所変われば品変わる―後悔しても、もう遅い―

仲村 嘉高

第0話:プロローグ



「お前は聖女じゃなかったのか!?」


 小国アフェクシオンから、大国アッロガンテへ嫁いだ第二王女ミレーヌ・デュルフェ・アフェクシオンは、夫になるはずだった国王サロモネ・マストロヤンニから、怒鳴られた。


「私は確かに、自国では聖女と呼ばれておりました」

 戸惑いながらも、ミレーヌは答える。

 そもそも、なぜ相手が怒っているのかも判らなかった。自分はぜひにと請われて嫁いできたはずなのだから。


 ミレーヌの言葉を聞いても、サロモネの怒りは収まらない。

「それならばなぜ、治癒魔法が使えないのか!」

 婚姻誓約書に記名サインする為に置いてあったペンとインク壷を、勢いよく払い落とす。


 飛んだインクは、ミレーヌの真っ白なウェディングドレスに飛び散り、広範囲に黒い染みを残した。



「こんな結婚は無効だ! 聖女を寄越せと言ったのに、ニセモノを寄越しやがった! 大国アッロガンテを舐めているのか!?」

 祭壇の前にミレーヌを残したまま、国王サロモネは神殿を出て行ってしまった。


 残されたミレーヌと神司しんしは、茫然と扉の方を見ていた。

 神司の手元には、称号確認の為の水晶玉があり、そこには『愛されるもの』とあった。


 アッロガンテ王国での聖女とは、ここに『治癒魔法を使うもの』と出るのが通常だった。

 その為に、サロモネはミレーヌを「ニセモノ」と呼んだのだ。


「治癒魔法など……」

 ミレーネは呟く。

 神司はその呟きを聞き、哀れみの視線を向けた。

 その後に続く言葉が「使えるわけが無い」だと思ったからだ。



 アッロガンテ王国内だけの宗教であり、国教のクレーデレ教の神司は知らなかった。

 聖教国グラウベンに教皇が居る、世界的に信仰されているクロワール教では、ミレーヌは確かに聖女に認定されていた事を。



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