間一髪
猪瀬 亮
三重県北牟婁郡赤牟町/日本国
平成33年10月21日 午後0時57分(日本標準時)
『地震です 地震です』
相変わらず背筋の冷える警報が、全員のスマホから鳴り響いた。素早く女性にかけより、肩に手をやってしゃがませる。
「えっ、ちょっ、何!?」
「総員伏せろ! 脚立から降りろ! 土屋さんと先生も!
「
脚立で撮影していたミリオタ各位はあわてて脚立から降りようとするも、バズーカのようなレンズをつけた一眼レフを持ったままだと、どうしても不自由な動きとなるようだ。落石注意を登山道に向けて叫びながら、水城が脚立組のカバーに入る。
「命とカメラどっち大事だってんだ! 降りろ! 降りたら頭を守って身体を低くしろ!」
水城が、いまだ困惑しているミリオタの首根っこを、むんずと掴んで引きずり下ろした。背中から落ちてくる彼を水城は受けとめ、腹ばいにさせる。
「準備よし!」
水城が叫ぶとほぼ同時に、オーボエの低音のような地鳴りが一帯に響き渡る。そして、斜め上に突き上げるような衝撃が地面から伝わってきた。
「うひゃあああああ!!?」
「のうわあああああ!!?」
女性と露木先生の声がハモる。うるさい。
「昨日の地震よりデカいですよ!!」
土屋さんの叫び声が聞こえる。言われたとおり、地面に伏せていても転げそうになるほどの揺れだ。
「土屋さん、露木先生が転がんないようにして!!」
「了解です!!」
「ミズもそこのカメラ小僧なんとかしろ!!」
「了!!」
伏せながら辺りを見回す。山頂の展望台だけに上からの落下物は恐らくない。問題は、帰りの登山道が落石で埋まっていないかどうかだ。偵察小隊で道なき道を行くのは慣れてはいるが、要救助者を抱えて行くのは空自と海自の
『All personals, report status.』
未だに無線を傍受しているやつもいるようだ。
「おい!! いざとなればそれでヘリ呼べないか!?」
「無理です!! 受信機能しかありません!!」
水城に
「なんなの!? 何が起きてんの!?」
女性が叫ぶ。
「例の連続地震でしょうね!!」
昨日よりも明らかに長く揺れている。また震源が海底下数百キロのものだろうか。
『All systems are GO. Recommence launch sequence.』
「ポダラカは発射準備再開するって言ってる!!」
この状況下で? 冗談だろ?
「この揺れでもシステムに異常は無いらしい!!」
その声を聞いてか、カメラ小僧たちは伏せたままカメラを海に向けて伏射よろしく構える。
――大した根性だ。全員まとめて自衛隊に欲しい。
『Preparation, complete. Launch in 60 seconds.』
「発射60秒前!」
ようやく揺れがおさまりつつある。土屋さんは転がった露木先生の背中をむんずと掴んでいるが、それ以外に大事はなさそうだ。
「そのロケットの打ち上げは、ここから肉眼で見られるものなのかい?」
女性に話しかけると、彼女ははっとして双眼鏡を手に取り、ポダラカがあるであろう方向に向ける。
「あっち! 小型ロケットだから本来は静止軌道までは上げられないはずなんだけど、
「解説ありがとう」
「いえいえ」
揺れはほぼおさまり、ミリオタ各位は立ち上がって再びカメラを構えたり、双眼鏡を覗き込む。脚立は例外なく倒れているが、それでケガをした者はいないようだ。
水城は膝立ちで隙無く周辺警戒し、土屋さんは露木先生を掴み、当の露木先生は揺れがおさまったにも関わらず手足をジタバタとさせている。
「先生、おさまったよ」
「あえ? あ、ほんとだ」
「例のロケット、もうすぐだってよ。あっちの方角」
「あー、双眼鏡持ってくればよかった」
『HS-TR system engage. Main engine start.』
「メインエンジンスタート! 例のHS-TRも作動してる!」
――ポダラカの方角から一筋の細い黄色の光が伸びたかと思うと、それは魔方陣のようにロケットの周りを囲み、そして黄色の衣のようにロケットの全体を包み込んだ。それから数秒遅れ、爆音とともに名状しがたいキーンという音が一帯に響いた。
『3, 2, 1, SRB Ignition! UH-STAR 2, liftoff!』
「UH-STAR2号機、発射した!」
超音速の空振が、島全体を覆うように吹き飛んできた。
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