フィストオブジャスティス

「来るな!刺すぞ!」

 男は少女に包丁を突き付けながら、周りに叫んだ。

 警官たちは、興奮している男を宥めようと説得を試みているが、効果はないようだった。

 俺は、現場から100メートル程離れた歩道から、男に近付ける場所を探していた。

 赤いライダーススーツに、赤いフルフェイスヘルメットを被っているが、殆どの人は日が当たっている時、俺の姿を視認することができない。なぜなら、自ら開発した無色透明の光学迷彩塗料を全身に塗っているからだ。

 ゆっくりと日向の道を進む。

 男までの距離40メートル。ここまで来ると、警官たちがわさわさ居て、日向をこれ以上進むのは、難しそうだった。

 俺は一旦足を止め、首元についている右側ツマミを回した。

 ピリッと微弱な電流が身体中に流れ込む。血管が広がり、体内の血液が少し暖まる。

 よし、身体のリミッター解除。次に左側のツマミを回す。

 ボイスチェンジャー起動。

 両膝を屈め、ジャンプの態勢に入る。

 タンッ。

 跳躍する。

 警官たちを飛び越え、パトカーの屋根に着地。

次から次へパトカーの屋根に着地しつ、男に近付いて行く。

 遂に一番、男から近いパトカーの屋根に着地すると、腕を組んで言い放つ。

「これから正義を執行する!参る!」

 声が響き渡る。

 ダンッ。

 パトカーの屋根から、跳躍し、一気に男との距離を詰める。

「ジャスティス!」

 男に迫る!そこでようやく、俺の姿が視認されるだろう。深紅の姿を。

 この現場にいる男、少女、警官たちが狼狽えたはずだ。その隙に男に肉薄し、男の右手首を握った。

「痛ッ!」

 激痛に男は、包丁を落とした。

 そして男の腹に正拳突きを喰らわせた。

 男はぶっ飛び、ビルの壁に身体を叩きつけることになった。

「正義執行完了‼️では」

 そう言って俺は現場から走って消えた。


「くそぉ!」

 村井巡査は思い切りゴミ箱を蹴った。

「そう、当たり散らさないで下さい。ジャスティスのお陰で、早期解決できたんですから」

 笹山巡査は、散らばったゴミを拾いながら、村井巡査を宥めようとする。

「なにが、ジャスティスだ。人質をとった男は肋骨粉砕骨折。人質の子になにもなかったが、下手すりゃ刺されてたぞ!」

「まあまあ、結果オーライですよ」

「けっ。俺にしてみれば、正義の味方気取りの偽善者野郎だ!」

 再び、村井巡査はゴミ箱を蹴るのだった。

「あーあ」


 俺の名は、正義正義(せいぎまさよし)。

 趣味で勝手に正義の味方をやっている。別に名乗った覚えはないが、ちまたではジャスティスと呼ばれている。

 バイクを人気のない貸しコンテナの前に停め、中に入った。


 コンテナの中でヘルメットを脱ぎ、続いてライダーススーツも脱ぐ。

 あらかじめ、コンテナの中に用意していた服に着替えた。

「さて、家に帰るか」


 家に帰り着くと、俺はシャワーを浴びて汗をながした。

 シャワーを浴び終えると、バスタオルで全身を拭き、首にバスタオルを引っかけ、裸のまま、冷蔵庫に入っているオレンジジュースを取り出し、冷蔵庫の扉を締め、一気にあおった。

「ふはぁ、うまい!」

 オレンジジュースのビンをテーブルに置き、裸のままソファーに座る。


 正義執行のために、自分自身で、強化服を創りだした。

 ぶっちゃけ言えば、金と時間と頭があるからできたことだ。

 多額の親の遺産が入り、その遺産額は軽く100億はあった。

 そのおかげで俺は、努めていた製薬会社を辞め、有り余る金と時間を手に入れることが出来た。

 自慢ではないが、頭の回転良さは元々あったため、お金で色々な道具を揃え、時間で考え道具を作った。

 そうして俺は5年かけて、己が良いと思う正義執行を開始した。

 

 最初はテレビの報道などで情報を得ていたが、今は、警察無線をたまに傍受することができるようなった。

 噂をすればだ。警察の無線が吼えた。

 俺はすぐさま、ライダースーツを着込み、ヘルメットを掴み、ガレージに向かった。


終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る