3 シーナとルターナ3
ルターナもシーナも亡き者のように扱われ、12年たった頃。ディレイムの第一王子レクオンの誕生祭が開かれた。
14歳になった王子のためにディレイム王家が国中の貴族を集め、舞踏会を催すという。
口実としては単なる誕生祭だが、レクオン王子の婚約者を品定めするのだろうと誰もが気づいただろう。
グレッグもその一人で、彼は娘の顔を役立てるいいチャンスだと考えた。病弱で何の役にも立たない娘だが、顔だけは群を抜いて美しい。きっと王子の目に留まることだろう――。
グレッグの企みは成功し、レクオン王子はドレスを身にまとったルターナの可憐な容姿に一目ぼれをした。
ルターナは体調が悪いのを押し隠して王子のダンスのパートナーを務めたが、屋敷に戻るなり高熱を出して寝込んだ。翌日にレクオン王子は伯爵家のタウンハウスを訪ねてきたが、その時にルターナの身代わりとなったのがシーナだった。
『おまえ達の顔を役立てるいい機会だ。王子にバレないよう、しっかり姉の代わりを務めろ』
義父の冷酷な言葉は、今でもシーナの胸に突き刺さっている。
ああ、この人はわたしとお姉さまのことなんか、道具としか思っていないんだ。自分のためなら王家さえ騙すような人なんだ……。
レクオンの妻となれば、ルターナも王家の一員として迎えられる。グレッグは妃の父になるわけだ。人一倍プライドの高いグレッグには、喉から手が出るほど欲しい地位だった事だろう。
病弱で食が細いルターナは成長が遅く、二つ下のシーナとほぼ体格が一緒だったこともグレッグには好都合だった。
ルターナとレクオン王子は同い年だったが、グレッグは「娘は12歳になったばかりで」と平気で嘘をつき、シーナと王子が面会するのに影響が出ないよう画策した。
レクオンが短時間で帰るときにはルターナが彼と面会し、外出するときにはシーナが姉の代わりを務める。
数ヶ月たつころにはルターナもシーナも王子と会うのに慣れ、姉と王子は正式に婚約することになった。が、喜んだのはグレッグだけで、ルターナもシーナもいつまでこの状態が続くのかと怯え続けている。
何年もメイドとして過ごしてきたシーナは、手に傷をつけると義母に叱られるので厨房の仕事ができなくなった。伯爵家の令嬢は手にナイフを持って野菜の皮を剥いたりしないし、竃に火をおこして料理を作ったりもしない。
それに体調を崩しやすいルターナは部屋で過ごすことが多く、肌は雪のように白いのだ。
だからシーナも姉に似せようとなるべく日のあたらない場所で働いているが、それだと洗濯や縫い物ぐらいの仕事しかなかった。縫い物の仕事は専用のメイドがいるため、手が遅いシーナは少しの縫い物しか任せてもらえない。
何とか役に立とうと洗濯物を干す仕事は隠れてやっているが、イザベルに見つかるたびに叱られた。
本当はこの屋敷を出てしまいたい。シーナがいるからレクオン王子を騙すことになったわけで、自分さえ消えれば全て解決するのでは――とシーナは考えている。
しかし姉の身代わりをするたびに、グレッグはシーナに冷たく言い放った。
『逃げようなんて思うなよ。もしおまえが逃げたら、ルターナの薬は止めるからな』
ルターナは喘息の発作が出やすいので、いつも薬を常備している。喘息の薬がなくなったら、ルターナは発作のときに息ができなくて死んでしまう。姉を失いたくないシーナには、屋敷を出ることは出来なかった。
義父はルターナも同じように脅したらしく、姉も不満がありながらそれをシーナに聞かせることはない。恐らく「シーナを屋敷から追い出すぞ」とでも言われたのだろう。
シーナとしては姉を守れるなら自分はどうなっても構わなかったが、ルターナが心細い思いをするのはやはり嫌だ。だから二人はお互いに支えあうようにして、何年も生きてきた。母が名付けた、双子星のように。
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