第42話 何を謝っているんですか?

「貴族の命令に逆らうとは良い度胸だな! 後でまとめて処罰してやる!!」


「それが嫌なら、あの男と魔物付きを殺せ!!」


「すぐに動けば、今までのことは不問にするぞッ!」


 貴族どもが次々と身勝手なことを言い放った。


 さすがに権力者からの圧力には勝てず、護衛たちはお互いの顔を見ながら悩む。


 ここまでしても動き出さないことにイラ立ちを感じた一人が、妙案を思いついたといった顔で叫ぶ。


「先に魔物付きの女を殺せ! 子供なら情けないお前らでも何とかなるだろ!」


 視線がメーデゥに集まった。


 見た目はか弱い少女だ。背は低く体の線は細い。しかも今は武器を持っていないのだから、集団で襲えば勝てそうだと判断してしまうのも当然である。


 貴族とハラディンという間に挟まれた護衛たちは、辛い状況を抜け出すために少女を殺すための計画を話し合う。


「ガキを殺そうとしても、あの男が邪魔するんじゃないか?」


「だな。足止めが必要だ。しかも大勢いた方がいい」


「だったら俺一人でガキを殺す。残りは男を足止めしろ。逃げまくれば時間ぐらい稼げるだろ」


「……それしかないか。反対するヤツはいるか?」


 誰も否定しなかった。


 これで方針は決まる。


「早くヤれよ」


「当たり前だ。数秒で終わらせてやるぜ」


 メーデゥを殺すために商人の護衛が一人飛び出した。武器は小型のハンドアックスだ。携帯性に優れているので小回りが利く上に威力も高いため、メーデゥの肉を裂き骨を砕くだろう。


 当たれば、の話しだが。


「遅い」


 既に平均的な兵よりも強くなったメーデゥは攻撃を目で追えていた。霊力によって強化された肉体で斧を横に叩いて弾くと、腹を殴りつける。


 防具はなくタキシードのみしか着けていないため攻撃をもろに受けてしまい、胃の中身をまき散らしながら後ろに数メートルほど吹き飛ぶ。


「ゴホッ、ゴフッ、ガハッ」


 せき込みながらも護衛の男はかろうじて生きていた。助けを求めるため、仲間を見る。


「なっ……」


 全滅していた。細切れになって肉塊になっている。床には血の海が作られていて、その中を刀を抜いたハラディンが歩いていた。


「残りはお前だけだ」


「もう手を出さない! 助けてくれ!」


「断る。俺の弟子に手を出したのだから、相応の報いを受けろ」


 護衛の男の周りに白い霊力がまとわりつく。まるで触手のように足、腕、体、首などを締め付けていく。もう声は出せず近づいてくるハラディンを見るしかできなかった。


「仲間を殺そうとした相手は決して許さない」


 刀を振るう価値すらない。霊力で作られた触手が強く締め付けると、骨の折れる音がパーティー会場内に何度か響き渡り、護衛の男は絞め殺されてしまう。触手を解除すると力なく倒れた。


「さて、残ったヤツらはどうする?」


 ぎろりと貴族、そして商人や上級平民たちを見る。


 一瞬にして護衛らが殺されてもなおハラディンと戦おうとする人はいない。死にたくないと叫んでパーティー会場から逃げ出してしまう。


 残ったのは平民たちだが、彼らも同様に出口に向かって走っている。


「追う?」


 青い剣を回収したメーデゥが聞いてきた。例え相手が貴族であっても、ハラディンが命令するのであれば喜んで殺すつもりだ。


「放置で良いだろう。それより持っていても大丈夫なのか?」


「うん」


 青い剣の呪いは人間にのみ効果を発揮する。


 同族である魔物付きに悪影響はない。


「そうか。ならいい」


 暴走する危険が無いと知りハラディンは安堵した。死ぬ危険が無いのであれば使い続ける価値はある武器だ。引き続き持たせると決めた。


「いやぁ。大変なことになりましたねぇ」


 表舞台に立つ計画が破綻した上に、これからお尋ね者になるかもしれないのにペイジは笑顔を浮かべている。


 それが逆に恐ろしいし、罪悪感をかき立ててくる。


「すまない」


「何を謝っているんですか? ハラディン様は悪いことをしたのでしょうか?」


 ニコニコと聞いてきているが、目だけは鋭い。


「実は襲撃の主犯と顔見知りだった」


「なるほど、なるほど。それは戦いにくいですよね。逃がしてしまうのもわかります」


「…………」


「五年もの時間をかけて実現しそうだった計画が破綻し、お尋ね者になっても仕方がないですよね?」


「…………すまん」


「謝っても現実は変わりません」


 ペイジはハラディンの前で立ち止まると、顔を近づける。


「ならどうすればいいんだ?」


「計画を変えなければいけません。もちろん、協力してくれますよね?」


「そうしたいのだが我々には目的がある」


 先約があるため即答はできない。


「それは何ですか? まさか教えられないなんて事、無いですよね」


 答えるか悩んでしまい、メーデゥの方を見た。


「師匠の好きにして」


 小さい依頼主からの許可は得た。これでペイジに目的を伝えても問題はない。


「魔物付きだけの村を探している」


「そんな場所……確かにあるかもしれませんね」


 ないと否定しそうになったペイジだが、パーティー会場で死体になっている成人した魔物付きを見て考えを改める。


 彼らはどこで生まれ、育ったのか。少なくともバックス港町周辺ではあり得ない。住民が必ず排除してしまう。


 誰にも知られずに住む場所があると、ペイジもハラディンの結論に納得した。

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