no name

片栗粉

第1話 輪廻

『産まれたときから、私を必要としてくださる方は誰もおりませんでした。愛されるのは、妹のオリビアばかり。ですから私は愛を諦めたのでございます。望まれていない愛を注ぐよりも破滅を選んだのです。そして最期は誰にも知られぬようにひっそりと、お父様やお兄様方、オリビアに殿下。それから民達を救い死んでしまうことに致しました。嫌い、憎み、疎んでいた私に守られたと知った皆様の表情を想像しながら死ぬのは、大変楽しゅうございました。ですが安心してくださいませ。私にとってこの世界(地獄)から抜け出すことのできる死は、救いなのでございます。

それでは、ごきげんよう。』


手紙を書き、瓶に詰める。あえて私自身の名前は記さなかった。

その瓶を持って、海へと向かう。

幼い頃に教師が話していた。海はどこまでも広く、そして繋がっている。と。

この手紙が誰かに気付かれなくてもいい。これは私の最期の悪あがきなのだ。


ゆったりとした足取りで海に近づき、波に瓶を乗せる。

海に浮かんだ瓶は、しばらくの間ぷかぷかと浮き沈みを繰り返し、ゆっくりと、確実に進んでいく。

私はしばらくの間それを眺めていたが、やがて背を向け、ゆっくりと歩き出した。


目的地を強く念じ、先ほども使用した転生魔法を使用する。

この世は今、戦場であった。人間対魔族の。この戦争はある令嬢がきっかけであるとされている。その令嬢は牢の中にいれられ、この戦争が終わり次第処刑されることが決まっていた。しかし、誰も予期していなかったことが2つある。一つ目は令嬢の罪が冤罪であること。もう一つは令嬢がとんでもない魔力の持ち主であるということだ。牢に入れられた令嬢は、転生魔法を用いて海のある町までやってきた。

そこで一通の、誰に宛てたものでもない手紙を書いた。

戦争で混沌としているこの世界で、令嬢が逃げ出したことを知るものは誰もいなかった。本来ならば決してあってはならないことだが、今はそれほどまでに追い詰められた状況だった。

進む道もないほどに積まれた死体の山。そこかしこから聞こえる悲痛な叫び声・・・


その光景が脳裏に次々と浮かんでは消えたが、先ほどよりも濃い闇を感じ思考をやめる。

令嬢が転生魔法を使った先は、どこまでも暗闇の広がる森だった。

ここは魔族の長がいることを令嬢は力を使って感じ取っていた。

そのまま歩を進めると、ビリビリとした殺気を感じた。確実に相手も私を感じ取っている。それに気付いた後でも令嬢は恐怖を感じておらづ、寧ろ産まれてから感じたことない幸福感につつまれていた。

その瞬間、自分自身が囲まれていることに気付いた。

目の前にある山のようなものが動き、魔族の王が姿を現した。

その時、私を囲む魔族達が一斉に私に向かって襲いかかってきた。私も体中の力をありったけ集めて、放出させる。

すべての力を使った魔法だ。この土地、魔族、そして私ごと消えて無くなるだろう。

それでもかまわない。

私の周りはすぐにまばゆい光でいっぱいになり、途端に意識を手放した。

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