第86話 犯人はお前かぁぁぁ!!!
「………………今なんと? 」
「暗殺されかけた」
事実を言うと町長が顔に手をやり天を仰いだ。
上を向いたリア町長がゆらりと揺らめく。
「お、お嬢様! お気を確かに! 」
倒れそうになったリア町長をコルバーが支えてこちらを見る。
「さ、先ほどの話は本当でしょうか? 」
「現行犯を捕まえております」
ヴォルトが黒ローブを荒っぽく前に出す。
ドスっと音を立てるとコルバーは一歩たじろいだ。
今にも倒れそうなリア町長を離さないようにぐっと堪えて黒ローブを見る。
「本物……のようですね」
ぐったりとした彼らを訝しめに見るが、コルバーはヴォルトが嘘をついているとは思わなかったらしい。
リア町長をソファーに座らせ状況を聞く。
まず最初に気付いたものとしてライナーが説明を始めて、その後の事をヴォルトやエルムンガルドが補足した。
「……私の所ではなくエルゼリアさんの所に」
復活したリア町長が表情を暗くして俯いた。
彼女が気を追う必要はないのだが、言葉にしてもリア町長は納得しないだろうな。
ならばここは何も言葉をかけないに限る。
「しかしグランデ伯爵、ですか」
「ええ。素直に答えてくれましたよ。いやはや物わかりの良い暗殺者で助かりました」
ヴォルトの言葉にリア町長は「そうですか」とだけ頷いた。
契約魔法で嘘をつけない状態だからだろ、とは誰もツッコまない。
「しかし狙われる理由がわからないんだが」
「この町が最初に復興したからでしょうね。グランデ伯爵領は現在原因不明の不作に陥っていますので」
とリア町長が言う。
続けてリア町長が補足してくれた。
グランデ伯爵領は、この町が食料危機にあう前から交流のあった領地でお隣さん。
ここエンジミル王国において食料生産拠点として機能していたらしく重要拠点だった。
またこのグランデ伯爵というのはロイモンド子爵領に経済制裁をかけている貴族の一人らしく、
グランデ伯爵領が「食料生産拠点だった」と過去形なのは、領地が現在原因不明の食料危機に
この領地が機能不全に陥ったことで一時期国内が荒れていたようだ。
「しかしエンジミル国王陛下の手腕によって国を揺るがすほどの騒動にはならなかったようです」
食料生産拠点が機能しなくなったから現在国が荒れているのかと思ったけど違うらしい。
リア町長の話によるとエンジミル国王率いる王族派閥が先陣をきって食料を再分布したとの事。
方法は分からないがこれにより食料騒動は落ち着いたようだ。
「この一連の活躍により王族派閥が勢いを増しております。今回の一件で、一時的に食糧難に陥りかけた所に手を差し伸べた王族派閥の貴族という構図が出来上がり、国民の信頼も厚くなったようで。ですがそれを良く思わない者達、――グランデ伯爵率いる貴族派閥が反発しまして、国内は平和ですが、貴族間は火花が飛び散っています。正直な所その余波で私の所に暗殺者が来ると踏んでいたのですが……申し訳ありません」
「いや良いよ。皆が守ってくれたし」
軽く皆を見渡すと顔を逸らされてしまった。
恥ずかしがり屋さんめ。
しかしリア町長は王城に行った時、かなり情報を持ってきたな。
彼女、情報を仕入れる才能があるんじゃないのか?
自覚はないようだがたった一回で手に入れた情報量にしてはかなり多い。
多少ノイズはかかっているだろうが、貴重な情報だ。
もしかしたら社交パーティーではなく王様に直接聞いたのかも。
いやないか。
流石に自分の国の王様に直接聞くようなことをするタイプにはみえないからな。
けれど終始彼女は他人事のように語っている。
気持ちがわかるとは言えないが、想像はつく。
――自分達の時は何故助けてくれなかったのだ。
これが一番大きいだろう。
他の領地にはすぐに手を指し伸ばすが、自分達の時は今になっても国から支援がない。
今ある支援はあくまでロイモンド子爵家から出されているものであり国からではない。
町長の不満もそうだが、直にロイモンド子爵領の人達もそう思い始めるだろう。
そしてその不満は広がり手が付けられなくなる。
こういった国への不信感は早めに対処しないと後で爆発する可能性がある。
爆発して反乱がおきた国を見たことあるし、巻き込まれたこともあるし。
けれどこれは私の仕事ではない。
見ず知らずの王様を助けるくらいなら、お腹を空かせている人に食事を分けた方が有意義だ。
「しかしグランデ伯爵が私を襲った理由は何だろうな? 目立ってはいたが暗殺されるほどの事をした覚えはないんだが」
「……確かに不自然ですね。この町が最初に復興したといっても、不作の原因がエルゼリアさんにある訳ではないですし」
私とリア町長は首を傾げる。
私達が考えている間にコルバーが暗殺者に聞き出した。
「「「不作の原因が私 (エルゼリアさん)?! 」」」
「少なくとも領主サマはそう思っているらしいぜ。全くばかげた話だ」
言いがかりにもほどがある。
もしできるとしてもそれは人間の
不作を人為的に起こすなんて……、起こすなんて?
「エルムンガルド。何かしてないか? 」
「………………何もしとらんよ」
「その間はなんだ。何をやった? 今なら怒らないから言ってみるんだ」
後ろを振り向きエルムンガルドの蒼い瞳を覗き込む。
じーっと覗くと視線を逸らしてポツリと呟いた。
「……食べ物を粗末にする者には鉄槌をとな。妾の祝福を取り消したのみよ」
「犯人はお前か?! 」
「いやしかしリアの町が、この領地が貧困に
「気持ちはわからなくもないが……。因みに戻すことは可能か? 」
「可能じゃが……、それはこの地の者に意見を聞いてからでもいいと思うのじゃが? 」
「しばらく放置で」
リア町長も大分お怒りのようだ。
結局の所しばらく放置の後エルムンガルドが責任をもって祝福をかけ直すことになった。
渋々といった表情をされたが、精霊の祝福はあって然るべきものだと思う。
なんとか説得した後、暗殺されかけた話に戻る。
意見を出し合ったがリア町長だけでは対処しきれないという判断となった。
よってヴォルト達は後日ロイモンド子爵領の領都へ向かうことになった。
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