ラストダンス

猫セミ

1

 昨年末、一地方都市を襲った災害級についての調査がひと段落した。報告を受けながら広げられた資料を一つ手に取って、三笠は浦郷の話に耳を傾ける。


「……と、まぁ。そんな具合で、鯨入手の経緯が判明した。初瀬家に関しても初瀬自身から事情聴取が進んでいる。当然、分からない点の方が多いがな」


 浦郷の言葉に対し、三笠は小さく息をついて頷いた。


「確かにお父さんが死んでいるとなると……分かることも少ないですよね」


 結局初瀬兄妹の父は遺体すら見つかっていない。最期の状態も、遺書などの書置きも何一つ残っていない。お手上げ状態であると富士も話していた。三笠はこれらの話を今日初めて聞いた。そんな呟きを聞いた浦郷は、少し不思議そうに眉を動かす。


「なんだ、その辺は個別で聞いていなかったのか。てっきり本人の口から聞いているものだと」


「え、そうですね、聞いてない、ですね……」


 半分嘘だった。

 実のところ、初瀬自身に少しだけ気になって例の兄について訊いたことがある。確か『あの時教えてくれたらよかったのに』と言ったのだったか。軽い口調で、半分冗談のような具合で。今思えば酷い態度である。もちろん詳しく知ることはできなかった。何故なら──


『言うて家庭の話だから。あんたはただの仕事仲間だろ』


 と、言った具合にあからさまに不機嫌な声とともに返されてしまったからである。それ以上追及することはおろか、その日は注意散漫になってしまい、駆除の仕事も上手くいかなかった。


(実際その通りだとは思う。踏み込み過ぎはよくないよなぁ……)


 そんな具合に思ったものの、三笠とて納得していない自分に気が付いていた。それが何なのか、理解出来ることなく日々を消費していく。その不満を小耳に挟んだ彼は小さく「ふぅん」と言った後に首を横に振る。


「ま、信用されていないんだろう。ほいほいする話でもない」


 そんな具合に浦郷はバッサリと会話を切って資料を片付け始める。意識の外で「報告は任せた」と聞こえたが、三笠はそれを二回訊き返してしまった。

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