結果じゃなく努力こそが美しいとか言うの、うさんくさい③

「総合二位、3年A組!」



 俺と真里愛は学級を代表して表彰状を受け取る。結局、騎馬戦はその後すぐに負けてしまった。金森たちの勢いはもうなかったし、俺の作戦は一度きりしか使えないものだったし、仕方ないと言えば仕方ない。ただ、あんなに行けそうなムードだったのに現実はそう甘くないんだと痛感した。



「遊、すごかったな! 陽太に勝つなんて! 俺、ちょっとスッとしたよ」



 教室に戻ると砂川が握手とともにこう言った。俺が何も言えずに頭をかいていると、レイや真里愛が拍手を始め、古川や宮永さんも、さらに中居さんや西田さんまで、そして気づけばほとんど全員が俺の方を見て拍手を送ってくれた。



「遊のおかげで3Aはこんなに団結できたってこと! サンキュー、学級委員さん!」


「いや砂川そんなことないって、恥ずかしいから止めてくれよ」


「そんなことない! 遊くんは学級委員としてこのクラスを良くしてくれたよ! 私なんかじゃここまでできなかった……ありがとう!」


(耳が熱い。顔上げたら多分、全部真っ赤で笑われるだろうな……)



2人の言葉に、俺は俯くことしかできなかった。しかしこの大団円の中、中居さんが空気の読めない一言を放つ。



「ってかさ〜、金森約束あったよね? 『何でも言うこと聞く』んでしょ? ほら、出てこいよこっちに」



 中居さんは拍手の輪の外から金森を連れて俺の前に来た。金森の顔は不快さを全面に出してはいたものの、不思議と怒りや憎しみのようなものは感じられなかった。



「いや、俺はあんな約束気にしてないって言うか、頑張ったのも別にそのためじゃないし……だから、そんな顔すんなよ」



 頑張ったのは友達作りのためだ。別にコイツが賭けを持ちかけて来ようが来るまいが関係ない。しかしクラスの雰囲気は明らかにを求めていた。



(でも、ここでうやむやにする展開は誰も望んでいないよな。だったら……)



「ただ、約束は約束だよな。何でもするって言うなら……謝ってくれ、俺に辛く当たったこと。そして、俺と友達になってくれ」



 観衆の視線は俺から金森へと移動する。金森は驚いた顔で絶句していたが、やがて観念した。



「……和倉、今まで悪かった」



 瞬間、俺は金森のことを抱きしめた。別に大好きってわけじゃない。ただ、体育祭の熱気にあてられて、つい柄にもないことをしてしまったのだった。



 しかし、突如湧き上がる万雷の拍手。3Aのみんなが、満面の笑顔で手を鳴らしてくれたのだ。



(これが、友達か……。俺の今までの『日常』って、何だったんだろう。くだらない、と見下してた学校行事もこんなに心が弾むなんて……)



 ふと気になってレイの方を見る。彼女は誰より大きな動きで拍手を送ってくれていた。目だけでなく口まで大きく開けた笑顔はおよそお嬢様とは思えない表情だったが、俺はなんだかホッとした気がした。



「おいー! 俺抜きで盛り上がってるとはけしからんな! 何だお前たち、二位だったのに楽しそうだな!」



 大川が教室に現れたのをきっかけに、俺たちは自分の座席に戻る。大川は改めて表彰状を読み上げる。



「……ここに表します。令和5年7月14日 日ノ本学園高等部。……よくやったな、お前たち」



 大川はひと呼吸置いて、さらに話を続けた。



「よく負けたクラスに『結果じゃなく努力こそが美しい』と言うが、あれ嘘だよな。俺もそう思ってた。だが、今年はどうだ。二位だったのにクラス全員で拍手できる。これは一体どういうことだ。……さてはお前たち、『結果よりも美しいもの』、見ちゃったな?」



 大川はニヤリとして俺の方を見る。



(こいつ……さては見てたな!? クソ、思い返すとめちゃくちゃ恥ずかしいな俺……)



「多分、誰もが感動したんだろう。諦めない姿勢に。最後まで努力しようという気概に。じゃなきゃあんな拍手、起こらないよな? ……ただ、もう一度言わせてくれ。俺抜きでやるなよ、寂しいじゃないか!」



 大川が悲しそうな顔を作って教卓を叩く。クラスにどっと笑いが起こる。大川がいい教師と言われていた理由が分かったかもしれない。



「じゃ、今度は俺も入れて……今日という素晴らしき日に拍手だーッ!」



 みんな立ち上がったりハイタッチしたりと好き勝手に騒いでいる。俺も隣の席の金髪縦ロールと何かしたくなり振り向くと、目が合った。手と手は触れていなくても、何だか嬉しかった。



⬜︎ ⬛︎ ⬜︎ ⬛︎


7月14日 金曜日


 体育祭2日目! ユウはすっごく頑張って3Aは無事二位入賞! 本当は一位が良かったけど、もっといいことがあった。


 ユウがカナモリと友達になれたこと。今まで色々あったみたいだけど……これからは幸せな未来が待ってるといいな。


 そして! ユウが言うには、今日のことでクラスのほとんどの人と『友達』になれたみたい! 後は……学校に来れてない子と、アイドルの子が難関みたい。


 まあそれはそうと、もうすぐ夏休み! 楽しい思い出、たくさん作りたいな。




⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



第二章『体育祭に勝て!』はこれにて完結となります! ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます😭!



 1学期を終え、ほぼ全員と友達になれたユウと、そのきっかけを作ったレイ。周りとの関係だけでなく自分自身も大きく変わりつつあるユウが送る、ドタバタの夏休みを描く第三章! まさかのライバル出現で、レイとの関係も大きく変わる予感……!



『ドキッ! 予定外だらけの夏休み』編、ご期待ください🙇

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