第24話 リアの町の歴史
陽が傾き始めた頃、アデルの祖父——アロムさんが自分の家から機材を持ってきた。
「キッチンを使われるのは嫌だと思っての」
「……そんなことはない」
「そういうことにしておこうかの。ま、それにわしもここに住まわせてもらうからの。丁度良い荷物運びじゃよ」
ほほっと笑いながら庭に鉄板を広げていく。
手伝おうかと聞いたが断られてしまった。
恐らくジフの両親が強化魔法でもかけたのだろう。軽々と黒い鉄板を動かしている。
高さは私の腰ほど。
アロムさんには少し高い気がするが、昔は背が高かったのだろうと想像する。
ちょっとした
「言わなくてもわかると思うが、これは加熱用の魔道具じゃ」
銀色のヘラを二枚手に持ちアロムさんが説明する。
上には見えない。
「下に魔法陣があるな」
小さい姿のソウが四本足の鉄板を下から覗いて教えてくれた。
ソウはそのままトテトテとこちらに戻る。
翼を広げたかと思うといつもの定位置、私の肩にのかった。
「では始めるとしよう」
渡した食材を手に、「シャンシャン」と音を鳴らすアロムさんが調理を始めた。
★
「ほれ。出来たぞ」
「
「美食の匂いがぷんぷんするぞ!!! 」
アロムさんが額の汗をぬぐいお皿に料理を盛ってくれた。
早くもソウが興奮し翼をバサバサとはためかせている。
「じいちゃんこれなに? 」
「リア焼きじゃよ」
「久しぶりですね。ここ数十年食べていない」
「お腹がすく匂いですね」
ジフの両親が、言う。
エルフ族の彼らがそういうのならば、その昔作られていたことは確かなようだ。
ぐるりと周りを見ると他の家族も集まっている。
ある人は懐かしそうに、ある人は腹を鳴らして様子を見ていた。
「そんな顔してもダメじゃ。これは嬢ちゃんに振る舞ったものじゃからの」
「別に良い。皆で食べよう」
言うと皆明るくなる。
その様子をみて呆れるアロムさんだが、その様子をどこか温かいものを見る目で見ている。
微笑ましくなりながらも更にお皿を取り出し、円形の料理を取り分ける。
その中で工程を思い出す。
料理自体は簡素なものだった。
多くの肉と野菜を混ぜ込み塩
自前で持ってきた粉を振りまき固めたこと。
がアロムさんからすればまだ不満のようで寂しそうな顔をする。
「本当はタレもつけたかったのじゃがの」
「……因みに作り方は? 」
「この程度ならあとで教えるわい」
そう言いアロムさんがフォークを手に取り、私に
今回はアロムさんが
「恵みに感謝を」
「「「恵みに感謝を」」」
そして私は
★
眼下に多くの光が見える。
私は空を飛んでいるのだろう。町の光だ。
意識を集中させて下へ降りる。
しかし
この体験は、何度もしている。
――私の異能「
私の異能は食が体験した歴史を知る。
私はリア焼きを口にして発動させた。
つまりこれはリアの町の記憶の一部、ということになる。
町を歩きながら観察する。
右にも左にも大勢の人が行き来している。
きっと繫栄していた頃の記憶だろう。
そう言えばリア焼き、ジューシーだったな。
思い出すだけでお腹が空く。
周りを見ると多くの屋台が外に出ている。
屋台だけで町の一角を作れるくらい店が出ている。ジュゥゥゥゥと焼ける音に濃くて香ばしい匂い、それに酒の匂いなど様々な匂いを感じ取ることができた。
屋台が出ているものの構造は見たことがある。
恐らくここは町の市場だ。
周りを観察しつつ屋台を覗くと一組のリア焼きを食べる男達がいた。
「実は俺この前結婚した」
「マジか。めでたいな」
「くそ。先を越しやがって」
人族の男性がリア焼きを食べながら結婚報告していた。
エルフの男性がそれを悔しがり熊獣人の男性がお祝いしていた。
熊獣人が気を利かせたのだろう。
エールをもう一杯持ってきた。
「リア焼きといやぁ。このタレだな! 」
「俺はレアの町の薄味も好きだがな」
「ばぁか。この濃さがわからないとは……。だから結婚出来ねぇんだ」
「それは関係ないだろ?! 」
エルフ族の男性は少し焦りながら否定する。
