第15話 勇者の英知
俺のゾンビが敵ゾンビに噛み付き、感染スキルにより寝返ったゾンビがまた敵ゾンビに噛み付いていく。
そうして瞬く間に仲間を増やしていく様子にグラミーは戦慄しているようだった。
「ショーギ……ってなんだ? 魔法か何かか!?」
「魔法じゃないよ。ボードゲームかな」
「わけわかんねぇ事言いやがって! ちょっとゾンビを手下にしたくらいでいい気になるなよ――てめぇら敵のゾンビを噛みまくれ!」
グラミーも対抗して命令を下す。
だがすでに半数以上のゾンビが俺の陣営に下っているのだ。
一体のゾンビが敵に噛み付き、感染で二体に増える。次は二体のゾンビが二体増やして四体に、四体が八体、十六、三十二、六十四……と爆発的に増えていく。
まさに指数関数的増加だ。半数を抑えた以上、もはやひっくり返る要素など微塵もない。
「何やってんだてめぇら! トロくさい事してんなよグズども!」
「無駄だよ。もうお前の負けだ」
「く、くそがぁ!」
グラミーは青筋を浮かべて地団駄を踏む。
「なんでだ……? さっきまでてめぇのゾンビは少なかったじゃねぇかッ!」
「指数関数って知らない? 四天王のくせにあんまり学力は高くないみたいだな」
「なにィ!?」
激昂するグラミー。
「シ、シスウカンスウっていう魔法だろ!? それくらい知ってるっつーの!」
「魔法じゃないって。強いて言うなら高校数学かな」
「コウコウスウガクっていう魔法まで使ってるだとっ!?」
「お前絶対知らないだろ!?」
「知ってるし!」
「知ったかすんな! バカ四天王!」
「ぐぬぬぬ……!」
グラミーは悔しそうに唸り声を上げていた。
ちょっと言い過ぎたかな……?
そうだよね。この世界って学校とかあんまりなさそうだし、たまたま運良く現代日本に生まれて学校に通えただけの俺がバカにしちゃだめだよね。
「イサム様の仰る通りです! 無知な者が組織の上に立つなど笑止千万! 恥を知りなさい!」
「ラーティさん!?」
「さぁ、イサム様。そのシスウカンスウとやらについてご教授くださいませ!」
「あんたも知らないのかよ!?」
「てめぇら……殺す! アタシの手で八つ裂きにしてゾンビどもの餌にしてやる!」
グラミーは頭に血が上って真っ赤に燃え上がっていた。
殺意の塊としか言いようのない、美少女がしてはいけない類いの表情である。
もうやるしかない。今ある手札でグラミーを倒す。それしか生き延びる道はない!
俺は聖剣ヴォルケインを構えた。
「さぁ来い! 相手になってやる!」
「結界の中で言うセリフではありませんね」
「こんなん外で言えるわけないだろ! 死ぬわ!」
「グラァァァァァッッッ!!!!」
骨の大鎌が結界にぶち当たって火花を散らす。
「出て来いてめぇぇぇぇぇぶっ殺すぞぉぉぉぉぉ!!!!」
「ふぉぉぉっ!?」
怒りに任せた乱撃とその迫力に俺は腰が引ける。ラーティも息を呑んだ。
「イサム様、どうしましょう? もうそろそろ神聖力が限界ですが……」
「も、問題ない! 俺に任せろ!」
自信満々に言う俺へ、ラーティの目に希望の光が宿った。
「さすが勇者様です! 何か策があるのですね?」
「もちろんだ。これまでの言動を見るに、グラミーはめちゃくちゃ負けず嫌いだと思われる。それこそがあいつの弱点なんだ」
「なるほど! で、どうやるのです?」
俺は結界の境目ギリギリ、鎌を振り下ろすグラミーのそばまで顔を近付けた。
「おいおいグラミーさんよぉ! ゾンビも雑魚だし死霊術もショボいし、その上この程度の結界も破れないんスか~!?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁコロスゥゥゥゥ!!!!」
「イサム様! これ以上怒らせてどうするんですか!?」
「いいんだこれで! ヘイヘイ、グラミービビってる~? よくそれで四天王なんかやれますねぇ~!」
「もうっ、知りませんからね!」
鎌に込められた力が倍増したんじゃないかってくらいグラミーは猛り狂っていた。周りにいるゾンビが無差別に大鎌で切り刻まれる。もはや敵も味方もありゃしねぇな。
でもそれでいい。我を忘れるほどに怒れば視野狭窄になる。それこそが俺達の勝機だ。
そしてその瞬間はやってきた。
「なっ!?」
グラミーの動きが鈍ったのだ。
「アタシの体が……ゾンビ化してやがる!?」
「今頃気付いたのか。怒りのあまり痛みにも気付かないとはな。お前の足元を見てみろよ」
「んだとぉ……!?」
自身の足元を見て、グラミーの表情が驚愕に染まる。
彼女の右足にアレクサンダーが長い首を伸ばし、こっそり噛み付いていたのだ。
「ウハハハハ! 俺のゾンビ仲間第一号、ベルベルゾンビことアレクサンダーだ。ようこそ我が軍門へ!」
「イサム様が何だか魔王みたいです……」
「何の何の! 勝てば官軍、負ければ賊軍! 勝った者こそ正義なのだ!」
両腕を広げて高らかに笑う。
そんな俺に見下ろされ、肌をゾンビ色に染めながらグラミーは歯噛みする。
「く……くそったれがぁぁぁぁ!!!!」
その叫びがグラミーの断末魔となったのだった。
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