第63話 レアの町、再び 1
「エルゼリア。難しい顔をしてどうした? 」
「ん~。そろそろ道具が限界かなと」
私はキッチンの上に並べた調理器具を眺めながら
料理人として調理器具をこまめに綺麗にして大事にするのは当たり前だ。
実際調理を終えた後のみならず朝昼晩と何度もチェックをしているし。
けれど私は料理人。鍛冶師ではない。
使っていく内に劣化していくものはどうにもできない。
「買い替えか」
「……一体何十年使っていると思うんだ? 持っている方だと思うぞ? 」
「いや愛着というものがあるんだよ。ソウ」
「そんなものか? 」
「そういうものだ」
再度大きく溜息をつく。しかし換えるしかない。
一先ずこのまま使えるものと使えないものを分けて行く。
使えるものはそのまま使いたいし。
ソウに頼んで異空間収納から他の器具も出してもらう。
整備で済むもの、そのまま使えるもの、買い換えるものと並べて行く。
「そんなに器具を出してどうしたのですか? 」
ぴょこん、とキッチンの扉から大きな耳が出て来たと思うとラビが声をかけて来た。
事情を話すとラビが納得したような顔をする。
「確かに今まで使っていたものを換えるとなると寂しい気持ちになりますね」
「だろ? 」
「我がおかしいのか? 我がおかしいのか? 」
「ま、ちょっとした価値観の違いだよ。気にするなソウ」
「で、この器具を買い換えるとしてどこで買うのですか? 」
ラビに言われて気が付いた。
そう言われると買う場所がないな。この町で調理器具を売っている場所を見たことないし。
ならば他の町になるな。
それかコルナットに頼んで取り寄せてもらうか、だな。
けれど料理に使う物は自分で決めたい。
「……考えてなかったな。ラビ。この町周辺で調理器具を売っている場所、知らないか? 」
「残念ながら知りませんねぇ」
大きな白い耳をしゅんと垂らして落ち込んだ。
ラビには悪いが落ち込んでいる間も器具を整理していく。
ほどなくして子供達の声が聞こえてくる。
「エルゼリアさん。今日は……、何をしているんですか? 」
ジフが終業の挨拶にきてラビと同じ質問をしてくる。
ジフに遅れてアデルとロデが駆け足でやってきて種類豊富な器具に目を輝かせた。
「危ないから少し離れてろ」
そう言いながらジフの質問に答える。
するとアデルが手を上げた。
「じいちゃんに聞いてみたらどうだ? 」
「アロムさんにか? 」
アデルの祖父アロムさんが鍛冶に詳しいという話は聞いたことがない。
しかし何か知っているのなら教えてほしい。
ということをアデルに伝えると、「連れて来る! 」といってレストランを出て行った。
「騒がしい子だな」
「その言葉をソウに言われたら終わりだな」
そんなやりとりをしている間にアロムさんがやってくる。
元気な顔を私に向けて要件を聞いて来た。
急いだせいかアデルはアロムさんに伝え忘れたようだ。
なので手早く事情を話す。
「調理器具かの。ならばレアの町はどうじゃ? 」
言われてみればこの前言った時包丁とかを売っていたな。
「あそこならば、余程特殊な調理器具でなければ、売っているはずじゃ」
「今回買い換えるのは普通のものだから大丈夫かな」
私がもっているものの中には一品ものも多くある。
それは流石にソウに頼んで転移魔法で製作者の所まで行かないといけないが、今回は普通のもの。
ならば近場で手に入れるのが一番良い。
距離のこともあるが整備の事もあるしね。
「助かった。レアの町に行ってみることにするよ」
「ほほ。この老いぼれでも役に立ててよかったわい。じゃぁの」
「あ、じいちゃん待って。エルゼリアさん。お疲れさまでした」
「お疲れさん」
「「「お疲れさまでした」」」
それぞれ挨拶をして手を振り見送る。
休日にでも器具を買いに行くとして、今の内に冒険者ギルドへ行くことにした。
★
「レアの町まで護衛を頼みたいのだが」
「畏まりました。指名は如何なさいますか」
「この前護衛してくれた……、ええっとテレサ達で」
「承知いたしました。少々お待ちください」
受付でレアの町までの護衛依頼を頼む。
少し離れて様子を見る。
エルフ族の受付嬢は書類を出して依頼書を作成していた。
ソウがいる限り大丈夫だとは思うが念のため。
物理や魔法ならばソウで解決できるのだが、力押しできない相手となると護衛に任せた方がいい場合もある。
例えば捕縛しないといけない場合。
ソウだと相手を塵も残さず対処できるが捕縛となると加減が難しい。
「ではこちらにサインを」
言われてサインを書く。
紙を彼女に渡して依頼書作成完了。
受付に背を向けてギルド内を少し歩きながら「これからどうしよう」と考える。
ディナーはあるが今日は比較的穏やかだろう。
あまり急いで帰るほどでもない。
だが町を見て周るほどの時間はない。
考えるのをやめて顔を上げる。
ぐるりと見るとギルドにいる冒険者の数がいつもよりも多い事に気が付いた。
「あれ。エルゼリアさんじゃないですか」
声が聞こえる方を見るとそこにはさっき依頼を申し込んだテレサ達がいた。
彼女に手を振りながら挨拶を返すと後ろからぞろぞろとレオラ達が入ってきた。
「……テレサ。先に報告」
「あ。そうだった」
ボルに言われてテレサはすぐに受付に向かう。
その様子を微笑ましく見ながらも解体場へ行く彼女達を見送り戻ってくるのを待つ。
待つこと数分。
テレサ一人が私の所へやって来た。
「他の皆は? 」
「解体場で仕事を任せてきました」
「それ良いのか? 」
「良いのです! 私はこっちでエルゼリアさんと打ち合わせをするように言われたので」
どうやら指名依頼のことは聞いたようだ。
この様子だと受けてくれるみたい。
大丈夫だとは思っていたが、実際に受けてくれると聞くとホッとする。
「今回もレアの町までで大丈夫ですか? 」
「ああ。よろしく頼む」
「どこに寄るか聞いても? 」
「まだ詳細は分からない。向こうに着いてから探そうと思っている」
私の言葉を聞き、首を傾げたテレサに事情を話す。
「確かにそれは行ってみないとわかりませんね」
「テレサはどこか良い鍛冶屋は知らないか? 」
「剣や防具とかならボル達が時々行くので多少は分かるのですが調理器具となると力になれません。申し訳ないです」
しゅんとするテレサにフォローを入れながら詳細を詰める。
結局の所次の休業日レアの町に行くこととなった。
———
後書き
こここまで読んでいただきありがとうございます!!!
続きが気になる方は是非とも「フォロー」を
面白く感じていただければエピソード下もしくは目次下部にある「★評価」を
ぽちっとよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます