第20話 服、危機感
「もう大分この副作用にも慣れた。魔法を使ってもいい頃合いだろう」
フェルノがベッドから立ち上がって大きく伸びをする。それに釣られてなのか、俺は欠伸をした。睡魔が
「どんな服を作ろうかなー?」
「やけに派手な服は駄目だ。いいな」
「はーい」
すると、突然フェルノ達は握手をした。数秒してフェルノは手を話す。
「今、何をしていたんだ?」
「魔力を使って情報を渡していた。魔力操作の応用みてぇなもんだ」
「簡単に魔法を共有できるから、凄いよね!」
ミカは誇らしげである。
フェルノの言う魔力操作応用は、所謂ロストテクノロジーという奴か? それに留まらず、魔法学の殆どが現在では元々なかったように扱われている。
昔は七源という言葉すらなく、ただひたすらに新しい魔法を生み出しては消えていったんだろう。
「で、服のイメージだが、何かあるか? ミカ。そういや、お前そういうの得意じゃなかったか?」
「う~ん、デザインする事は好きなんだけど、人様に見られるとなると、急に難しくなるんだよね……」
ミカは真剣な面持ちで考え始めた。俺は服の美学については疎い。アイデアを出そうにも、できないから、俺は誰か来ないかとリビングから廊下に繋がるドアを眺めていた。
「戻ったわよ~。今三人で何してたの?」
ミラが狙い澄ましたようにドアを開けてリビングに入場した。
「あ、ミラ! 丁度良かった。今、作る服をどうしようか考えてて、何かいいアイデアないかな~って考えてたんだけど、思い浮かばなくて」
「つまり、一緒に考えて欲しい、って事?」
「そうそう。……できそう?」
「勿論構わないわ。格好良く仕立て上げるわよ!」
「おー!」
とは言っていた物の、十分経っても、進展は見られないようだった。……俺の言えた事じゃないが。
「そう言えば私も未経験だったわね……とんだ不覚だわ」
ミラはこの問題にかなり頭を悩ませているようだった。
「こういうのは、デザイナーに頼まないとやっぱり難しいのかな」
「俺等の知り合いにそんな奴もいない。魔法の発動条件はイメージが大半を占めている。それも相まって、イメージが曖昧である訳にも行かない。困った物だ……」
このままだと、明日の出発までに服が完成するかどうか怪しい。俺の知り合いに服に関係する仕事をしていた奴はいたか?
誰でもいい。服に携わっている奴なら……
ああ! 俺がシルバーヘブンの毛皮を売った店があるじゃないか!
……ついでに嫌な記憶も鮮明に甦ったが。
あの店なら、この無茶振りにも対応できそうだ。なんせ、結構由緒ありそうだったからな。
六人分の発注となると、時間は掛かりそうだな。……いや、デザインだけ貰って、後はそれを頼りに魔法で服を作れば解決するか。これで、かなりの時間短縮になる筈だ。
まあ、デザインされた、ソライン家にピッタリな服が元からあればいいのかだが。
フェルノ達にこの旨を告げると、快く承諾してくれた。そして、何らかの魔法でフェノー、リノアさんとも連絡を取って承諾を得たらしい。
一週間後の日没が期限と言われた。それまでに完成するといいのだが、完全に俺の憶測と偏見で考えた期限だからな……そこは少し不安な所だな__
◇
「お、おい。なんなんだよ、これ」
難易度Cのクエスト受注中。造山帯レルカの麓にある森で、俺達はそれを目撃した。魔物の気配もないのに、俺は震えが止まらなかった。
「分からねぇ。狂暴な魔物の仕業なのか……?」
「そんな魔物がこの森にいるってのかよ!? ここにいるの強い魔物って言ったらせいぜいシルバーヘブン位なもんだろ!」
「俺も理解が追い付いてねぇよ! 俺だってもう逃げ出したい位なんだよ……」
「お前Bランク冒険者なんだろ? お前だけが頼りなのに、お前が怖がってたら、俺はもう生きて帰れるか分かんねぇじゃんかよ!」
「俺だって難易度Cでこんなのに遭遇するだなんて思う訳ねぇって!」
冒険者にとって、取り乱す事は命を捨てるのと同義だ。一度深呼吸して、気分を落ち着かせた。
「これ、ギルドに報告するべきか? するべき、だよな?」
「ああ、こんなビッグニュースまたとないぜ……」
『目の前の木全てに、大穴が空いてるなんてな。魔物の仕業以外考えられない』
◇
行ってくる、そう家族に告げて家を出た。ハッチを開け、周囲を見渡してから全身をその木から登場させた。
背後には異様な光景が広がっている。不自然に穴の空いた木。そして、見覚えのない誰かの足跡……?
他の人間がここを訪れた!? こんな短期間に……? いや、今までこの心配をしなかった俺の方が狂っている。ここは造山帯レルカだ。冒険者が来たって何も可笑しくない。
これから何が起こるか考えたくもない。今見つかっていた場合、俺の立場も危うかった。この先々、ソライン家だけでなく、俺の安全性についても、考慮する必要があるな……
恐らく、ここを発見した輩はギルドにこの異常事態を報告する。明日か明後日には調査が開始される可能性が高い。
そうなれば、一刻も早くこの家を捨てて、ジェルアに向かうべきだ。
ソライン家がいる、禁忌の魔法を使っている、なんて情報が漏れてしまえば、世界は簡単にあの六人と俺の命を狙うだろう。
とは言え、少しでも怪しまれる事かないように、ちゃんとした服は着なければならい。だが、ソライン家が今からどれだけの時間、身を隠せるかも分からない。
最終手段は服への固執を止め、このまま家を出る事だ。そうなる可能性は高い。だが、そうさせまいと俺のプライドが唸っている__
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます