第22話:悪しき手紙




 平和で長閑のどかな聖女の街に、ある1通の手紙が届いた。

 風魔法の一種である鳥に姿を変えた手紙が、街の結界に弾かれて川向うに落ちた物を、商人が拾ったのだ。

 拾った商人が橋を渡る時に、やはり結界に弾かれ、外に飛ばされた。

 商人はそれを騎士団へと報告して来たのだ。


 親切な商人達は、何人も同じ事をしたらしく、何件もの報告が騎士団へと上がってきた。

 未だに手紙は街の外へと落ちている。


「結界が越えられないということは、悪意のある内容ですね」

 どうしましょう? と団長補佐官が首を傾げる。

「面倒だから、オリヴィエに任せよう」

 団長の言葉に、それは良い考えですね! と補佐官も頷く。


 それを騎士団の執務室の自席で、オリヴィエ・クラルティは聞いていた。

 その横では、嫌そうな顔を隠しもしない副団長補佐官が書類を整理している。



 そろそろ自国であるアフェクシオンへ戻る準備を始めようと、引き継ぎの書類を整理していた騎士団は、最近は森で魔物の討伐をしていない。

 森からは出て来ないので街に影響は無いが、うっかり他国の商人が入らないように、街に居着いた傭兵や冒険者に管理を任せるつもりだった。


 小さく息を吐き出して立ち上がったオリヴィエは、机の上の書類をトントンと整えてから、団長の席へ行く。

「では、私はその悪意ある手紙を確認して来ますので、後はよろしくお願いします」

 手に持った書類を、団長の机の上に置く。

 それを見た補佐官も「よろしくっす~」と団長補佐官へと手渡した。


「うぇ!?」

 目の前に書類の山を置かれた団長は驚いた顔をしたが、書類を渡された団長補佐官は笑っていた。補佐官の方は予想していたのだろう。

 普段、書類仕事から逃げようとする団長への良いお仕置きになるくらいは思っていそうな笑顔だった。




 川を越えた先に落ちている手紙は、何度も結界に弾かれたからかひしゃげていた。

 結界に弾かれる程の悪意ある内容を込められた手紙とは、どこから来たのだろうか。

 呪いなどが込められていないのは、既に妖精が確認している。

 オリヴィエは手紙を拾って、納得した。


「アッロガンテ王国国王の封蝋だよな」

 溜め息と共に封を開ける。一緒に確認した補佐官も頷いた。

 本来はミレーヌに届けるべき物なのだろうが、何せ手紙が結界を越えられないのだ。結界の外で内容を確認するしかない。


「あぁ、この街はアッロガンテ王国の土地だから、大人しく明け渡せと。それが嫌なら、当初の予定通りに国王と婚姻してアッロガンテに籍を置け?!」

 内容を確認したオリヴィエは、何度も内容を読み直し、確認した。補佐官のテレンスにも何度も読ませ、同じように内容を理解している。自分が読み間違えているのでは無いようである。

 そして納得する。


「この内容では、創造神シャッフェン様の怒りに触れて、結界を通らないわけだ」

 さてこの手紙をどうしようか。

 そう思った時には、手の中で手紙が燃え上がっていた。

 創造神は、その手紙の存在自体を許せなかったようだ。いや、この場合は妖精王だろうか。

 どちらにしろ、内容を確認しないで破棄したら、ミレーヌの評価が下がるかもしれないと我慢したのだろう。



「とりあえずミレーヌ様に内容を伝え、予定より早く街を出る準備をしなくては」

 フワリと風魔法で浮かび上がったオリヴィエは、そのまま川を越えて街へと戻った。

 着地してすぐに身体強化を掛け、街まで走る。

 テレンスは自身に身体強化を掛けて!川を飛び越え、オリヴィエに並走している。


「ミレーヌ様へ報告。団長……というより、補佐官のアルフレッド様に報告。アフェクシオンの陛下と殿下に報告。妖精王様は……知ってるだろうな」

 走りながら自分のやるべき事をブツブツと呟いている、少しだけ苦労性のオリヴィエだった。




「まぁ、残念ですわ。アッロガンテ王国の食料事情などを解決してから国に帰りたかったのに」

 オリヴィエを伴った団長のガストンから話を聞いたミレーヌは、本当に残念そうに肩を落とした。


 魔物の全体の数自体は、かなり減っていた。ただ、生息場所が王都付近へ移ってしまったが。

 それをミレーヌは、知らない。


 魔物によって荒れ果てていた辺境を豊かにする事が、自分がこの国アッロガンテに出来る最大限の事だと思っていたし、実際に他に出来る事は無い。

 その存在自体が土地を富ませる聖女は、婚姻を断られた時点でアッロガンテ王国の為に出来る事など、大して無いのだから。



「今住んでいる傭兵や冒険者は、そのまま街に残って森の管理をしてくれるそうです。勿論強制ではないので、彼等の意思ですよ」

 オリヴィエが報告を続ける。

「魔牛はアッロガンテ王国民には育てられないだろうから、うちの補佐官が責任持って転送するそうです」

 ミレーヌの脳裏に、魔牛と力比べをしていた補佐官の姿が浮かんだ。


「牛も希望者がいなければ、転送します」

 冒険者や傭兵が畜産をするとは思えないので、おそらく全部連れ帰る事になるだろう。

 畑はそのままにするしかない。

 もしアッロガンテの国民が引き継ぐならば、それでも良いとミレーヌは思っていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る