旅の料理人エルゼリアはレストランを構えて町おこしをする
蒼田
第1章:不死王ヴォルト
第1話 旅する料理人エルゼリアと竜型精霊獣ソウ
「ソウ! 今度こそ綺麗に仕留めろよ! 」
「小言を言うなエルゼリア。そんなこと分かっとるわ!!! 」
嘘をつけ、と思いながら迫りくる魔物の大群を見る。
ゴブリンにオーク、オーガ。何ともメジャーな魔物ばかりだ。
私は魔杖を掲げ
「オークくらいか」
独り言ちながら魔法を展開していく。
ゴブリンの耳は錬金術に使えるがオーガは本格的に何も使えない。
繊維質で脂肪のない筋肉は食べれたものじゃないし食べる気にもなれない。
魔物達のバリエーションの少なさに気を落としながらも魔力を高める。
「では殲滅といこう。
魔法を発動させると魔法陣から無数の硬化された魔弾が大群を襲う。
ドドド、と言う音と共に「Gaaa!!! 」とい魔物達の悲鳴が上がる。
展開した魔法は相手を殲滅するまで続き、状況に狼狽しているオークだけが残った。
「じゃ、サクッと行くか」
★
魔境の一角で私は竜型の精霊獣ことソウを見上げている。
光り輝くその姿は幻想的なのだろうが口に加えた血みどろのドラゴンをみると全てが台無しだ。
「どうだ! 」
「阿保か! もっと綺麗に仕留めることができないのか! 」
「これでも努力したぞ? 」
採って来たドラゴンを地面に置く。
超重量のグリーンドラゴンがズドンと大きな音を立てる。
ソウはいじけたように「ふん」と首を背けた。
しかし爬虫類のような金色の瞳がチラチラとこちらにやっている。
それをみて溜息をつきながらもソウに声かけた。
本当は気分を害してないくせに、こうしてアピールしてくるとは。
子供か!!!
「オーケー。分かった。焼いてやるから機嫌を直せ。そして道具を出せ」
「最初から我に
私が了解すると渋々と言った雰囲気を出しながらもソウが異空間収納から私の道具を引き出す。
地面に輝く魔法陣が現れたかと思うと巨大なフライパンがガランと音を立てて現れ、続いていまな板に包丁が現れた。
「これでいいだろ? 」
どやっているソウを見つつ呆れて溜息をつく。
「これだけだとソウは満足しないだろ? 油と塩胡椒。あとはブラッディスライムもだ」
最初から言え、と毎度おなじみの言葉を発すると、少し鼻歌交じりに魔法を発動させていく。
ソウは私の契約精霊。
私の出身の森——アドラの森のエルフ族は皆成人になると精霊と契約をするのだが、何の因果か私が契約したのはこのひねくれ者の蒼い竜型の精霊だ。
ひねくれてはいるもののその実力は強大で使える魔法も多種多様。
現に人間では再現不可能と言われている時空間魔法や転移魔法を使えるから彼と契約できたのは幸運だったのかもしれない。
その代わり食事に煩いが。
「これでいいだろ? 早く焼け」
「少し待て」
「待てるものか。久々のエルゼリア手製のドラゴンステーキだ。待てというエルゼリアは拷問官か? 」
「……血抜きのできていないまずいドラゴンステーキを食べたいのならそれでいいが? 」
「……むぅ」
私が言うとソウは大きく翼を畳む。
しかし待ちきれないのか人間大まで体を小さくして軽く鼻歌を歌っている。
大袈裟なと思いつつもブラッディスライムが入っている樽に近寄り、開ける。
中には血を思わせるような赤い液体状の魔物が入っていて軽く波打っていた。
ドラゴンの血を感知したのか打つ波が止まる。
私が少し離れると一気にドラゴンの方へ向かって行き、そして吸血し始めた。
順調に血抜きが出来ていることを確認しながら肉切り包丁を持ち上げる。
「いつも思うが軽量化されてこれだもんな」
ソウに大型魔物の料理を振るうために作ってもらった包丁。
超重量のそれを両手で持って軽く鳴らす。
「済んだようだぞ」
「そう焦るな。ソウ、ブラッディスライムを頼む」
「任された」
今か今かと待ちきれないソウに苦笑しながらドラゴンの方へ向かって行く。
その間にソウがブラッディスライムを樽の中へ誘導。
完全にスライムがいなくなったのを確認して肉を切り分けていった。
「よし」
大きな肉切り包丁を置いて普通の包丁を手に取った。
普通、といっても素材を加工しやすいように魔化が施されてる一品。
これまた魔化が施されたまな板に肉の塊をのせて、包丁でドラゴン肉を切っていく。
ブロック状にして保存するのもありだなと思うも今回倒したドラゴンは比較的小型。
ソウの食欲ならすぐになくなるだろうと考えスライスしていった。
「あとは焼くだけだ」
肉を乗せる前にフライパンに魔力を流す。
熱くなり額からジワリと汗が流れるが、それを腕で拭って肉を置いて行った。
「おおおおお!!! 」
じゅわぁぁぁぁぁぁ、と音が鳴り特有の香ばしい匂いが漂うとソウが興奮して身を乗り出そうとしている。
ナプキンをつけて両手にフォークを構えているソウを見つつトングでそれらを交互に焼く。
ズンズンズン、とソウが足踏みして急かすがまだだ。
ドラゴンの肉は火が通りにくい。
まぁソウが腹を壊すことは無いと思うが私がまずい。
ミディアムが好きという人もいるだろうが、ことレッドドラゴンはじっくりと焼いた方が良い。
ソウが足踏みで前に聞いた音楽を奏でながらも焼いていく。
塩胡椒を少量ふりかけ再度回す。
五回ほど確認しながら焼いてソウに声をかけようとしたら、ソウが皿を持ってそこにいた。
★
「美味! 美味である!!! 」
「そりゃぁ良かった」
久々のドラゴンステーキにソウが上機嫌。
大きな尻尾を右に左にと振りながらもう一枚口に放り込んだ。
「美味である!!! 」
顔をほころばせるソウを見て目線を皿に落とした。
大雑把な料理に見えるがドラゴン料理は難しい。
火加減に合わせる調味料に時間にと。
ソウが喜んでくれて何よりだ、と思いながらも「恵みに感謝を」と食前の言葉を口にして、私も一枚口に運ぶ。
「~~~~!!! 」
じゅっと口の中に肉の味が染みわたる。
噛むごとに肉汁が溢れ出し口の中を蹂躙する。
終えた肉を喉に通すと体中に力が
次に次にとフォークが進む。ソウではないが本当に美味しい。
最上位に位置する素材とはいえ焼いただけでこれだけの味。
もっと設備が整っていたら何が作れただろうかと、ない物ねだりをして自嘲した。
ソウが夢中になるのもわかる。
この体中を蹂躙していく味は特別だ。肉には様々な種類があるがドラゴン特有の暴力的な味は他にはない。
いつの間にか肉がない。
どうやら食べ終わったようだ。
「では」
「うむ」
食べ終えた私達は顔を合わせ皿を置く。
軽く瞳を瞑り手を合わせ締めの言葉を口にする。
「「ご馳走様でした」」
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