高校デビューに失敗した結果、クラスで『闇姫』と呼ばれてるボッチな地雷系女子に懐かれた件

青野 瀬樹斗

闇姫に懐かれた

俺の高校デビューは闇姫によって失敗した


 ──教室入った瞬間、俺の高校デビュー終わったわ。


 そんな某曲のワンフレーズに寄せた感想を浮かべてしまう程、同級生となったとある女子を目にした衝撃は凄まじい以外のなにものでもなかった。


 そういえば入学式の時、ヤバい女子が居るって囁かれてるの聞いたっけ。

 同じクラスになるとかどんな確率だよ。


 彼女に注目しているのは俺だけでなく、先に来ていた新しいクラスメイト達も同様だ。

 非常に近寄りがたそうで、どう対応すれば良いのか困り果てている様子だった。

 その気持ちはめちゃくちゃ共感できる。

 何故なら窓際後方の席に座っている件の女子はどう見ても普通じゃないからだ。


 白のリボンで結んだ黒髪のツーサイドアップ、髪に混じっているインナーカラーと同じ紫の瞳は気怠げで覇気が無い。

 顔の半分を黒のマスクが覆っているにも関わらず、目が離せない程の美貌の持ち主だと判る。

 美少女ってすげぇ。


 極めつけはその服装だろう。 

 黒と紫を基調としたトップスはボタン代わりに白いリボンが着けられ、フリルがあしらわれた襟と袖には白のレースが刺繍されている。

 グレーのチェック柄スカートは短く折られ、そこから伸びる足は黒のニーハイソックスによって魅力的な絶対領域を作り上げていた。


 ──地雷系。


 女の子らしい可愛さと毒々しい危うさを兼ね備えた、独特なファッションコーデを指す。

 あの華やかな外見とは裏腹に関わりたくない雰囲気はまさしく地雷系そのもの。 

 いくら煌ノ神こうのがみ学園では私服登校が認可されてるからって、一切の自重もせず地雷系で来るとか予想外にも程がある。

 そんな地雷系女子が注目されない道理なんてないだろう。


 ともかく彼女の存在により、俺──たつみ翔真しょうまの高校デビューは失敗の可能性が色濃くなってしまった。

 高校入学というタイミングで中学とは真逆の学校生活を送ろうと、受験を終えてから今日までひたすらに己を磨き続けた努力が水の泡になろうとしている。

 予定通りなら今頃『あの男子、ちょっと良いかも~』みたいな黄色い声が聞けるはずだったのに、誰も俺の入室に気付いた様子が無い。

 まさか地雷系女子によって出鼻を挫かれるとは思わなかったわ。


 てかどうしよ俺の席、あの子の右隣なんだけど。

 話し掛けられるのを待とうにも、誰も俺の方に来てくれなさそう。


 い、いやむしろこういう時にこそ発想を逆転させるんだ!

 明らかに浮いている地雷系女子に人当たりよく接することで、俺という存在をアピールするチャンスに変えよう!


 そうして自分を奮い立たせて、そうするのが当たり前のように彼女の側に立った。

 当然と言うべきか地雷系女子に集まっていた多くの眼差しが俺にも向けられる。


 ざわざわと『アイツ、まさか話し掛けに行くのか』なんて憐れみを向けられる始末だ。


 その通りだけどファーストペンギン気分が拭えねぇ。

 確かに高校デビューして注目されたいとは思っていたけど、もっと違う方向が良かったわ。


 脳内でそんなツッコミを入れながら、改めて地雷系女子を見やる。

 周りのことなど興味ないのか、俺が近くに立っていても無反応のままスマホを眺めていた。


 空気扱いされてるみたいで若干傷付くものの、クラスメイトとして仲良くしていきたい。


「ねぇ。俺、巽翔真っていうんだ。これから一年間、よろしくな」


 手始めに挨拶を投げ掛ける。

 我ながら噛まずによく言えたと褒めていると、地雷系女子の目がこちらを向く。


 うわ、正面から見るとやっぱ段違いに可愛い。

 気怠げながら透き通った紫の瞳に見つめられ、思わずドキドキして来た。

 そんな俺の挨拶に対して彼女は……。


「よろ」


 それだけ言って視線をスマホに戻した。


 ……これで終わり?

 え、嘘でしょ?


 二秒にも満たない会話の終了に戸惑いを隠せず頬が引き攣る。

 見た目通り無愛想なようだ。

 気味悪がられただろうかと項垂れそうになっていると、あまりにも早い撃沈にクラスメイト達がクスクスと小さな嘲笑を囁いていた。

 まるでクラスで浮きそうな人にも分け隔てなく接する男から一転して、意気揚々と女子に粉を掛けようとして袖にされた男を嗤うように。


 おっとぉ……これってもしやダメなやつでは?

