るおの世界 SF編

浅貴るお

神の塔

 神の塔。

 誰も戻った者を知らない。

 1000年前に建てられたと言われているが、正確には皆知らない。気付いたら、そこにあったのだと言う。


神の塔をジークは眺めていた。すると、男がこちらに歩いて来るのが見えた。

 男は泣いていた。

「おじさんどうしてないてるの?」

 ジークは目の前で涙を流している男に訊いた。

 ただ、男は言った。

「神の塔に登れば分かる」

 ジークはその時、その言葉の意味を理解することができなかった。


 その10年後、ジークは神の塔に登り、真実を知り、男の言葉の意味を理解することになる。


 ジークとエミリーは、神の塔を見上げる。

 硬く扉は閉ざされている。

「ジークまた来てるのか。来ても入れられないぞ。今日はエミリーも来ているのか」 

「うん」

「分かってるさ。待ってるのさ」

 エミリーは頷き、ジークは答えるのだった。

「お前さんも健気だね。毎日毎日、10年前に神の塔に登った親父さんを待ってるなんて」

「健気じゃないさ。時が来るのを待ってるのさ」

 ガタン。

 何の前触れもなく、神の塔の扉が開いた。

 ジークは開いた扉に向かって走った。

「お兄ちゃん!」

 エミリーが叫ぶ。

「ジーク待て!」

 衛兵が手を伸ばすが、掴んだのは、ジークがしていたネックレスのみだった。

 ジークは扉の中へと吸い込まれ、扉はひとりでに閉まった。

 衛兵の手には、千切れたネックレスのみが残った。


 神の塔の中は、うっすらと灯り、登りの螺旋階段になっていた。

 ジークはひたすら、上へと登る。


 一体どれくらいの時間、登っていただろう。時間の感覚が分からない。だが、ようやく終わりが見えて来た。光が差すのが、見えたのだ。

「ようやく終わりか?」

 ジークは、光の差す所へ吸い込まれて行った。


 階段を登りきると、そこには、塔の上とは、思えないとても広い街並みに出くわした。

「何なんだこの空間は?塔の中のはずだよな?」

「ほっ、ほっ、ほ」

「誰だ!?」

「待て待て。敵意を持つでない。ここの住人じゃよ」

「住人?」

「そうじゃ」

 と答えられたが、ジークは顔しかめた。老人は何か浮世絵離れした雰囲気を持っており、直感的にすぐその言葉を鵜呑みにすることが出来なかった。

「ここはどこなんだ?」

「ここは、地上と切り離された土地じゃよ」

「信じられない」

「信じられなくても、そうなのじゃよ。この塔は」

 ジークは頭をかきむしった。それで少しだけ冷静になる。

「そうだ。聞きたいことがある?」

「質問ばかりじゃな。まあ、いいわい。で、なんじゃ?」

「俺以外に、ここに来た人が居たと思うが、どこに居る?」

「地上に帰ったぞ。1人残らずな」

「1人残らず?」

「ああ、今ここには儂とおまえ以外おらん」

「嘘だ!親父はまだ帰って来てない!」

「嘘ではない。入り口の扉は、ここから出たら、開くようになっておる。そして、1人入って来たら閉まる仕組みじゃ」

「じゃあ、俺は親父と入れ違いに?」

「そうなるわな。あと、これは忠告じゃ。地上が恋しいなら、ここから早くでることをオススメする」

「何でだ?」

「出れば分かる。出口はここからまっすぐ歩いて行くと、鐘のある家のドアじゃ」

 そう言って老人は、口を閉じ、そそくさと近くの家屋に入って行った。

 1人残されたジークは、色々老人に訊きたいことはあったが、肩透かしを喰らわされた気持ちになった。

「とりあえず、鐘のある家に行くしかないか」


 ジークはしばし歩き、鐘のある家の前に着いた。

「ここか」

 ジークはドアノブをひねり、ドアを開ける。

 暗い暗い空間が広がっていた。

「暗いな。足元に気をつけて進まないとな」

 ジークは暗闇の中に恐る恐る足を踏み入れた。

 何故だか、違和感を覚えたが、気に病むほどではないかったので、そのまま、暗闇の中を進んだ。


 ジークがいくらか歩いていると、床の感覚が変わる。

 土を踏み締めたかと思うと、風景がいきなり変わった。

「何だ。ここは?」

 ジークは、見知らぬ街並みに出て来てしまった。

 ジークは後ろを振り向いた。

 神の塔があった。

「神の塔?……と言うことは、あそこは、俺の居た村なのか?」

 ジークは混乱した。なぜ、村が見知らぬところへなってしまったのか。

 こちらへ老婆が歩いて来るのが見えた。

 ジークはその老婆に話を訊くことにした。

「すみません」

「はい?何でしょう?」

「ここは、セック村でしょうか?」

「ああ、ここはセック町です。10年前までセック村でした。よくご存知ですね」

 どう言うことだろう?セック村がセック町に。しかも10年前にセック村が町に。

 ふと、老婆の首元のネックレスに目がいった。神の塔に登る直前、失くしてしまったネックレスに似ていたからだ。

「あの、そのネックレスは?」

「あぁ、これですか。これは60年前に神の塔へ登って行った兄が残した物を直して、兄が戻って来たら、気付いてもらえるようにずっと身に付けている物です」

 ジークは思わず、顔を覆った。そして、気付いた。その待ち人が自分であることに。そして、神の塔の老人の忠告に。 それから、幼き時「神の塔に登れば分かる」と言った男の言葉の意味に。

 神の塔と地上は時間の流れが違うのだ。

 ジークが神の塔に居たのは、多分数時間。それが地上では、60年経っていた。

「あの、お婆さん?私が60年前に神の塔に登った兄だと言ったらどうします?」

「ほほほ。何をご冗談をあなたは、どう見てもお若い。とてもこの婆と近い歳にはみえませんよ。でも、確かにあなたは最後に見た兄の姿に似ています」

「じゃあ、こう言えば信じてもらえますかね。エミリー、兄の名前はジークだ」

「え、え、え?なぜ、私の名前を?それに兄の名をなぜあなたが?」 

「俺がジークだからだ。エミリー」

「え、え、え、え。本当にお兄ちゃん?」

「ああ」

 ジークとエミリーは抱き合った。


終わり











 

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