ツキまくりトライアングル ~恥ずかしいところを見ちゃってごめんなさい。今日から始まる僕の憑依生活

大井 愁📌底辺貴族の雑魚悪役

ツキまくりトライアングル

第一章 人間やめますか?

第1話 一部屋に一台の時代ですよ。

「――和博かずひろクン。寝てるなら、私もご一緒させていただいて良いかしら?」


 憧れの谷川さんが目の前で、優しく僕の名前を呼びながら添い寝を始めた。

 僕の目の前に横たわった谷川さんは、ちょっと唇を突き出したらキスができそうなほどの至近距離で微笑む。


「えっ? えっ? ち、近いですよ……」

「当たり前じゃないの。私が和博クンに近寄ってるんだから」


 彼女の名前は谷川たにがわ 美和みわさん。

 肩甲骨まで伸びた長いストレートの黒髪で、涼し気な目元にほっそりとした輪郭、透き通るように薄くて小さい唇の、お嬢様タイプの美人。

 その上、二年なのに生徒会長を務めてるんだから、うちの高校でも人気が高いのは言うまでもない。

 何を隠そうこの僕、久山ひさやま 和博かずひろもあわよくばと夢見ている一人だ。

 普段は澄ました態度で、他人を寄せ付けないオーラを醸し出している彼女。

 そんな彼女が潤んだ瞳で僕を見つめながら、吐息交じりで誘惑してきた。


「んふっ……男の人を自分の部屋に入れたってことは……わかるでしょ?」

「えっ、でも僕なんかで、ほっ、本当にいいんですか?」

「いいに決まってるじゃない。ふふっ……証拠を見せて、あ・げ・る」


 ブラウスのボタンに手を掛けて、一つずつ外していく谷川さん。すぐに胸の谷間が露わになって、真っ白なブラジャーが姿を現していく。

 ゴクリと喉を鳴らして唾を呑み込む僕。心臓がバフッバフッと破裂しそうなほどに脈打って、送り出された血液はそのまま股間へと流れ込む。


「そ、そんなことしたら、見えちゃいますよ……?」

「ふふっ、見えちゃうんじゃないの……見せてるの」


 ブラウスのボタンをお腹まで外した谷川さんは、丸出しになったブラジャーの中央部分を掴むと、ゆっくりとずり上げ始めた。

 からかうような、谷川さんのいたずらな微笑み。

 ズリ上がるブラジャーは、その柔らかそうな胸の膨らみを次第次第に露わにして、頂点にあるはずの肌の色が変わる部分が今にもこぼれ出しそうだ……。


 ――ぷるるん……。


 まるで豆腐かプリンのように、おっぱいが震えながらブラジャーから飛び出す。

 そして、その大きな膨らみの頂点には……。


「えっ? 乳首は……乳首はどこ!?」


 乳首が見えない。それに、一体なんだ? この霧のようなモヤは。

 くそっ……この現実味のないシチュエーションは、間違いなく夢だ。

 しかも肝心の乳首が見えないなんて、これが童貞男子高校生の妄想力の限界か。

 僕は夢の中で、自分の経験不足からくる無力さに失望した――。


§


 それは、ついさっきのこと…………。

 うだるような暑さの中、谷川さんの家を訪ねた僕は胸の内で狂喜乱舞した。

 

「どうぞ。遠慮なく座って?」

「はっ、はいっ……。でもここって、谷川さんの部屋なんじゃ……」

「ええ、そうよ。散らかってて、ちょっと恥ずかしいんだけど」

「そんなことないですよ。完璧に片付いてるじゃないですか」


 僕は今、全校生徒が憧れる谷川さんの私室に足を踏み入れている。

 ただそれだけのことで全身に鳥肌が立つほど感動して、プルプルと身震いした。

 純情可憐な谷川さんのことだから、きっとこの部屋に入ったことがある男性なんて父親だけだろう。いや、父親さえも立ち入らせないかもしれない。


「今日はごめんなさいね。お勉強を教えて欲しいだなんて、無理を言ってしまって。久山君は物理が得意だって聞いたものだから」

「あ、いや、僕なんかでお役に立てるんなら……いくらでも」


 冴えない僕が、みんなの憧れである谷川さんと会話するなんておこがましい。

 ずっとそんな風に考えていた僕は、せっかく彼女と同じクラスなのに指をくわえて見ているだけだった。そう、向こうから話しかけられたあの時までは……。

 谷川さんから声を掛けられたのは一昨日のこと。『明後日の土曜、お勉強を教えてもらえないかしら? 久山君の幼馴染の、大崎おおさきさんも一緒なら安心でしょ?』という谷川さんからのお誘いを、僕は二つ返事で受諾した。