 明らかに弄られ役に定まってしまった予感しかない。

 

 おのれ地雷系女子ぃ!

 せめて違うクラスだったらこんな辱しめ受けなかったのに!


 逆恨み半分だと分かっていも、心の中で呪詛を吐かずにいられなかった。

 どうしよう、高校生活うまくやっていけるかなぁ……。


 地雷系女子から離れるため、トボトボと教室のすみへ退散する。

 その間も周りから向けられる奇異の眼差しに身を震わせ続けている時だった。


「よっす。お前の勇気と無謀、確かに見届けたぞ」

「早速出来た黒歴史を掘り返さないでくれる!?」

「アッハハ悪い悪い! 野々倉ののくら漣哉れんやだ。良かったら仲良くやろうぜ」

「……たつみ翔真しょうま。同じクラス同士よろしく」


 明るい茶髪をしたイケてる感じの男子に話し掛けられた。

 懸念通りの弄られっぷりに不承不承で名乗り返す。


 互いの名前を教え合ってから、野々倉はチラリと地雷系女子に目を向ける。


「でも実際のとこ、お前だけだぞ? あの子に話し掛けたの」

「え? いくら近寄り難くても、俺以外誰もってのは言い過ぎだろ?」

「ところがマジなんだよなぁ。だからこうして骨を拾いに来た訳だ」

「屍になってねぇよ。でも一人になるよりずっとマシだから感謝してる」


 奇しくも地雷系のおかげで話題に困らなかった。

 掴みを実感しながら俺は続ける。


「でもあの子さ、格好はともかく顔はめちゃくちゃ可愛くないか?」

「確かに。マスク越しでも判るって思うとすげぇな。あれはモテるに違いない」

「分かる。出来れば仲良くしたいけど……地雷系だからなぁ」

「地雷系なんだよなぁ」


 二人で揃って腕を組みながら悩ましげな面持ちを作る。

 失礼なのは承知の上だが、これはどうしても避けられないことだ。


 何せ彼女の格好が地雷系と呼称されている所以は、あの服装の女子の内面は非常に厄介な……いわゆる『病み』を抱えていることが多い。

 個人に固執したりその感情がやたらと重かったりする、一部ではメンヘラとも称される爆弾を秘めている。

 つまりどんなに美少女でも、性格が悪かったら関わりたくないというワケだ。


 そういう話も通じるとは、野々倉とは仲良くやって行けそうな予感がする。 


 ──キーンコーンカーンコーン……。


「そろそろホームルームか。今のうちに連絡先交換しとこうぜ」

「サンキュ。聞く手間が省けた」

「ハハッ、口に出して言うなよ。んじゃ」

「あぁ」


 予鈴が鳴ったタイミングで野々倉と別れて、俺は自分の席に座る。

 そう……隣に地雷系女子がいる席に。

 さっき袖にされたこともあってめちゃくちゃ行き辛い。


 まぁでも彼女からすれば、入学初日にまだよく知らない男子に話し掛けられたら警戒するに決まってるか。

 功を焦った自分にも原因はあると自省しながら席に着く。

 やはりというか話し掛けた時同様、彼女は俺のことを一瞥すらしない。


 ……気まずいなぁ。


 そんなことを考えている内に、担任の先生が教室に入ってくる。

 先生は地雷系を見た瞬間、肩を揺らすくらいビックリしていたけど、特に言及することなく教壇に立って話し始めた。


 友達作りとしては及第点と言えるだろうが、望んでいた高校デビューは失敗となってしまった。

 最悪こそ避けられたけど、入念な準備を手伝ってくれた妹に申し訳が立たない。

 帰ったら結果を報告するように言われてるので、この分じゃ何かしら奢らされそうだ。


 絶対に機嫌損ねる妹を浮かべつつ、ため息をついて項垂れながら先生の話を聞き流す。


 これが後に『闇姫やみひめ』と呼ばれるようになった地雷系女子──鴉庭からすばななとの出会いだった。


 ========


 新作です!

 地雷系ヒロインとのラブコメ、どうかお付き合い頂けると幸いです。


 次回はお昼に更新します。


 カクコン8にてCW漫画賞受賞!

【両親の借金を返すためにヤバいとこへ売られた俺、吸血鬼のお嬢様に買われて美少女メイドのエサにされた】

https://kakuyomu.jp/works/16816452220811029883

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る