第15話 俺の連れだ。これ以上の暴言は許さないぞ
「お前たちは行商人と護衛か? いや、それだと森の中を移動する理由にはならんな」
荷物が置かれている場所にまで移動したハラディンは刀を振るう。ロバの背に乗せていた袋が破けて、木の実がこぼれ落ちる。
黒く、細い棒状のものだ。
これを粉末にして乾燥させてから火を付けると煙が出て、人間が吸い込むと酩酊する。現実と夢の境目が曖昧になって、ふわふわとした気分になり何もしたくなくなるのだ。
いわゆる麻薬といもので、各国は所持することすら禁止されている。
「やはりまともな商人ではなかったか」
ハラディンが振り返ると護衛の男がバトルアックスを構えていた。
見られたからには殺すしかない。
そういった意志を感じる行動である。
「愚か者め。俺と戦って勝てるはずないだろ」
霊力を少し解放すると護衛が震えだした。圧倒的な力の差を感じて怯えてしまっている。
中年の男性なんて腰を抜かしてしまい、失禁するほどだ。
先ほど遭遇したワーウルフが可愛く思えるほど、恐ろしい存在だと感じていた。
「何をすれば許してくれますか?」
商人としての意地なのか、中年の男性は震えながらも交渉するために相手が求めているものを知ろうとしている。
「商品は密輸しているのか?」
「もちろんです。荷物を隠して町に運び入れております」
「物だけじゃなく人も同じようにできるか?」
「もちろんです。私は違法奴隷も取り扱っておりますから!」
人を攫い奴隷商人に売り飛ばす仕事もしているため、監視の目をくぐり抜けて町に人間を入れることなどよくやっていることだ。男を一人、近くの町に忍び込ませることなど軽くやってのける。
「ほう。では二人分お願いしよう。場所はどこでも良いが小規模な町は避けてくれ」
都合が良いので、町に入って魔物の村の情報収集と調味料の補給をしようと思ったのだ。
商人を使って町へ入ることを企んでいる。
禁制品と一緒に裏ルートから侵入しようとしていた。
「二人……ですか?」
目の前にいるのはハラディンだけ。もう一人は誰だと、中年の男性は首をかしげた。
「後ろにいるだろ」
振り返ると両手で剣を持つメーデゥが立っていた。
「まさか呪われた魔物付きまで入れろとおっしゃるので?」
「ワーウルフから助けてもらったというのに、お前は随分と冷たい言い方をするんだな」
失言をした中年の男性は、ハラディンは静かに怒っていると気づいてしまった。
この場の支配者の機嫌を損ねてはいけない。すぐに謝罪する。
「申し訳ございません! そこの少女――」
「おい。さすがに魔物付きは町に入れられないだろ。この場で殺すべきだ」
言葉を遮ったのは護衛の男だ。
嫌悪感を隠すことはない。
メーデゥは魔物を倒した感動なんて吹き飛んでしまい、剣を構えながら警戒している。言葉通り殺しに来るのであれば、死ぬまで抵抗してやるという意思の表れであるが、ハラディンがいるかぎり、そのような覚悟は不要であった。
「俺の連れだ。これ以上の暴言は許さないぞ」
「はぁ? 頭おかしいんじゃないか? 魔物付きを仲間だと言っているのか?」
「まて! それ以上は何も言うな!」
「うるさい。商人のくせに生意気だ。黙れ!」
信じられないという顔をした護衛を中年の男性が止めようとするが、逆に怒りを高めてしまう。
圧倒的多数の意見であるはずなのに、なぜかこの場では少数意見となっているのだ。冒険者が目の前の現実を信じたくないと否定していく。
「魔物付きは不幸の象徴だ。近くにいるだけで厄災が発生する。早く処分するべき存在なんだぞ! これは人間としての義務だ!」
理不尽な不幸が訪れたとき、怒りの矛先を魔物付きに向けるために広まった迷信である。実際、近くにいるだけで不幸が起こることはないのだが、何世代も続いて伝わっているため考えを変えてもらうことは難しい。
根強い差別感情はどこまでも続いていく。
「俺が育った場所では、そな義務はなかったぞ」
「嘘つけ! 魔物付きは見つけ次第殺す。それが常識だろ!」
護衛の男は興奮のあまり、メーデゥにバトルアックスを向ける。
「それ以上、近づいたら俺が殺す」
ハラディンが警告をした。
「だからなんだ! そんな脅し怖くはないぞ!」
殺気を当てられているのだが、護衛の男は興奮していて何も感じていない。
己の正義を貫くために行動する。
歩きながらバトルアックスを振り上げる。メーデゥは動かない。じっとハラディンを見ている。どのような行動をするのか、自分の命を使って試しているのだ。
「最後の警告だ。止まれ」
「断る」
さらに歩いて護衛の男はメーデゥの前に立った。
バトルアックスを振り上げる。
『飛霊斬』
真っ白な斬撃が飛んだ。狙われた護衛の男はバトルアックスで受け流そうとして反応したまでは良かったが、鉄ごと切り裂かれてかれてしまう。胸から上がずり落ちる。
武器ごと両断されてしまったのだ。
「なぜ……俺が……」
魔物付きを殺そうとしただなのに、と言いたそうな顔をしながら護衛の男は息絶えた。
生き残っている商人を見る。
「お前はどうする?」
「魔物付きでもお客様なのは変わりません。殺してしまった護衛の代わりに私を守ってもらえるのであれば、近くの町に入れてみせましょう」
自身の命とハラディンの依頼を天秤にかけ、冷静に考えた上で答えを出した。
感情に振り回されず、損得勘定で判断するのは商人らしいと言えるだろう。
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