第21話
同じ頃、施設内では未だに銃撃戦が続いていた。
ザルノフは拳銃を構えた警備員を散弾銃で吹き飛ばして、空になった弾倉に1発ずつ弾丸を込めていく。
その隙を突こうとしたのか、自動小銃を持った敵兵が壁から身を乗り出してザルノフに銃口を向けた。
だが、即座にガーランが拳銃で狙いを定め、引き金を引く。
自動小銃を指ごと弾き飛ばされ、さらに防弾ベスト越しに内臓を殴られた敵兵は、腹部を押さえながら膝をつく。
サリアがナイフを構えて肉薄し、止めを刺した。
地下への入口で合流した4人は、地下1階の廊下を進んでいる最中だ。
ドアから飛び出してきた敵兵を、サリアが短機関銃で射殺する。
すでに情報調査室の警備員は戦死するか戦意を喪失しており、重武装で動きが機敏な所属不明戦闘員も、数名ほど殺した辺りで姿を見せなくなった。
それでも彼らは警戒を怠らずに地下2階へと続く階段を降りて、尋問室へと侵入する。
尋問室のデザインはシンプルで、中央の廊下と両脇に並ぶ牢獄で構成されていた。
数名の警備員がいたが、ザルノフの散弾にひるんだすきにサリアとガーランの猛射撃を受けて全滅した。
赤い血が、汚れた床に広がる。
牢獄の空気は澱んでいて嫌な臭いが鼻を突く。ずいぶんと不衛生な部屋だ。
彼らは、物陰に隠れた敵兵を警戒しつつ進む。狭く汚れた牢獄の中には、拘束用の椅子と鉄のベッドだけが置かれていて、酷く殺風景だ。
「遅かったじゃん」
カヤの声が聞こえた。彼らは周囲を見回す。
カヤは一番奥の部屋で椅子に縛られていた。
頭から血を流していて、軽くない怪我をしていることが分かる。
突入チームは素早く駆け寄ると、ライツが拳銃で鍵を粉砕してドアを開け、後ろから散弾銃を構えたザルノフを先頭とする3人が、罠に警戒しつつ突入する。
「ずいぶんと待ったよ」
カヤは、余裕そうな表情を作ってそう言った。
だが、流石に情報調査室の拷問は心身ともに堪えたのか、その声にいつものような張りは無い。
「すみません。それと今日、いえ明日の午後2時8分には迎えの船が来るので、急ぎますよ」
ライツが、拘束器具から解放されて伸びをしているカヤにそう伝える。
時刻はまだ深夜12時を回っていないが、海岸までは少し距離があるので、のんびりはしていられない。
「歩けるか」
ザルノフが聞いた。
「悪いね。拘束された時に折られちゃって」
カヤは自身の足を一瞥して謝る。
衛生兵であるガーランは、周囲への警戒を他の3人に任せてカヤの足を確認する。
足は変な方向に曲がっていて、冷水で濡れたスーツに血が滲んでいた。
致命傷にはなっていないが重症だ。傷口に細菌が入り込めば最悪切断せざるを得なくなるだろう。
一刻も早く治療する必要がある。
「分かった、俺が背負う」
ザルノフが戦闘服のポケットからロープを取り出して、カヤを背負った。
ずり落ちないようにロープで縛る。
両手を使いながら人を運ぶための技術で主に山岳救助隊などが利用しているが、両手で銃を使いながら要救助者を運べるので戦場でもかなり役立つ。
彼らは、小走りで施設を離脱すると、負傷したシャーナを回収してバンに乗り込み、走り去った。
夜の闇へと走り出したバンを終える警備員などいるはずもない。
途中、離脱の阻止を試みた警備員は何人かいたが、暗視装置や防弾ベストなどを装備した特殊部隊員を前にしては無力で、すぐに射殺された。
結果、戦闘は情報調査室の警備員が32名死亡、重傷者多数の大損害に対し、特務機関側は人質の解放に成功、負傷者1名という一方的な結果に終わった。
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