「大崎さんもすぐ来るはずだから、もうしばらく待っててちょうだいね。私はお茶を淹れてくるわ」


 そう言い残した谷川さんは、清純なイメージにピッタリの水色のロングスカートを翻して部屋から出て行った。

 トントントンと、階段を駆け下りていく小気味のいい足音。

 その足音が遠ざかったのを確認した僕は、身体をほぐすために大きく伸びをする。


「くぅ……緊張するなぁ……」


 やっぱりソワソワと落ち着かない。この空間は僕には場違いすぎる。

 広さは僕の部屋の倍ぐらいで、床はフローリングで壁は真っ白。本棚や机は白地に木目調の天板で統一されている。

 そんな中で存在感を放っているのが、窓際に置かれているセミダブルのベッド。

 大きめの枕は、はち切れそうなほどに膨らんでいてとっても柔らかそう。あそこに顔を埋めたら、絶対にいい匂いがするはずだ。


 ――チチッ、チチッ……。


 部屋に響いた鳴き声は、銀色の鳥かごで飼われている文鳥。くちばしだけが朱色で気品のある真っ白い体は、飼い主の谷川さんに似て清楚な感じ。

 きっと、谷川さんの指に留まって餌をついばむんだろうな……羨ましい。

 そして僕の背後には、監視員のように突っ立っているスティック型の掃除機。家で使っているものと同じ型式だったので、突然親近感が湧き上がる。

 でも自分の部屋に掃除機を常備なんて、彼女はどれだけ綺麗好きなんだろう……。


「これで、博美が来なけりゃ最高なんだけどな……」


 博美というのは、僕の幼馴染の大崎おおさき 博美ひろみのこと。谷川さんは、僕に安心感を与えようと博美も呼んだらしい。

 きっと谷川さんは、異性の部屋に一人で招かれたら僕が不安に感じると思ったんだろうけど、それは女性ならではの発想。残念な気遣いでしかない。

 はぁ、谷川さんと二人きりで語らいながら、親睦を深めたかった……。


 博美とは小学校から時々クラスが一緒で、家も近いから付き合いも長い。

 でも、顔を合わせるたびに罵倒されるわ引っぱたかれるわで、僕にとっては天敵のような存在。むしろ博美が来る方が、僕にとっては不安が増す。

 そんな博美も今年はまた同じクラス、これは腐れ縁というやつだろう。


「それにしても間近で見る谷川さんは、やっぱりものすごい美人だなー、マジ天使。その証拠に、こんなところに天使の羽根が……なーんてね」


 カーペットの上に落ちていた鳥の羽根を拾い上げた僕は、バカなことを考えながらゴロリと寝ころんだ。

 すると、今まで鳴りを潜めていた睡魔が、緊張が緩んだ途端に激しく襲いかかる。今日が楽しみすぎて一睡もできなかった昨夜のツケが、今頃になって回ってきた。


「やべぇ……。寝たらもったいないぞ、目を覚ますんだぁ……」


 頬をつねって必死に抗ってみるものの、その力もすぐに抜けていく。

 睡魔に敗北を喫した僕のまぶたは、あっという間に塞がってしまった……。


§


「――ああ、そうか。そこで寝たから、僕は夢を見てるのか……」

「ふふふっ、和博クン……触ってもいいのよ? 私のおっぱい」


 夢だとわかっていながら、なおも挑発的な上目遣いで僕を見上げる谷川さん。

 ああ……もうこうなったら、この夢をとことん楽しむだけだ!

 乳首が見えない乳房を触ったって感触なんて期待はできないけど、僕は谷川さんを抱きしめながらおっぱいに手を伸ばす……。


 ――コツン。


 伸ばした手に硬いものが当たって、その痛みでフッと夢が途切れた。


「ん? なんだこれ? あぁ、掃除機か……」


 伸ばした手の先にあったのは、白い掃除機の吸い込み口。

 なんてこった。最高の夢が醒めちゃったじゃないか……。

 片目だけ開いてそれを確認した僕は、また魅惑の世界に舞い戻るために、まぶたをゆっくりと閉じていく……。


『ああ、谷川さん……どうか再び、僕をあなたのお傍に……』


 すぐ夢に戻ったのが幸いしたのか、それとも願いが叶ったのか、谷川さんは今なおおっぱいを丸出しにして、僕の目の前に寝そべったまま。

 だけどその表情は少し険しくて、開いた口で僕を叱りつけた。


「ちょっと……もう、脅かさないでちょうだい、こんなところで寝てるなんて……。ビックリして、せっかく持ってきたクッキーを落としちゃったじゃない」


 ああ、谷川さんが戻ってきたのか。それにしても、いい夢だったな……。

 夢の欠片が少しでも残っていないかと、淡い期待を抱きながら目を開く。すると、僕の目の前にあったのはフローリングの床の木目模様だった。

 ああ、格好悪いところを見られちゃったな。すぐに起きないと……。

 だけど僕は、自分の体の異変に気づく。


 ――金縛り!?


 僕は両腕を真横に揃えて気をつけの姿勢。

 だらしなく開いた口は閉じられず、首も全然動かない。

 まだ夢を見ているのかと困惑していると、そこへ谷川さんの声が聞こえてくる。


「ちょっと久山君、どうしたの? 熟睡してるのかしら。仕方のない人ね……」

『いや、起きてるよ。起きてるけど、身体が動かないんだ』


 すぐに谷川さんに返事をした……はずなんだけど、声も出せていない。

 その証拠に僕の返事には無反応で、谷川さんは次の言葉を続けた。


「寝てるところ悪いけど、掃除機をかけさせてもらうわね。落ちたクッキーの欠片が散らばってしまったから……」


 フッと浮き上がった僕の体。フローリングの木目模様が少し遠ざかる。

 しかも、なぜか足首を掴まれたような感覚と、優しいぬくもりを感じた。


「起こしちゃったら、ごめんなさいね」


 谷川さんが申し訳なさそうに謝った途端、僕の股間の突起物に心地良い感覚が。

 さらに続けて、グリッと強く押し込まれた。


 ――おぅふっ!


 夜な夜な自分でいじるときには味わえない、不意打ちのような強烈な刺激。

 そのウットリとする快感は、そのまま背筋を駆け上がって脳天に突き抜けた。


「ブオオオオオオッッ……」


 同時に鳴り始めた轟音が、僕の耳をつんざく。

 そして僕が困惑する間もなく、猛烈な勢いで埃やクッキーの欠片が開きっぱなしの口の中に飛び込んでくる……。


 ――どうやら僕の身体は、掃除機になってしまったようだ……。

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