2 装備を整える

 自宅をひっくり返して食事のできる器具を探してみた。

 炊飯器。これはいい。

 電子レンジ。文明の利器だ。

 電気ケトル。いいね、温まる。

 鍋。フライパン。いいじゃない。

 そこで気がついたのだが、ガスを捻ってもコンロに火が点かない。いつからそうなっていたのか記憶にないが、これでは温める文化機械は電気製品ばかりになってしまう。

 あっと思って、まな板と包丁を取り出してみると、包丁が刃こぼれしている。

 全く錆びてはいないから、ステンレス製でしばらく使っていたのだろうが、いつの間にこれだけ使い込んだのだろう。

 食事を取り揃えるとなると、食材を準備する前にこれだけの装備品を新調せねばならない。かつては俺も駆け出しの食事を作る戦士だったはずなのだが、すっかり装備の仕方を忘れてしまっている。

 そう考えると、食事をするために、というか作るために、わざわざ装備を整えて、食材を買い揃え、皿を準備し、食べて、洗って、また次の食事フェイズを考えるというのはなかなか大変だ。そもそも仕事の合間に食事フェイズを作るとなると、そのために装備を・・・ということを考えていられるのだろうか? だがここで俺は考えを脱線させ、重大なことに気づいた。大体仕事なんて飯を食うためにやっているのだ。むしろ食事こそメインであるはずだ。仕事の方が人生のメインになって食事フェイズがメインフェイズになっていないのは生物としてはお辛い限りだ。仕事の方にメインフェイズを置く方がバカなんじゃないのか? いや、時間を割いてもいいのだが、元々は生命を維持するための仕事なんだから、一番生命を維持するフェイズが充実していいわけじゃん。だから逆に仕事中に食事の準備をし続ければいい訳である。

 つまり、生命維持フェイズとその他準備フェイズってわけだ。

 すげえ、天才の気分になってきたな。

 で、フェイズって何?

 とりあえず、空いた時間に俺は食事の装備品を買い出すことにした。

 そこで俺は改めて、いかに食事の装備が多種多様なのか思い知った。

 包丁の種類、多すぎる。

 だが、これは仕方ない。ほとんどの食事戦士にしてみれば、包丁選びは獲物が決まってからするものだ。でかい木を倒すのか、細い枝を払うのかで使う刃物は変わる。ところが素人にしてみれば「これで肉や魚に大ダメージ!」とか「野菜を一撃必殺!」とか書いてないとさっぱり分からない。(ただ、ダメージを与えたら食材を傷める印象を与えるかもしれない)

 俺もすでに一度食事の準備(料理ではない)をやったが、結局、その時の経験から何で選んだのかさっぱり覚えていない。とりあえず適当にあまりに長くないやつを手に取った。多分、長剣を振り回すにはレベルが高くないとダメだ。

 それからなにが必要なのか、考える。

 食事を自分で作っていて、一番面倒なのは洗うことだが、次に面倒なのはこぼすことだ。とにかく食事はこぼれる。これを拾うのも嫌だ。俺は木製のトレイを購入すると、そのまま小脇に抱えた。その場で装備できないのが残念だ。包丁とトレイを持っていたら、割とそのまま闘えそうな気がする。

 だが、包丁を買ってきてもまったく何を作りたいのか思い浮かばない。

 その日、俺がそそくさと職場を後にすると、盛んに焼き鳥の話を同僚がしていたのを思い出したので、焼き鳥を買って帰った。

 炊飯器でご飯を炊いて食べる。

 ふと思い出して、夜中までやっているスーパーで、牛乳を買って戻ってくる。

 そこでようやく包丁を使っていないことに気がついた。

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