第73話 人狼王ライナー・ウルフィード 4 美しき光景
「お前もふもふしてんなぁ! 」
アデルが食堂に入った瞬間人狼族の子供に駆け寄った。
相手はかなり戸惑っている。加えるならそれを見ている大人達も戸惑っている。
一先ず虫下しを飲ませた後の調子を見るために食堂へ向かったのだが、入った瞬間失敗したことに気が付いた。
彼らは変化を解いていてもふもふ人狼状態だったのである。
瞬時に子供達を見たのだがその行動は予想外。
ひるむことなくアデルが突撃してロデとジフも顔を見合わせながら子供達の輪の中に入っていった。
「なんか悪いな」
「いえこちらこそ。しかし彼女達は怖くないのでしょうか? 」
「ま、大丈夫だろう。というよりも
「それは宿でも言われました」
女人狼が今アデルに振り回されている男の子を見てそう言った。
彼女達は変化してここまで着たはずだ。
しかし町の宿ではそうではなかった様子。
何かの
「虫下しを飲んでいる者は体調がすぐれないようで」
彼女は苦い顔をしながら部屋の
私も見ると確かにげっそりとした人狼達がいる。
「あの丸剤はこれが「普通」だ。虫を出し終えると、昨日渡したスープを飲んで体力を回復させていく。あとは食事の改善だな」
「食事、ですか」
彼女の言葉に大きく頷き説明する。
今まで肉ばっかり食べていたようだからな。バランスのいい食事は基本で虫下しで冷めた体を温める食材で整えていく。すると自然と治っていくと伝えて安心してもらうことに。
「虫さえいなくなれば後は体を整えるだけだ。薬膳で重要なのは個人を診ること。一人一人体質が違うだろうから作る料理も変わってくるのは勘弁してくれ」
「そこまでしていただくわけには……」
「ここまできて、更に体調を悪くされると心残りだ。だから最後までつき合わさせてくれよな」
笑みを浮かべて彼女に言う。
こうして薬膳料理による人狼達の治療が始まった。
★
薬膳料理を振る舞い始めて時間が経つ。
流石にずっとレストランを休業しておくわけにはいかないので、彼らを寮に泊めて薬膳料理を運ぶ感じにした。
寮を広めに作っていて良かったと思うと同時にやっぱりというべきか溢れる人が出た。
よって治療が必要ない人はテントを張り外で寝て、治療が必要な人は寮に泊まるという形となった。
そんな中エルムンガルドが現れた。
「あれだけ
「……返す言葉もねぇ。エルムンガルドの姉御」
エルムンガルドに頭が上がらないのか、より一層小さく見える。
ライナーはまだ体質改善中。
あまりプレッシャーを与えてほしくないのだが。
「ほれ。これでも食べるのじゃ」
「ちょ……むごぉ! 」
白い手が赤いリプルを手にしたかと思うと思いっきりライナーの口に押し込んだ。
いきなりの事で反応できなかったのか口をふさがれ顔を青くしている。
ほどなくしてリプルを丸ごとかみ砕いたライナーがエルムンガルドに「勘弁してくださいよ」と涙目で言うが、エルムンガルドは気にせず私の方に来た。
「ほれ。今回分の配達じゃ」
「毎回ありがとうな。しかし手間をかける。私が出向いてもいいんだが」
「構わぬよ。こうして時折外に出るのも楽しみの一つじゃ。今日とてほれ、人狼共を見つけたじゃろ? 」
確かに、と同意しながらレストランに入る。
受付でお金と交換していると、
「仕事も終わったし、町に行こうぜ」
「え、えぇえ? 」
「こうなるとアデルは引かないから諦めて」
人狼の子をアデルが引っ張り連れて行こうとする。
ジフが彼の肩に手をやって苦笑いを浮かべている。
仲が良いのは嬉しい事なのだが心配だ。
「私もついて行きましょう」
「……頼めるか? 」
「ええ。それに我が子の事も気になるので」
人狼姿から狼獣人型をとった母人狼が言う。
聞くと人狼族は人型よりも狼獣人の姿の方が落ち着くらしい。
しかし事情が事情なだけに人型をとらざるを得えないと。
そして無理をした結果、彼女の子供は何度かやらかしたと聞いた。
心配するのは当たり前か。
「よし行くぞー! 」
仕事を終えたアデルが元気よく先陣をきる。
彼女達が扉の向こうに消えていく中、エルムンガルドが少し笑った。
「
「これが自然であってほしいのだが」
「この町以外だと、難しいやもしれぬの」
「だな」
しかしこの町では成り立っている。
この奇跡的な光景に少し感動しながらも、エルムンガルドに断り彼女と別れて、食堂がきちんと掃除されているかチェックする。
「大丈夫そうだ」
仕事をきちんと終えていることを確認している間に、ディナータイムの手伝いを申し出て来た人狼達が店に入って来る。
「今日もよろしくお願いします。姉さん! 」
「「「よろしくお願いします」」」
「よろしくな」
男女の人狼四人と挨拶を交わす。今日も元気で張りのある声だ。
彼ら彼女らはお礼としてこのレストランを手伝いたいとの事だったのでそのまま雇い入れた。
他の、――治療を必要としていない人狼達も何かできないかと考えているらしいが、四人は接客の経験があるということでレストランの手伝いに真っ先に名乗り上げてくれた。
人材不足に悩んでいるこちらとしても断る理由はない。
よってこうして一緒に働いているわけで。
「仕立て屋テラーですよぉ」
玄関からテラーさんが入って来る。彼女には彼らの従業員服を頼んでいた。
彼女がくるまでは仮の従業員服で間に合わせていたが、体に合わなかった。
よってテラーさんに従業員服を頼んだということ。
服は統一感を持たせるために「大人バージョン従業員服」といったところ。
つまりアデル達の服をそのまま大きくした感じである。
最初四人は「お金を払います」といっていたがこれは経営者が
何とか説得し納得してもらったのだが、それが余計に彼らのやる気に火をつけている。
ディナータイムは彼らを加えた計六人。
前に仕事を見たが普通にできていた。
よって彼らに関して心配はないのだが……。
「午後もよろちッ......よろしくお願いします! 」
……ラビが不安だ。
今の所はなんとかやっていけているのだが不安で仕方ない。
まぁ彼女は元気いっぱいなのが取り
その雰囲気の明るさで周りを元気にしてほしい。
思いながらも準備を進めていく。
薬膳料理を作りながらレストランも頑張る。
そうしている間に、ライナーが復活した。
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