとしてきたこと、迷惑を掛けたこと。全てを後悔させてやる。

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