人族の男性はヘラでリア焼きに黒いものを塗って、大きな口でそれを食べた。
恐らくあれがアロムさんがいっていた「タレ」だろう。
「んんん~~~!!! うめぇ! 」
食べたと同時に「ごくごくごくごく」とエールを流し込んだ。
「くぅ! 仕事の後の一杯がきくぅ! 」
「確かに美味い」
「ちくしょう。やけぐいだぁ! 」
余程悔しいのかエルフ族の男性はリア焼きをどんどんと口に入れている。
一分もしないうちに三枚ほど平らげていた。
――微笑ましいな。
顔を緩めながらその場を離れる。
どうやら周りの屋台をみるとどうやらリア焼きだけではないようだ。
多くの食事が出店している。
大和で見たようなスープと麺を合わせた料理を食べている男性。
分厚い魔物肉を豪快に焼いて食べている女性。
はたまたエールで飲み比べをしている男女に、潰れている男性の山。
今のリアの町からは想像ができないほどの繁盛っぷりだ。
――復興させたい。
――町おこしをしたい。
――この光景を、再現したい。越えたい。
久しぶりに心からそう思い、中で作り方を学んだ後、私は意識を浮上させた。
★
「どうだった? 」
「もっとこの町を知りたい。そう思えるようになった」
「そうか」
「ソウも護衛ありがとうな」
「我に任せておけば虫一匹通さんわ! 」
「それは頼もしい」
食後それぞれ解散し私は自室で一息ついていた。
異能で意識が飛ぶのは僅か数秒。
体験時間にしてはかなり短いが、その間はソウに護衛を頼んでいる。
稀にあの瞬間に危機的状況になる事がある。
よってこうして頼んでいるわけだが今回は必要なかったようだ。
「明日から本格始動だ。早めに寝るぞ」
「うむ」
「じゃぁ、おやすみ」
そう言い私は意識を手放した。
★
朝起きランチとディナーの仕込みをはじめる。
ものによっては数日前から仕込まないといけないものもあるので今日は優しい方。
いずれはそれもメニューに入れないといけないな。
そう考えつつも作業を進ませる。
仕込みを終えてキッチンを出るとラビが起きてきた。
「おはようございます」
「おはよう。ラビ」
「おはようなのである! 」
「……ソウ。昨日の晩、あの後なに食った? 」
「た、食べとらんわ! 」
「口に何かついているんだけど」
「む。ジャガジャガの食べ残しか。失礼した」
「……朝食抜きな」
一言でソウを絶望に落とした後に玄関が開く。
するとグレーの作業服に白いエプロンをかけたヴォルトが入ってきた。
「皆様おはようございます」
それぞれ挨拶してヴォルトが首を傾げながら私に聞いた。
「ソウ殿は如何されたので? 」
「ちょっと食べ過ぎただけだ。気にするな」
なるほど、と理解したヴォルトは私達と共に食堂へ進む。
そして朝食をとった。
食事を終え、子供達がラビと共に接客の練習をしている。
甘い目で見て
本当はもっと練習をさせたかったが時間が差し迫っている。
こればかりは仕方ない。
これ以上外を待たせると暴動が起きかねないからな。
私は騒がしい外に足を向ける。
ソウは私の肩に乗り、骸骨顔のヴォルトは余裕の雰囲気を出して隣を歩いている。
けれど後ろの子供達は違うようで、ちょっと振り返ると緊張した表情で子供達とラビがついてきていた。
天気は快清、従業員も元気いっぱい。客も一杯!
さぁ行くぞ!!!
「お待たせしました! レストラン「竜の巫女」。開業します!!! 」
「「「いらっしゃいませ!!! 」」」
記念すべき一日目の、始まりだ。
———
後書き
こここまで読んでいただきありがとうございます!!!
これにて第一章は完結になります。
次話より第二章へ入りますのでよろしくお願いいたします!
続きが気になる方は是非とも「フォロー」を
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ぽちっとよろしくお願いします。
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