第124話 また一緒に
ラビと別れて数日が経った。
ヴォルトやエルムンガルド、ライナー達に伝えたが、流石大人。
彼らはラビが戻ると決断した時からこうなるのではないかと漠然と思っていたらしい。
逆に子供達はショックを受けている。
特にショックを受けているのは、最近仲が良くなったルミナスだった。
仕方ない。
仲良くなったと思ったら、別れの言葉も無く会えなくなったのだから。
帰り送ってくれた
言われて子供達は自分達から遊びに行くのを完全に断念した。
正直な所エルムンガルドあたりなら作れそうな気がするが、こういう経験も必要だろうということで言わないでおいた。
「あ……」
「ん~。休むか? 」
「い、いえ。まだまだ頑張ります! 大丈夫です! 」
「そうか。ま、気負わずにな」
「はい! 」
片付けていた食器を落としたジフが拾い上げてキッチンへ向かう。
ラビの喪失は予想以上に堪えたらしい。
意外にもわかりやすく行動に出たのがジフだった。
呆れを通り越して嫌ってそうだったのに、ここまで取り乱すとは本当に意外。
この中で平常運転しているのはロデだ。
安定して仕事をしているが、こういう人に限って溜め込むからな。
今度エルムンガルドの精霊温泉でも連れて行ってストレスを発散させてあげないといけないかも。
アデルもどこか喪失感を感じているようだけど、特に仕事を失敗することも無く見た感じは少し浮かない顔をするくらい。
もっと落ち込むかと思ったけど、「ラビ姉ちゃんが決めたことだから」と前を向いて歩いている。
彼女は今ソウと仲直りをする為の料理を作るのに集中している。
しかし——。
「姉ちゃんか」
いつの間にかラビは彼女達の中でドジな大人の女性から、ドジな姉ポジションに変化していたみたいだ。
私は変化に気付かなかったが、ラビがいなくなったことでアデル達のガタが外れて呼び方が表に出たようだ。
ラビが聞いたら茶化してくるだろうなと思いながらも大きく息を吐く。
「私も人の事を言えないな」
ここ数日ラビの事が頭を過る。
考えないようにしていたのだけどやはり彼女の影響は大きかったらしい。
全くもって不本意だが頭を駆け巡る巨乳兎は元気そのもの。
元気な姿は現実世界で見せてくれと思うも、家族と一緒に幸せにとも思う訳で。
我ながら一筋縄ではいかない性格をしているなと自嘲しながら今日の仕事に取り掛かった。
★
「そういえばこの前からラビがいねぇな」
ディナータイム、料理も一息ついて食堂の様子を見に行くとお客さんがそう言った。
「ラビは故郷に帰ったよ」
「マジか」
「家なき子じゃなかったのか。ラビは」
リアの町で彼女がどう思われているのかよくわかる。
私がこの町に来る前からいたから、多分この町の人達はラビの事を他の町から放浪してきた子とでも思っていたのだろう。
この町の人じゃないがつい最近まで本当に「村」出身だと思い込んでいた私も似たようなものだが。
「ったく俺達に挨拶もなしによ」
「帰るなら帰ると言ってくれればよかったのに」
「送別会の一つでもやってやるってのによ」
「エルゼリアさんが教えてくれなかったら何かへまをやらかして死んじまったんじゃねぇかと思ってたところだ」
「わからなくもないが、彼女なりの理由があったんだよ」
町の人達が心配するのも頷ける。
いつもドジばっかり踏んでたからね。
最初に出会った時も、冒険者としてやらかした時だっけ。
「ま。あっちでも元気にやってるさ」
「だと良いんだがな」
「俺達がいなくて寂しがってんじゃねぇか? 」
「明るいのが好きだからな。あいつ」
「確かに。なら俺達がラビの分まで元気にやらねぇとな」
「だな」
食堂が笑いで包まれる。
自然と笑みがこぼれるとキッチンに行ってラビの好物とエールを取り出し皆に分ける。
「これはラビが好きだった人参チップだ。送別会の代わりと行こうじゃないか! 」
「「「おおおーーー!!! 」」」
エールを持った人達がジョッキを克ち合わせてグビっと飲む。
手づかみで人参チップを手に取って酒の摘みにパリパリと食べる。
「お。美味い」
「このパリパリ感やべぇな」
「病みつきになるコッテリ感だな」
