第8話 死霊の森

 廃墟となったレイマール王国を出た後、俺達は大きな道に沿って歩いていた。


 ラーティが王様の霊から聞き出した話によれば、その先にはファーライト光国という国があるそうだ。


 とは言っても、行けど暮せど土を踏み固めた道ばかり。両脇は深い森なので入る気にもならない。


「陽は出てきたけど、街灯も何もないから薄暗いな……。魔物とか出なけりゃいいけど」


「魔物ならいますよ?」


 ラーティが平然と言った。


「……何だって?」


「ですから、魔物ならいます」


「どこに?」


「そこら中に。この辺の森はゾンビだらけのようですね」


「!?」


 慌てて周りを見回すが、静かな森からは風のざわめきと虫の音しか聞こえてこない。


「……じょ、冗談はよせよ。何もいないだろ」


「冗談ではありません。例えばほら、あの辺の暗がりとか」


 ラーティがおもむろに森を指差す。


 そこには確かに無数の不気味な影が草をかき分け蠢いていた。


「ひぃぃっ!?」


 バイオハザードかよ! ゾンビだらけの森を剣一本で歩くとか怖すぎんだけど!?


「ご安心ください。守護神アルデム様の加護を受けたわたくしがいれば、ゾンビごとき大した敵ではありません!」


「あんた攻撃手段ないだろ!」


「ええ。ですから防御はお任せください!」


「俺にパーティの攻撃力全振りすんなっつってんだよ!?」


 バリアを張ってタコ殴りにすれば安全に退治できるったって、雑魚敵にしか通用しないんだぞ。俺をストレスで殺す気か!


「要するにわたくしも敵を殴れ、という事ですか?」


「まぁできるならお願いしたいかな……」


「しかしながら、わたくしの攻撃力は六しかないのです。果たしてお役に立てるかどうか……」


「俺の六倍もあんじゃねぇか!? 充分だよ!」


「そういえばイサム様、攻撃力たったの一でしたね……お可哀想に……」


「やめろぉ! 俺を憐れみの目で見るんじゃねぇっ!」


 胸をえぐるような視線に悶絶する俺。


 こちとらスポーツも何もやってねぇんだ! ガリ勉インドア受験生舐めんなよ!?


「そういや聞いてなかったけど、あんたレベルいくつなんだよ? 色々魔法みたいなの使えるし、俺より高いんだよな?」


「お恥ずかしながら、まだ六十しかありません」


 俺の六十倍もあんじゃねぇか! 充分過ぎるよ!?


「つーか、あんたレベル六十もあるのに攻撃力六って……。どうやってレベル上げたわけ?」


「それはもちろん聖アルデム教団の支援があってこそ。他の者達が捕らえてきた魔物にとどめを刺しておりました」


「パワーレベリング!」


「これもまた聖女の務め。邪悪な死体はいたぶり尽くせと神も仰っております」


「そこに繋がるのかよ!?」


 そんなんずるい! チート行為だ! 俺にもさせろ! いや、やろうとしてたっけか?


 その時、遠くでかすかに悲鳴が聞こえた気がした。


「誰かいる……?」


「助けに行きましょう!」


「ちょっと待て」


 走り出そうとするラーティの腕をつかむ。


「どうしたのです? 早く助けに行かないと!」


「その助け合いの精神は素晴らしいと思うけど、一旦落ち着こう。誰かが襲われているとして、そいつは本当に人間か?」


「違うのですか?」


「いや知らんけど……。可能性として、違う事も想定した方がいいって話だよ」


 ホラーでよくあるやつだ。悲鳴が聞こえて助けに行ったら化け物だったとか、獲物をおびき寄せるために『タスケテ』と言う人食いの生物とかな。


「だとしても行くべきです! さぁ助けましょう!」


「だからちょっと待て」


 再び走り出すラーティの腕をつかむ。


「なんですか? 早く助けに行かないと!」


「行ったとして今の俺達に助けられると思うか?」


「できますよ。イサム様もその方法はおわかりでしょう?」


 そうなんだよなぁ。嫌だなぁ。行きたくないなぁ。


 くっそ……俺はただ受験しに来ただけなのに、何だってこんな事に巻き込まれてるんだ。面倒だし怖いけど、助ける手段が一応あるのが憎らしい。


「わかったよ! 行けばいいんだろ!」


「はい! 行きましょう!」


 強気に笑うラーティを横目に、俺は渋々走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る