龍神官長 ルミナ・ソレイユ

 宮殿の奥深く。聖なる輝きの祭壇と呼ばれる祭壇があった。

 そこは神との交信の場、龍種族でありながら今は交流を失った神との繋がりを持つための神聖な場所だ。

 その中央に一人の長身の男がいた。金の髪を金の瞳を持つ男――光輝龍族長、ルミナ・ソレイユ。

 神聖龍魔法を中心とした神の奇跡を代行する男だ。

 男は一切の衣を身にまとわず祭壇の中央で神に祈りを捧げていた。


「まったく……お前はそんな恰好で寒くはないのか?」


 呆れた感じのイグニスの声にルミナは眉をひそめる。


「心頭を滅却すれば寒さなど感じないものだよ」

「それはやせ我慢というんだ」

「不心得者はそうやって逃げの口実を口走るものだ」

「これは逃げではない。そもそも立ち向かおうとすらしないのだから戦略的撤退と言って欲しいものだな」


 ふんと鼻を鳴らしてイグニス。


「立ち向かえ」

「嫌だ」

「ならばせめて立ち向かおうとする姿勢を見せろ」

「嫌だ嫌だ!」

「…………」

「……分かった……」

「フフフ。勝ったぞ!」

 

 ルミナは勝ち誇るイグニスに小さなため息をついた。

 

「まあ、冗談はさておき」


 先ほども大真面目な顔で駄々をこねていたイグニス。大人げないとハボリムは思ったが決して口には出さない。


「状況はどうだ?」

「特に何も……不穏な空気も不審な気配もないよ」


 ルミナの言葉にイグニスは「そうか」とだけ答えた。


「イグニス。君はあの少年に何かあると考えているのかい?」


 ルミナの問いかけに「さあな」と返す。イグニス自身確証があってのことではない。しかし、胸騒ぎが――彼の勘がずっと警鐘を鳴らし続けているのだ。

 それは少年が現れてからずっと鳴り止まない。


「安心したまえ」


 イグニスの不安を感じ取ったかのようにルミナは口を開いた。


「お前に……というかアメリア様に仇名すの者はたとえ誰であろうと神の名のもとに地獄へと叩き落してあげます!」


 笑顔で語るルミナ。彼はことのほかアメリアに甘かった。もうデレッデレに甘かった。


「あの天使のような笑顔! 見ているだけで癒されます! 嗚呼、神はなんと素晴らしき贈り物を私に授けてくれたのでしょうか!」


 「お前にはやらん!」と叫ぶイグニス。


「私とアメリア様は運命の赤い鎖で繋がっているのです!」

「誰がさせるか!」


 イグニスがルミナの胸ぐらをつかむ。


「おやおや、父親の嫉妬とは見苦しい。いずれ『息子よ』と呼ばせてみせますとも!」

「神に誓って断固拒否する!」


 ルミナとイグニスはぐぬぬぬとにらみ合う。

 その時だった。


「――――!!」

「――――!?」

「――――!!」

 

 イグニス、ルミナ、ハボリムの三人が顔を見合わせる。


「やはり…………来たか…………」


 イグニスの思い呟きが静かに響いた。

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