ブレイクタイム
一番町 炭焼き牛タン居酒屋 モーモーベロベロ
仙台市青葉区/南東北州/日本国
平成44年10月3日未明
もういいかげん、ほろ酔いを通り越して、真っ赤な顔をした風間が音頭をとる。
「あーあー、3次会ですが、もう一度。雨宮と洋介の結婚を祝して、乾杯!」
「乾杯!」
「……でだ、オイ、若いもんの集まりに俺なんかがいていいのか?」
上座に座った、否、他の全員の一致で上座に座らされた、高木のおやっさんが頭を掻く。照れているのが見てわかる。
「何言ってんスかおやっさん! おやっさんが仲人みたいなもんでしょ! ささ、ガンガン飲んでください!」
町田がピッチャーのビールをおやっさんのグラスに継ぎ足す。
「配属の関係上、西村課長が仲人やりましたけどぉ、わたしたちの仲を取り持ってくださったのは高木警部補ですから!」
こちらも真っ赤な顔をして、いいかげん出来上がっている雨宮。
「それにしても、奥手っぽいと勝手に思ってたけど、雨宮の方から町田にプロポーズするとはなぁ。
隙なく、1品目のサラダを取り分ける山元。
「おう、すまねぇな。相変わらず気遣いが上手ぇな、トモ坊。これでなんで嫁のもらい手が居ないのか不思議だぜ」
「高木警部補ぉ、セクハラですよぅ! もうそういう時代じゃないんですって」
「こらこら雨宮。アタシは仕事と狙撃銃とで二股かけてますから。それ以上できるほど器用じゃないんで、えぇ」
山元はそう言って、几帳面に菜箸を揃えた。
「フランスにはファンがいっぱいいるんだろ? 記事読んだぜ、『
風間がまぜっかえす。
「魔性の女かっての、アタシは!」
「なんだ、もらい手はいるのか。風間はまだ遊びたい盛りか?」
「こいつ、酒でほとんど給料使っちまうんですよ」
山元がささやかな復讐をする。
「おいおい、最近は貯金始めたぜ!」
「貯金して、カジノ行って飲み代増やすんだろう?」
「重野班長まで!」
「そうそう、重野だ、お前も嫁さん探す気ねぇのか?」
火の粉をかぶらない位置に居ようと思ったが、どうもそうは問屋が卸さないようだ。
「嫁さん探す前に、
「あ、重野班長ぉ、私のバックアップの
「おいおい、瑞穂、飲み過ぎ」
町田が空になった雨宮のグラスにウーロン茶を注ぎ直す。
「州立大の射撃部にとっておきの奴がいてな。クレーのトラップで25枚連続初弾命中させたやつだ。ドアだけじゃなく動く的もイケる」
「そんな奴ぁ、体育学校からもツバつけられてたんじゃねぇのか?」
「そこらへんは、おやっさん譲りの“営業努力”ですよ」
「お前もやるようになったな、重野」
「おやっさんにくらべれば、まだまだです。ささ、もう一杯」
空になったグラスに、再びビールが注がれる。
「で、重野班長、俺のバックアップの狙撃手については何か聞いてないですか?」
左肩を妻から枕にされながら、町田が聞いてくる。
「小耳にはさんだ話だが、お前と違ってお堅い奴だそうだ」
「さりげなくひどいこと言いますね」
「アタシが聞いたのはゴツい風貌だってことですね。名前も“イシダ・イワオ”」
「ハッハッハ、そいつぁ傑作だな! トモ坊とじゃ硬軟併せ持つコンビになりそうだ」
おやっさんは愉快そうに笑う。
こうして、雨宮と町田の結婚式の夜は更けていった。
――この店の目と鼻の先のステーキハウスで無銭飲食犯がステーキナイフ片手に立てこもり事件を起こし、待機中の
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