龍姫アメリア
そろりそろりと廊下を進む。カタコトと小さな音が立つ。
木の樽が――動いていた。
不自然な程に音も少なく木の樽は大理石の廊下を進む。
(かんぺきだわ)
木樽の中でアメリアはにんまりと笑った。
「姫様!」
「しまった!」
メイドたちの声にアメリアはびくりと肩を震わせる。
そっとふたを開けると目の前に怒った顔のメイドがいた。
「コ、ココニハダレモイナイヨ……」
方向転換するがその先にもメイドの姿があった。
(どうしてバレたのかしら……)
首を傾げながらもポチを抱きかかえたままアメリアはふたを持ち上げて立ち上がった。
「もう、遊んでばかりでは駄目ですよ」
ポチを抱えたままのアメリアはメイドによってひょいと持ち上げられそのまま運ばれる。足をぷらぷらさせながらアメリアは「つぎこそは!」と心に誓うのであった。
その時であった。
「この宮殿のメイドたちに迷惑をかけているお姫様はいったい誰だ?」
唐突にかけられた声にメイドたちはアメリアをその場にそっと降ろし腰を折る。
「ととさま!」
アメリアは声の主を確認するや否やその人物に飛び込んでいった。
「アメリア様、王に向かってそのような!」
メイドたちが慌てる。その男はアメリアの体を片手で受け止め何事もないかのように軽々とその肩に乗せる。
この宮殿の主、赤い髪、紅の瞳の火炎龍王――イグニス・リアン・レクサーン。龍族の中でも最強とされる火炎の龍――その王。
「よいよい。我が愛しの姫君は勉強はお嫌いとみえる」
ガハハと豪快に笑うイグニスにアメリアは頬ずりしながら「おべんきょうはきらいなのです」と上目遣いに訴えた。
「よし。では今から俺と遊ぼうか! さて、何をして遊ぼうか?」
「やったー!」
「王よ! 気軽にそのような……!」
「ガハハハ! よいではないか!」
必死に言い咎めるメイドをイグニスは手で制する。
「あらら、幼き姫にたぶらかされた愚かな龍はどこの龍かしら?」
廊下に白い霧が満ちる。気温が一気に下がり大理石の床にうっすらと霜が降り始めた。
「お……おお……これは……アメリアが……だな……」
冷や汗をかきながらイグニスはゆっくりと声の主に振り返る。
そこには白い衣をまっとった白い髪と白い瞳の女性。水氷龍王――グレイシア・リアン・サーペント。王と対をなす王妃。
「か、かかさま……これは、ととさまが……!」
イグニスとアメリアは引きつった笑顔のまま、氷の微笑を浮かべる王妃兼妻兼母に対して互いに互いを生贄として捧げる。
「二人ともそこに座りなさい」
笑顔のまま言い放つグレイシアに二人はすぐに従った。
龍を統べる火炎龍王も我がままいっぱいの龍姫も氷結の笑顔のグレイシアに逆らうことなどできるはずもなかった。
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