食堂にパリパリと鳴り響く。
音が
この繰り返しがずっと続き、朝まで全員飲み明かした。
★
「ううう~~~。頭痛い」
翌朝私は、私と同じく頭を抱える客をかえして食堂に突っ伏していた。
使い物にならなくなった私の代わりに、朝早く来たアデルとソウに食器の片付けなどを頼んだ。
朝レストランの裏口から入って来たヴォルトも一緒に片付けてくれたが、本当に申し訳なく思う訳で。
あとで何かお返しをしないとね。
「自業自得なのである」
「仕方ないだろ? 勧められたんだから」
「限度というものがあるのである。エールも程々にしないとこうなるのである」
「……人参チップとエールのコンビはヤバいんだよ。回復魔法を覚えることが出来たら永遠と続けられるほどだ」
「回復魔法は普通そんな使い方をしないのである。あと回復魔法では異常状態は消えないのである。これを間違えるとは相当頭がやられているのであるな」
机の上で残った人参チップを口にするソウ。
美味! と彼が叫んでいると奥からヴォルトがやって来た。
「本当にすまない」
「いえいえこのくらいなんともないです。しかし今日の営業は如何なさいますか? 」
「お客さんには悪いが今日は休業だな。あぁ~、ウルフィード氏族やロデやジフにも伝えないと」
「なら
ヴォルトの言葉に遅れて玄関先から子供達の声が聞こえてくる。
動けない私に変わりヴォルトが出てくれた。
「大丈夫ですか? 」
「……悪いが今日は休みだ」
「何が、あったんです……か? 」
ロデがおどおどとした様子で聞いてくるので事の経緯を伝えた。
すると子供達から冷たい目線が送られて来た。
いいじゃないか。時にはハメを外しても。
「おや? 」
項垂れているとヴォルトが何かに気が付いたようだ。
しかし人が訪れた時とはまた違う様子。
何か面倒事か? 正直この状態で対処できないぞ?
思いながらも痛む頭を抑えながらふらつくのを我慢して席を立つ。
ヴォルト先導の元、玄関先へ行くと——。
「お久しぶりです! 」
もう会うことがないと思っていたラビがそこにいた。
私はついに幻覚をみたり幻聴が聞こえたりするようになったのか。
これからは本当にエールと人参チップのコンビは控えよう。
「おやおや? 皆さんどうしたのですか? そんなに静まり返って。あ、まさか竜の巫女のムードメーカーたる僕がいないことで売り上げがかなり落ちましたね。しかしご安心を。この不肖ラビアン! こうして舞い戻りました!!! これからも竜の巫女は安泰ですよ!!! 」
幻覚じゃないようだ。
「ラビ姉ちゃん!!! 」
「ふわっ?! 姉ちゃん?! 何ですかその呼び方! 斬新で……良いです……ごふぁっ! 」
「何で帰って来るんですか! 」
「え、何で僕殴られて怒られているんですか?! ちょ、てかロデ無言で殴らないでください! 暴力反対ぃぃ! 」
「よし私も一発殴らせろ」
「ちょ、エルゼリアさんは洒落にならないですよぉぉぉぉ!!! 」
ラビは子供達による手荒い歓迎を受けている。
ラビと会えなくなったと思った時の子供達の落ち込みようを考えると、殴られても仕方がないというもの。
あと私の頭の中で暴れた罪も償ってもらおうか。
その後の話によると、ラビは定期的に実家に帰る事を条件に竜の巫女で働くことを承諾してもらったらしい。
全くもってお騒がせ兎だね。
町の人にも怒られるのを覚悟して欲しいところだよ。
私は一緒に謝りに行かないからな?
何はともあれ竜の巫女は今まで以上に騒がしくなりそうだ。
帰って来たムードメーカーに不安と期待を持ちながらも、一先ず私もラビを歓迎した。
———
後書き
こここまで読んでいただきありがとうございます!!!
本エピソードで第五章終了となります!
次話より第六章へ突入しますのでよろしくお願いいたします!
続きが気になる方は是非とも「フォロー」を
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ぽちっとよろしくお願いします。
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