第181話 アドラの森 1
糖樹が植えられたことにより砂糖が市場に流れるようになった。
贈り物として貰った糖樹は最初一本を想定していたようだけれど、最終的に五本で落ち着いた。
聞くと余分となった糖樹は各地に分散させて植えたようだ。
王家が独占するよりも
が問題は糖樹の葉から砂糖を
一応糖樹の葉から砂糖を抽出する方法はロイモンド伯爵に教えている。
彼女が上手く情報を使ったようで市場に砂糖が流れるようになった。
「あまぁい」
「これがお砂糖を使ったクッキーなのですね」
食堂を覗くとランチタイムの奥様達がクッキーを味わって食べている。
食べ過ぎに注意だが竜の巫女で食べる分には良いだろう。
――糖樹五本。
最初の予定よりも多く貰ったわけだが私からすれば好都合。
王様との約束の報酬はリアの町に砂糖を優先的に回すというものだったけれど、この町に集中するよりも全体に分散した方が嬉しい。
何故かというと皆が使ったら、私がいくら砂糖を使って料理を作っても目立たないというわけだ。
「目立つに決まっているのである」
「心を読むな。ソウ」
「口に出ていたのである」
「おおっとそれは失敬」
キッチンに戻るとソウにツッコまれた。
アデルが苦笑い浮かべながら卵を
まぁ良いじゃないか。ソウは王都で採れる砂糖の一部を無償で貰って食べれるのだから。
今アデルが作っているのはヤマトプディング――つまりプリンだ。
幾つか甘い物を作る方法を覚えていても、この先損はないだろう。
「それはそうとエルゼリア。そろそろアドラの森に帰らなくても良いのか? 」
その瞬間空気が――凍った。
「エ、エルゼリアさん。アドラの森に帰るのか?! 」
「え? いや違うぞ」
「そろそろ帰らないと原初が
「わ、わ、わ……」
「ソウ。誤解を招くようなことを言うな」
ソウが必要な事をはしょって喋るからアデルが混乱している。
深く息を吐きながらアデルを一先ず落ち着かせる。
この際だから皆と話すか。
★
昼食後、一先ず全員を集めて座ってもらった。
いざ改まって話すとなると緊張するな。
皆の目線が集中しているせいか体がそわそわする。
何を話すべきか……。
「ちょっと実家に帰ります」
「「「えええ~~~!!! 」」」
「あ、悪い。今の無し。やり直し」
今のは違った。
完全に違った。
しかし何といえば良いのか……。
「明後日くらいに実家、というか出身の森の「アドラの森」に帰ってくるから、レストランは臨時休業だ」
「そう言う意味だったのですね」
「驚いた」
「
「カカカ。何やら重要な話があると聞いて来たが、そこまで重要なことじゃなかったのぉ」
「
ふぅ、何とか言えた。
噂がこの近くまで来ていないとはいえ、アドラの森の事に触れる時はいっつも緊張するんだよな。
なにせ知っているエルフからすれば「変人の森」の代名詞。
出来るだけ触れたくない過去のような、現在のような。
ともあれ事情を話すことにした。
「私は森を出る条件に百年に一回帰ることを義務付けられているんだよ」
「何でだ? 」
「……森の慣習のようなものですか? 」
「いや違うな。森を出る時に言われたのは知る限りだと私だけだし」
「両親が心配しているのでは? 」
「ん~~~、そんな様子は感じないな。いや違う意味で心配はしていたか」
「「「? 」」」
まぁ……。戻るように言ったのは親じゃなくて原初様だし。
親は親で結婚の方を心配していたし、ウルルの意見とはまた意味が違うだろうね。
「なぁなぁエルゼリアさん! オレ達も行けるのか! そのアドラの森って所に! 」
「いや連れて行かない」
「えええ~~~! いつも連れて連れて行ってくれるじゃないか」
「連れて行かない。絶対に行かせない」
強い言葉で拒否をする。
するとアデルと一緒にジルーナがしゅんとなる。
けれど我慢してくれ。
あんな子供の教育に悪い所にアデル達を行かせるわけにはいかないんだ。
「エルゼリア殿がそこまで拒絶するのは珍しいですねぇ」
「エルゼリアは子供に甘いからの。余計にの」
「確かに。まぁ生まれ育った家に人を呼びたくないようなものか。なら気持ちは分からなくもないが」
「そう捉えてもらっても構わない」
違うが、指摘はしない。
むしろこのまま話が流れてうやむやになってそのまま記憶が流れてくれるとありがたい。
「どのくらい滞在するおつもりで? 」
「ん~、毎回バラバラだけど今回は早めに帰るようにするよ。竜の巫女の事もあるし」
あそこにいると感覚が狂うからな。
出来るだけ早く脱出したい。
アドラの森に染まらなければそうでもないんだが、森を出て一回目の規制は一年くらいいた気がする。
そして染まった状態で外に出ると非常識な事を仕掛けそうで怖くなる。
「じゃ。ということでよろしく」
休みを伝えて解散。
皆席を立ち帰ったりディナータイムの準備に取り掛かったり。
そんな中、エルムンガルドが私の方を見た。
「そう言えばフィアは元気かの? 」
「! 」
「カカ。お主の顔を見て元気にやっとることがわかったわい。あの子は少し特殊じゃが……。そうじゃ。あの子に伝えてくれんかの? 」
「何を? 」
「お主も母の元へ時には帰ってこい、との。じゃぁの」
そう言いエルムンガルドは去って行ってしまった。
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