考えすぎシグルスのグダバタ冒険記!!
春 楓
考えすぎ人間 : 一通の手紙の場合
手紙が届いた。
いきなりである。今年で17になるらしいが、自分あてに手紙が届くというのは初めての事で現在不思議な気持ちになっている。
「誰からなんだろう...?」
外側は妙に綺麗なのに中身に入っている紙はなんかボロいしちょっと汚い、なんだこのちぐはぐな手紙は。
「シグルス・リアス宛てだって言われたもんだから、てっきり知っていると思ったんだが誰からか知らんのか」
「はい、全く心当たりないです」
目の前にいるこの人は俺を5年前に受け入れてくれた村長のリーバさん。
父さんの知り合いらしくて今はなんか色々とあって家族と離れることになった時に快く受け入れてくれた恩人のような存在だ。
なんやかんやというのは......5年前...いや、実際には6年ぐらいか?
まぁ、それくらいの時の出来事で。俺たち、ラグナ家は本当にごく普通の家庭だったんだ...なんならあの時期はファルス王国が盛り上がってきていた時期でその恩恵にあやかって結構裕福なぐらいだったんです...
でもその時期って同時に詐欺も流行ってきていたらしくて...まぁその、まんまと両親が引っ掛かったって訳なんですよ...うちの両親は引っ掛かるような感じじゃなかったんだけど、「息子さんの為になりますよ!」なんて言われたらしくて今に至るって感じです。とほほ...
「おい、おいシグ!」
「...っはい!」
久しぶりに最悪な過去を思い出して感傷にひたっているとリーバさんから呼ばれてハッと意識を戻す。
「これ、宛名お前の父親だぞ!ほら」
「えっ!?本当ですか!?」
そういってなんだかボロい手紙の内容に目を通す。
「親愛なる息子へ レグナ...って本当に父さんじゃん!でもなんで急に...連絡は取れないだろうって言ってましたよね?」
長い間連絡は取れなくなるだろう、というのは俺とリーバさんが父さんから直接聞いたことだ。
「あぁ、俺もそうだと聞いていた。だが手紙を寄こしてきたという事は状況が変わったって事じゃないのか?」
「そうかもしれないですね、いい報告であるといいんですけど...」
まだ、いい報告だとは手放しに喜べないのが現状だ。さらに借金が増えたとかの可能性も大いにある。大いにあって欲ほしくは無いけど。
よし、と一人覚悟を決める。
「なになに...『親愛なる息子、シグ。まずは長い間連絡も寄こせなくてすまないと思っている。近況としては借金云々に関しては何とかなりそうだ。』ってことは...」
「あぁ、もしかしたら近々会えるかもな」
そういうリーバさんの顔は嬉しそうな表情だ。
「はい...」
ついに...ついにこの将来への不安から解放されるのか...この手紙を読んで親不孝のように思えるが真っ先にこれが思い浮かんだのが正直な所である。
いやでも待て待て...まだ手紙は終わっていない。まだだ、まだ笑うな...
