第72話 人狼王ライナー・ウルフィード 3 異国の薬 異国の医学

 ヴォルトの診察の結果、ライナーは虫を抱えていることに加えて栄養がかたよっているとの事。

 そう言われて人狼族の人達は気まずそうに顔を逸らしていた。


 聞くところによると人狼族は肉を好んで食べるらしい。

 ライナーを気にしていた女性が推察するに肉の処理が甘く、虫をお腹に抱える結果となってしまったのだろうと。

 そこからヴォルトの補足が入る。

 確かに人狼族は内側からの攻撃に弱い。しかし虫が人狼王を追い詰める程にダメージを与えたのは、ライナーの偏食も原因しているとのこと。

 つまり栄養が偏り弱っている体に虫が猛攻を仕掛けてしまったということか。


 ――確かにこれは、気まずい。


 いたたまれない雰囲気の中ヴォルトは他にもお腹に虫を抱えている人がいるかもしれないと告げて私と別れた。

 そして私は今倉庫にいる。


「なにを作るんだ? 」

駆虫くちゅう薬と補気薬」

「……にくい相手でもできたのか? 」

失敬しっけいな。単なる病人だよ」


 テキパキと簡易キッチンを作りながらソウに言う。

 いぶかしむソウに材料を出してもらい胡坐あぐらをかく。


「さて人狼族に効くのか不明だが作っていきましょうか」

「飲むやつが不憫ふびんでならん」

「味は悪いが効果は確かだ。さぁ作ろう」


 そう言いながら私はゴリゴリっと薬草を潰し始めた。


 ★


「ほほう。これが異国の薬、ですかな」

「薬といえば薬だが料理といえば料理だな。まぁ虫下しは薬に振り切っているが」


 虫下しを一通り作り終え、補気薬をせんじていた頃ヴォルトが倉庫に現れた。

 声の方を向くと、開いた扉から光が差し込まない事に気が付いて、虫下しを作り始めてかなり時間が経ったことを知る。

 かなりの時間大量に作っていたせいか、この倉庫には甘い匂いが充満じゅうまんしている。

 これらは臭いがきつく他の料理に味や臭いが移ってしまう。よって作る場所を倉庫に移したのだ。


 今日の竜の巫女は臨時休業。

 途中現れたラビに看板をたててもらってたりもする。


「こちらからは嗅いだことのない甘い匂いがしますが……」

「これで味と効果を調整するんだよ」

「まだ知らない事ばかりですね。今度教えていただいても? 」

「いいよ。技術の後継者は幾らいても足りないくらいだからな」


 そう言いながら材料の事が頭をよぎる。

 しかし一度連れて行けばヴォルトは転移魔法を使える事を思い出して、いらない心配だなと納得する。


「そっちの丸剤が虫下しだ。何人分いる? 」

「結局氏族全体の半分に虫がいました。なので二、三十人分になります」

「なら足りるな。しかし何でライナーにだけ発病したんだ? 」

「恐らく他の誰よりも虫が長くお腹にいたからでしょう」

潜伏せんぷく期間ってやつか」


 ええ、と頷きながら座る私の横に来る。

 座りながら丸剤を布でくるむヴォルトに伝える。


「本当は病気を未然みぜんに防ぐ料理が最上とされるんだがな」

「この国周辺とはまた違う価値観の医学概念がいねんですねぇ」

「あぁ。病気とは日頃の生活や食生活からくるものってね。だから虫下しで腹下しなその丸剤は下も下だ」

「しかし必要なのですよね? 」

「もちろんだ。虫がいなくなった後体力が急激に落ちるから煎じ終えたそっちのスープを飲ませると良い」

「ありがとうございます」

「あぁ。しかしライナーには後で説教が必要だな」


 私の言葉にヴォルトは「はは」っと笑う。


「この世界どこを見渡しても種族王に説教できるのはエルゼリア殿くらいしかいませんねぇ」

「そんなことないぞ? 「食事がなってない! 死ぬ気か馬鹿野郎!」って皇帝ぶん殴った奴もいるからな」

「それはエルゼリアの事じゃないか」

「うるさいソウ」


 言うとソウが体を縮めてそのまま丸めた。

 寝る体勢に入っているソウを見つつヴォルトを見送る。

 扉から調理器具に目を移して火を消し煎じたものを小分けする。

 小屋の外で器具を洗い簡易保存庫にスープを入れる。


「さて私もひと眠りするか」


 ソウにつられるように私も寝入った。


 ★


 いつもとは違う臭いが鼻をつく。意識がのぼると光を感じた。


 ――朝か。


 久しぶりに地面で寝たな。

 ん、と体をひねると痛みが走る。体がカチンコチンだ。


 瞳を開けて体を起こす。


「ん~~~」


 腕を伸ばして疲労を吹き飛ばし軽くストレッチ。

 体を動かしているとはなちょうちんを膨らませているソウが目に入る。

 寝なくてもいい精霊がどうやってはなちょうちんを膨らませているんだ?

 世界七不思議に数えてもいいと思う。

 と馬鹿なことを考えつつもソウを起こす。


「わ、我はドラゴンではない! ステーキにするのはやめろぉ! 」


 ……どんな夢を見ているんだ?

 事ある毎にドラゴンステーキを食べているからドラゴンに食べられる夢でも見ているのかもしれない。

 自業自得だ。

 呆れながらも叩き起こす。しかし起きないのでここは一言。


「……ゴブリン出汁だし

「それだけは勘弁しろぉぉぉぉぉ!!! 」


 起きたようだ。

 冷や汗を流しながら右に左になにやら確認している。

 ふぅと溜息をついて安心している所悪いが早速仕事をしてもらおう。


「保存庫を頼む」

「……ゴブリン出汁は? 」

「飲みたいのか? 」

「し、仕方ない。我が率先して運んでやろう」


 言ってから行動は早かった。ソウは早急に保存庫や器具を回収して私の肩に乗る。

 重さを感じたら倉庫を出る。


「「「エルゼリアさん、おはようございます!!! 」」」

「おはよう」


 倉庫から移動していると出勤してきたアデル達と出くわした。

 一緒にレストランに向かう。

 扉を開けようとした時、ふと思い出した。


「昨日から団体客がいるから今日はお休みな」

「えええーーー?! 」

「休み」

「では今日はどうするのですか? 」


 んん~、と考え子供達を見る。

 そしてジフの質問に答えた。


「今日はお仕事休みだな」

「そうですか」


 ジフが肩を落とした。

 なんだかんだでこの仕事を気に入ってもらえているのは嬉しいな。

 ジフの緑髪を少し撫でながら「今日どうしようか」と考える。

 彼らをこのまま寮に返していいが、すると休みではなく畑仕事に駆り出されそうだ。

 せっかく休みにしたのだからきちんと休んで欲しいと思うのだが……。


「団体客の中に子供がいるんだ。その子達と遊んでくれないか? 」


 言うときょとんとした表情を浮かべるアデル達。

 そして一番早くアデルが太陽のような笑みを浮かべて手を上げた。


「はいはい! オレそいつらと遊ぶ! 」

「アデルが行くなら」

「仕方ないんですね」

「よかった。なら頼んだぞ」


 元気な返事を聞きながらレストランに入る。

 食堂の方へ向かうとそこには人狼姿の集団がいた。


———

 後書き


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