第2話
翌月。ぼくはコンビニでメンズノンノを立ち読みし、ぼくの写真を探した。しかしストリートスナップの一覧にそれはなかった。カットされたわけだが、別に何の感情も湧かなかった。しかし、あの編集者とはもう一度会ってみたいと思った。ぼくは彼女の名刺に記載されているメールアドレス宛に連絡した。そして翌日に返信が来た。来週の日曜日なら空いているとのことだったので、その日に会う約束をした。
ぼくはアディダスのナイロンジャケットにブラックのサルエルパンツを履き、スウェードのスニーカーを合わせてデートに臨んだ。原宿駅前で定刻通りにぼく達は集った。彼女ーーユイさんはブラックのニットにグリーンの総柄スカート、黒タイツを履いてグッチのパンプスを合わせていた。「今日はお忙しい中ありがとうございます。ではランチにでもしましょうか」とぼくは提案した。「そうですね」とユイさんも承諾し、ぼく達は表参道へ歩き出した。
手頃なカフェに入りぼく達はピザとアイスコーヒーを注文した。「あなたの写真、カットしてしまいすみませんでした」とユイさんが謝罪した。「ああ、構いませんよ。それほど承認欲求が高い方ではありませんから」とぼくは返した。「それにしてもファッション業界も変わりましたね。ぼくにはモデルも服もみんな同じに見えます」「そうなんですよ。読者はみな『無難な』スタイルを求めているようです。ラディカルなハイブランドには手を出さない。zozotownを見てもどのブランドも似たようなデザインの商品しか提案していません」ぼくは、このひとは話せる
ぼくとユイさんは、ファッションを抽象的に考えている者同士で意気投合した。ぼくはユイさんに性的欲望を感じなかった。なぜなら同じ「男」同士だったから。ぼく達は日が沈むまで語り合って、解散した。
帰宅したが、今日はマスターベーションをする気は起きなかった。日常的な雑事をこなして、早めにベッドに入り今日の討論を反芻した。いかにしてひとは自己愛に目覚めるのか。ここでもまた愛とはそもそも何なのかという問いにぶつかった。ラカンが言うように、愛とは手にすることができないものだからこそ美しい、のだろうか。ではアスカのフィギュアは何なのか。愛の対象の所有ではないのか。そうだ、フェティッシュだからだろう。ならばフェティシズムこそ自己愛の現れなのではないか。ぼくは考察が進んだことに満足し、やがて眠りについた。
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