今日は金曜日だから、明日は土曜日だ
牧場 流体
第1話 一日前に戻るスイッチ
この星ではすべての人類が一日前に戻るスイッチを持っている。
それは手のひらに乗るくらいの大きさでアイボリーのプラスチックの板に、電子レンジの回転ツマミの様なダイアルがついており、一つひねるたびに小気味良く、時計回りにカチッと45度回転する。
誰かがそのスイッチを回すとしよう。
その日の24:00になると、24時間前の0:00に戻るのだ。
問題は誰が回したかは分からず、たとえスイッチを無くしたとしても、24時間前の0:00に時間が戻ると、不思議と手のひらの上に存在している。
このスイッチはある日急に、すべての人に与えられ、すべての人がそのスイッチの使い方を瞬時に理解させられた。
そして、人々は毎日同じ日を、来る日も来る日も繰り返している。
飽き飽きしながら。
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今日は金曜日だ。
「ということは、明日は土曜日だ。やっと休みだな。」
「ほんとだな、俺達いつまで金曜日を繰り返したらいいんだ…」
俺達はもう何回も、来る日も来る日もおなじ金曜日を繰り返している。明日から三連休なのに、いつまでたっても休みが来ない。
人類の数も変わらず、誰も増えないし誰も減らない。
ただ、その日の24:00になるとまた24時間前に戻り同じベッドの上で目を覚ます。
同じ天気、同じ気候、変わらないカレンダーの日付、そして俺の手のひらの上にはあの忌々しいスイッチが乗っている。唯一違うのは今から過ごす今日の記憶が何年も蓄積しているのだ。
俺たち人類がその間に何をしてたかって?
何もしてないわけないじゃないか。今までのことをかいつまんで教えてあげるよ。まずはこのスイッチが現れてから数年間だ。
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1年後
まずループを確信するのに少し時間がかかった。
だけどスイッチが現れてから、今日が何回目の金曜日なのか、記録をつけていたやつが結構いたんだ。
最初は誰も理解できなかった。
家にいたはずが急に会社に戻った男や、出産直前の妊婦、同じ場所から飛び降り続ける男、、、
確実に同じ一日を繰り返していることだけが分かった。
そして、記憶以外は何一つ持っていけないことも。
その頃の俺は、朝起きたら X というサイトにアクセスし、今日が何回目の金曜日なのかを調べカレンダーに書き殴っていた。
紙が破れるくらい強く書いても問題ない。今日が終わればまた、ただのカレンダーに戻っているからな。
その日ついた傷も、伸びたヒゲも、スイッチに書いた繰り返し回数も、
0:00になれば元通りだ。
そして、たった数十年で俺たちが築き上げた人類の価値観は全部ひっくり返ったんだ。
続く
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