19.チュウニドラビルヂング②

 ◆


 16階フロアに到着すると、君たちは早速清掃作業に取り掛かった。


 フロア全体は瓦礫やガラスの破片で覆われ、床には油やドス黒い液体の跡が広がっていた。


 このフロアはかつてオフィススペースとして使われていたようだ。


 広々とした空間にはデスクや椅子が散乱し、壁にはホワイトボードやプロジェクターの痕跡が残っている。


 君たちはまず、散乱する瓦礫から片付けることにする。


 レミーは大きな瓦礫を軽々と持ち上げ、君とアサミを驚かせた。


「すごいなァ」


 君が感嘆の声を上げると、レミーはふるりと震えた。


 アサミ曰く、「照れているみたい」との事。


 君も似たようなことができるし何だったらレミーより単純な力は大きいかもしれないしかしそれはあくまでもサイバネ手術による恩恵であって生身の君にはとてもできないことだ。


 そんな思いもあって君は素直な気持ちでレミーの身体能力を褒め称えた。


 レミーは、まるでおもちゃのように瓦礫を片付けていく。


 ベルトラン外星人は全身に植物の蔦のようなものを生やしているが、レミーの力強さの理由はまさにその蔦にある。


 全身を覆う蔦は金属繊維のように強靭で、圧倒的な筋力を発揮するための補助をしている。


 つまり強化外骨格のような働きをしているのだ。


 アサミはといえば壁の補修作業に取り掛かっている。


 壁は所々ひび割れていて穴が開いている箇所もある。


 それらに対してアサミは特殊な粘着性ゲルを塗り込んでいった。


 ゲルは外気に触れるとすぐに乾き、凝固し、同時に周囲の物質と馴染んでいく。


 このゲルはナノテクノロジーを駆使したものだ。


 ゲルの中には微細なナノロボットが含まれており、これらが壁の素材を分析し、最適な成分を調整してくれる。


 これは建築現場や宇宙ステーションの補修においても重宝されている。


 ◆


 数時間にわたる清掃作業の後、アサミがそろそろ休憩をしようと言い出す。


「そろそろ休憩にしましょうか」


 君が今日はどこで寝泊まりするのかと聞くと、アサミは答えた。


「今日は船で寝泊まりするつもりよ。ブルーバード号に戻るのが一番安全だし、快適だからね」


「ここでも寝れそうだけどやっぱり少し落ち着かないもんなぁ」


「そうね、それにここにいるのは私たちだけじゃないし」


 揉め事とまでは言わないが、エントランスであまり気分が良くないことがあったのも考えてのことだろう。


「じゃあ昼飯といくか」


 君はバックパックから何本かの携帯食料を取り出す。


 味は貧相だが栄養価は高いスティック状の食料を口に運びながら、君たちは食事休憩をとる。


 この携帯食料は緊急時や長期間の任務において重要な栄養を補給するために設計されている。


 味は下痢便よりはマシだが、それでもろくなものではない。


 ただ、栄養素がバランス良く含まれており、エネルギーの補給には最適だった。


 宇宙空間や過酷な環境でも長期間保存が可能で、水分も含まれているため、水が不足している状況でもある程度水気を補うことができる。


 アサミはスティックをかじりながら、「相変わらずひどい味」と苦笑した。


 君は特に思う事はない。味覚はだ《・》残ってはいるが、携帯食料など比ではないほどグロテスクなものを食べた事もあるからだ。


 ちなみにレミーはスティックを手に取ることなく、水筒から水を飲んでいた。


 彼は食事を必要とせず、水と光だけで十分活動ができる。


 ◆


 食事休憩は"ごちそうさま"の言葉ではなく、振動、銃声、爆発音が終わりを告げた。


 周囲がにわかに騒がしくなり、君たちは驚いて顔を見合わせる。


「おいおい……」


「勘弁してほしいわね……」


 オフィスフロアを出てみると、階段の方から悲鳴が聞こえてきた。


 誰かが複数、慌てて降りてくる。


 階段を駆け下りてくるのは数人の開拓事業団員と思しき者たちだ。


 彼らは息を切らせ、何かに追われるように全力で逃げていた。


 ──エントランスの連中じゃないわね、別のチームか……


 アサミはそんな事を考えながら「何があったの!?」


 と叫ぶと、一人の探索者が叫び返した。


「警備ロボットが起動した!! どこかの馬鹿が上層階に入りこみやがったんだ!」


 君たちは顔を見合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る