そう言いつつもおそらく感情を隠せていないと思う。
「えーっと...続きは...『で、だ。ここからが今回の本題な訳なんだが...借金云々に関してはなんとかなりそうなんだが、また別問題が出てきてしまってな...悪い!簡単に言うと母さん共々捕まって良く分からない施設で良くわからない物の為に強制労働させられている!』....だっ...て?はい...?」
「シグ...まぁ...ウチにはいくらでも居ていいからな...」
そんなリーバさんの慰めが何かとてつもない感情を解放しようと震えている俺の耳には届くはずもなく俺は
「なんでだよぉおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉお!」
と最近は大きくなってきた村の中心で感情を解放した。
人生ってのは思っているよりも上手くいかないものだという事をこの年で再認識させられた。
「そういえば、その手紙まだ続きがあるんじゃないか?」
「はい、まぁまだあったと思いますけど...」
何とか落ち着きを取り戻して手紙に再度目を通す。持ち手にはさっきのせいでしわが寄ってしまっているが読めはするだろう。というか、さっきいろんな感情が渦巻いていたとはいえ大声で暴走してしまったのを思い出すと恥ずかしい。うおおおお何やってるんだ俺は...といった羞恥心が言葉になって再解放される前に強引に手紙へと意識を向ける。
「...『本当にすまん!ただでさえ迷惑をかけているのにさらに迷惑をかけてしまって親失格だとは思っている。現在俺と母さんはさっき書いてある通り、良くわからない場所で働かされている。母さんに関しては生存確認はできているが、一緒にはいられない状況だ。何度かこの施設から脱出しようとした連中もいたらしいが、その次の日には帰ってこない奴が大半だそうだ、帰ってきてもなんだか心ここにあらずという感じで次の日には連れていかれてしまうらしい。おそらく歯向かったものに対しての見せしめなんだろう。読んでいて感じたかもしれないが要はどうにもならない状態なんだ。そこで、だ。申し訳ないとは本当に思っているんだが...シグ、危険なのはわかっている。だが、お前にこの状況を打破する為に手がかりを集めてほしいんだ。他の奴もこんな手紙を送っているがこちらからは届いたかは把握できない。勿論この手紙も同じだ、届いているかは俺たちからは分からない。こっちでも何とか頑張ってみるが、危険でない範囲でいい。リーバに頼っても良いと思う。あいつは強いし頼りになる。どうにか打破するきっかけを俺らに与えて欲しい。よろしく頼んだ。』と...これで内容は終わりみたいですね」
「そうか...はぁ、レグナの奴...」
読み終わって手紙にも出てきたリーバさんの様子を見てみると、俺の今の感情を表したような険しい顔をしていた。
「シグ、すまないお前の為に手伝ってやりたい気持ちは山々なんだが...」
「そうですよね...最近忙しいのは見てて分かります」
そう、最近村が大きくなってきたのもあって近くの街や村と色々めんどくさいことになっているらしく、つけてもらっていた稽古も最近は出来ていないといった状態なのである。
「家族が危ない可能性がある中なのに申し訳ない」
「いやいや頭を下げないでくださいって」
そう言ってもう一度手紙に目を落とす。といっても目を落としたのはもう一度手紙を読むためではなく思考に入る為だ。
「その代わりにはなるが、俺から手伝えそうな事なら...って、これは...また始まったか...」
「まず考えなければならないのはこの手紙が本当に父さんからの物であるのかという事だろう、現代なら字の偽装ぐらい魔道具でなんとかなりそうか?いや待て待て、良く見てみろこの絶妙な字の癖の強さは父さんの字だ、魔道具でここまで再現できるものだろうか、いや待てよ!?違うこの手紙にもある通り脱獄しようとした連中は心ここにあらずといった感じになるとあったが、まさかこれは父さんが操られていて俺をおびき寄せるために書いているっていう罠!?そうか、その可能性があったか...おそらくこのまま手紙の通りに行くと最終的には俺はまんまと罠に引っ掛かり最終的には家族仲良く死ぬまで強制労働送り!?いやま...」
「シグ、一旦落ち着けええええええええええい」
「てええええええええええええ!!?」
世界が...まわ...るるるるるるるるるるる
深く思考に入っていたら急に視界が1回転いや、多分3回転ぐらいした。多分これまたやってしまったやつだ。
「ちょっとぉ!俺が悪いのはわかりますけどそんな本気で叩かなくても!!」
「いや、今のはちょっと風魔法を乗せただけだ。稽古をつけていた時と同じぐらいの威力のはずだが...」
「絶対違う!」
風魔法を乗せたビンタを受けて赤くなった頬を抑えながら抗議する。
「...それはそれとしてだ」
「ちょっとぉ!誤魔化さないでくださいよ!受けた方の心の傷は」
「一生癒えないんですよ、か?受けたのは治る傷だろうが。まぁシグ、一旦落ち着け。お前のそのすぐ考えすぎて自分の世界に完全に入り込む癖を直せ、こっちは大変なんだぞ...」
「それは本当に申し訳ないと思っています...」
そう俺は5年前に自分ではないとはいえ騙されてしまったのをきっかけに考えすぎるようになってしまったのである。稽古中にもその弊害が出てるらしく迷いが出ているとよく言われていた。この頬に残る痛みは稽古終わりのリーバさんからの
助言の際にもこの超思考状態が発動してしまいよくやられるので馴染み深いものだ。
どうにか直さないとなぁ...とほほ...と
頬を抑えながらそう思った。
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