第13話 不死のからくり
「さて、どうする勇者よ?」
勝ち誇ったように告げる死霊使いグラミー。
そんな敵を俺はひたすら無表情で睨んでいた。
聖剣で斬ったはずなのに全然効いてない。いや、効いてはいるかもしれないが、回復されたら同じ事だ。
その場合は回復する間もない一撃必殺か、回復できなくなるまで持久戦しか倒す術がない。
「イサム様、どうしますか……?」
ラーティが危機感の混じった声で尋ねてくる。
「そうだな……。こういうまともに戦っても勝てない系能力の敵を相手にする場合、定番の解決方法がある」
「それは一体?」
「封印だ」
ラーティは険しい顔を一転、希望の笑みに変えた。
「さすが勇者様です! ではすぐに封印してやりましょう!」
「ああ、やろう。すぐにやろう」
俺は聖剣を構えた。
「……」
「……」
沈黙。
俺もラーティもリリも、グラミーやゾンビでさえも動かない。
「あの、イサム様? 敵を封印しないのですか?」
「するとも。封印は任せたぞ。俺は時間稼ぎをする」
「……えっ? わたくしが封印役なのですか?」
「ああ。それっぽい封印魔法的なやつ、あるんだろ?」
「ありませんよっ!?」
「ないのっ!?」
「あったらわたくしが魔王デイザールを封印しています!」
「そっかぁ! そうだよなぁ!」
う~ん、良い手だと思ったんだけどなぁ。なかなかそう上手くはいかないなぁ。
となると今ある手札で何とかしないといけない。
……いや待てよ?
「ラーティ、結界を張れるか?」
「それはもちろん可能ですが、いいのですか? ここで神聖力を使えばイサム様は半日もせずゾンビ化しますが……」
「いいんだ。今やらなきゃどうせ俺は早晩ゾンビになっちまうしな」
「……わかりました。ではリリさんをわたくしのそばへ――」
「いや、展開先はグラミーだ」
「!」
その意味する事をラーティは察したようだ。
グラミーは腕組みしながら指をトントンしていた。
「コソコソと何やら相談しているようだが、まだかかりそうか?」
「いいえ、終わりました。あなたの命運はここで尽きるのです!」
ラーティは聖杖を掲げ、祈りを捧げる。
「聖なる守護神アルデム様、不浄なる敵から我らをお守りください――ホーリーシェル!」
神聖術の発動と同時に結界が展開、グラミーを覆った。
グラミーはその半透明の障壁をコンコンと叩く。
「ふむ、聖なる結界か。確かにこれを破るのは難しそうだ」
「破る必要はないぞ。今から倒されるんだからな!」
俺は聖剣を腰だめに構え、突き刺す。結界をすり抜けた聖なる刃はグラミーの腹を貫いた。
「なるほど……閉じ込めた上で刺す、か。これでは傷を治す事もでき……ん……がはっ」
グラミーの肉体が崩れた――かに思えたが。
「なっ!?」
肉体の崩壊と同時にゾンビの肉が寄り集まり、結界の外に新たなグラミーの肉体を作り出したのだ。
「これぞ我が死霊術の奥義、ミートクリエイションだ。貴様にはこのような芸当はできまい?」
「こいつ、不死身か……!?」
「おかしな事を言う。命なき亡者どもを従えるのが死霊使いだ。不死身で当然であろう」
言われてみると何だかそんな風にも思えてくる。
でもあくまでこいつは四天王。本当に不死身で最強なら、邪帝王の下に付いているのは不自然。だから弱点はきっとあるはずだ。
「さぁ、先の言を撤回せよ。貴様の死霊術では私に敵わぬとな」
いや別に俺、死霊術とか使えないんだけどね?
「つーか負けず嫌いだなお前。出来損ないの雑魚ゾンビって言われたのを根に持ってんの?」
「まだ負けを認めぬか……。もういい、ならば朽ち果てよ!」
グラミーが手を掲げると、一斉にゾンビが動き出した。
俺は聖剣を振るい、襲ってくるゾンビを蹴散らす。
とはいえレベル1の俺の体力なんてゴミみたいな数字なわけで。
「はぁっ……はぁっ……きっつ……!」
そもそもインドア派の帰宅部ガリ勉受験生に、白兵戦はハードルが高すぎるんだよな。こんな事ならスポーツでもやっておくべきだった。
「ふん。私より優れていると吠えていたくせに、まさか死霊術を何一つ見せないとはな。どうやら買い被りだったようだ。泣いて謝れば楽に殺してやらんでもないぞ?」
「どの道殺すのかよ。交渉にもなってないな」
考えろ。あいつは邪帝王の配下だ。そして俺は無理矢理召喚されただけの異世界人だ。
つまり俺達とグラミーは敵対する理由がない。
だったらちゃんと事情を話して交渉してみるか? 外道ムーブでいくか?
それも選択肢としてはありだろう。こんなところで正義を貫いたって俺には何の得もない。
でもそうすると、後ろにリリさんがいるのがまずいんだよな……。
外道ムーブでいくとなると、彼女を口封じしないといけなくなる。さすがにそれは寝覚めが悪い。俺は正義のヒーローでも何でもないが、だからといって倫理観皆無のサイコ野郎でもないんだ。
「……なるほど、そうだったのですね」
ふとラーティがすべてを悟ったかのようにつぶやいた。
「何がそうなんだ?」
「おかしいと思ったのです。死霊使いグラミーは自身を死霊と化しているのに、死霊特効のある聖剣の攻撃を受けてもなお復活できるのか。でもそれは当たり前だったのです。何しろその肉体はただのあやつり人形だったのですから」
「どういう事だ? あやつり人形って?」
俺の疑問にラーティは微笑みを返した。
「言ったでしょう、わたくしは神の奇跡により死者の声が聞けると。その力を用いて、死霊使いグラミーを自称するゾンビの肉体の持ち主と意思疎通をしたのです」
「ゾンビの肉体の持ち主と……?」
「ええ。ほとんど正気を失っていましたが、根気よく話しかけたら応えてくださいました。彼はグラミーではありません」
「!」
つまり、グラミーと名乗ってるこいつはただのゾンビで、それを操っている第三者が別にいたって事なのか!?
ラーティはそんな俺の推測を肯定するように、物陰で隠れるその第三者へ聖杖を突き付けた。
「リリさん――あなたが死霊使いグラミーの正体ですね?」
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