第7話 娘からの手紙が届いた
* * *
拝啓、親愛なるお父様、お母様。
お手紙が遅くなり、申し訳ありません。
寮生活は想像していたよりも不便が多いです。シーヌは規律が厳しすぎるといつも怒っています。
この寮生活で監督生になったお兄様方は尊敬できます。
(パパはなれなかったもんねー)
各方角にある壁に刻まれたブルブラック一族の名前を見ると背筋が伸びると同時にプレッシャーを感じてしまいました。
さて、入学後に行われた懇親パーティーでは言われた通りにドレスを着て参加しましたのでご安心ください。
選択必修科目ですが二人で相談した結果、剣術クラスを専攻することにしました。幼少期よりお兄様方と同じように剣術指導をしてくださったお父様に感謝申し上げます。
学園始まって以来初の女生徒だったらしく、最初は止められましたが押し通しました。こちらもご安心ください。
学園側には実家に連絡しないようにお願いしたので、ご報告が遅くなったことを心よりお詫び申し上げます。
(ごちゃごちゃうるさい上級生は実力で黙らせたから安心してね)
剣術大会に参加するつもりはありませんので大怪我をすることはないと思いますが、十分気をつけたいと思います。お母様も過度な心配はなさらないでください。
(怪我してもリファちゃん先生が薬塗ってくれるから大丈夫!)
では、またお手紙を書きます。
追伸。次の長期休みは帰省するつもりです。
* * *
リムラシーヌが王立学園に入学して半年。
やっと手紙が届いたと思ったら淡々とした近況報告だけだった。
途中、シーヌが追記したと思われる箇所があって笑ってしまったのだが……。
隣を見れば、笑っているのは俺だけでリューテシアは眉間にしわを寄せていた。
「リュシー、怒ってる?」
「怒っていますとも。女の子が剣術クラスだなんて前代未聞です」
「ほ、ほら。俺が薬術クラスを専攻したときと同じだよ」
「全然、違います。あの子の体格で男子生徒と渡り合うなんて」
実のところ、リューテシアが息子たちや娘の訓練風景を見たのは数回だけだ。
そのときはまだ二人の息子がメインでリムラシーヌは隅っこで棒を振っていたっけ。
その後、リムラシーヌが突然覚醒し、息子たちに引けを取らなくなったのだが、それをリューテシアは知らない。
最初は暴漢に襲われたときの護身術程度に剣術を教えていたつもりなのに、いつの間にかとんでもない熱量で指導していたくらいだ。
「……ウィル様のせいです」
「うぐっ。ごめんって。俺はただあの子が自分の身を守れるように、と思って。学園にはリファが薬術クラスの教師として勤務しているから無茶はさせないと思うけど」
「それは別の話です」
珍しく本気で怒っているリューテシアにたじろいでしまう。
ここは退散一択だ。
「じゃあ俺、ちょっと部屋に戻るから。何かあったら呼んでね」
「ウィル様。今夜よろしいですね」
「……はい」
リムラシーヌからの手紙を持って私室に戻った俺は部屋の明かりをつけずに手元の
「さて、きみの手紙も読ませてもらうよ、シーヌ」
リムラシーヌ――正確にはリムからの手紙は紙のちょうど上半分にぎっしりと書かれていて、下半分は真っ白だった。
あまりにも不自然だが、光に透かすとわずかに文字のようなものが見えてピンときた。
「日本語! 久しぶりに見た。そんなに読まれたくない内容なのか」
きっと、「先にリムが書いていいよー。後で私が書いて出しておくから」とでも言ったのだろう。
* * *
久しぶりの日本語なので、文章がおかしかったらごめんなさい。
私たちが剣術クラスを選んだのはゲームの中でリムラシーヌが薬術クラスでハブられて、ヒロインとの争いに負けるから。
そうならないためにリムと決めたの。
案の定、学園長室に呼び出されたけど、「ウィルフリッドの子だから」って見逃してくれたよ。
リムも満更じゃなさそうだったから、心の底ではパパのことを嫌ってないんだよ。
察してあげて。
リムがその辺の雑魚よりも強いのはパパがちっちゃい頃から剣術を教えてくれたおかげ。ありがとうね。そして、ごめんなさい。
きっとパパがこの手紙を読んでいる頃はママに叱られて半泣きだよね。
ごめんね、許して。
親睦パーティーではルミナリアスが接触してきました。
適当にあしらったけど、なんかヒロインよりも私たちに付き纏うんだよね。
本当にダルいです。
婚約してないから破棄のされようがないのはパパのおかげです。
適当にヒロインとくっつけるのが個人的な今年の目標です。今が正念場だから、次の長期休みはきっと帰ります。
追伸、リムには好きな人がいる。私は認めたくないけど。
* * *
「最後の最後に爆弾発言やめろや」
リムに好きな人がいるだって!?
しかも、シーヌが認められない相手!?
誰!?
こういう日が来ることは薄々感じてはいたが……。
そうか、もうそういう年頃か。
「……ハァ。俺もファンドミーユ子爵の気持ちが分かってしまう年齢になったってことか」
なんとも複雑な気持ちになった俺は手紙をしまい、リューテシアの待つ寝室へと向かった。
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