エンジニア転生!異世界で鍛冶職人となり日本刀を造り出す!~趣味でフィギアも量産しながら美少女たちと暮らす夢の生産スローライフを!〜

毒島かすみ

第1話 最強の剣〝ニホントウ〟

「いらっしゃいませ」


 入店してきたのは剣を背中に携えた若い男性客。冒険者だろう。

 年齢は20代中頃、俺と同じくらいか。

 燃え盛る炎のような赤い髪が特徴的なイケメンだ。


「つかぬ事を聞くが、以前ジークという男に、刀身が細く反り上がった一風変わった剣を売らなかっただろうか?」


 赤髪の客はカウンターに立つ俺へ一直線に歩み寄り、そんな言葉を投げ掛けてきた。

 そして、俺もまた彼の言うその事に心当たりがある。


「……あぁ……はい。それが何か?」


「その剣、僕にも打ってくれないか?」


 この言葉に俺は表情を曇らせた。


「…………」


 この状況を芳しくないと悟ったのだろう。

 赤髪の客は焦りのトーンを滲ませながらカウンター越しに迫るように身を乗り出し、


「頼む!打ってくれ!! 僕はあの剣に心底惚れ込んでいるんだ!頼む! この通りだ!」

 

 と、ものすごい勢いで頼み込んでくるが、俺はその勢いにただただ圧倒され、何も返せずにいる。

 だが赤髪の客はそんな事お構いなしに、さらに熱弁を加速させていく。


「剣先まで徐々にしなやかに反り上がっていくあの曲線美! 刀身に浮び上がるあの魅惑的な波状模様! その美しさたるや、いつまで見ていようとも飽きる事はない!」


 グイグイくる赤髪イケメン。……いや、だから顔が近いって。


「見た目の美しさだけではない――」


 まだ続くらしい……。


「絶対に折れる事の無い強度と、どんな大型魔獣をも一刀両断にしてしまうほどの切れ味を併せ持ち、さらには細い刀身でそれらの効能を実現させている。 〝強度〟〝切れ味〟に加え、〝機敏性〟まで備えているのだから、それはまさしく〝最強の剣〟と呼ぶに相応しい!」


 彼の必死な形相とその熱量から、確かに心底惚れ込んでいる事が分かる。


 さて、そんなにも彼を魅了する刀剣――以前、そのジークという男の依頼で俺が造ったというその刀剣だが……それは『日本刀』の事を指している。


 そう。刀、だ。


 元々日本人として生きていた俺――船橋佑樹にとってこの世界は所謂〝異世界〟。


 ――異世界召喚?転生?転移?


 もはやその区別はよく分からないが、俺は今、この異世界で鍛冶屋として生きている。


「ユウキさん!あの剣、〝ニホントウ〟は貴方にしか作れないんだろ?頼む!この通りだ!」


 尚も続く赤髪の客の縋るような懇願。が、しかし、


「……実はもう、あの剣、日本刀は作るつもり無いんですよね……すみません」


 彼の勢いある熱弁とは対照的な口調でそう告げ、俺は頭を下げた。

 しかし、それでも赤髪の客に諦める様子は窺えない。


「どうして!?あんな凄い剣なのに、何で!?」


 赤髪の客は更に身を乗り出し迫ってくるが、残念ながら俺の思いに変わりはない。

 とはいえ、自分の作った物が高く評価される事は無上の喜びであり、本来ならばその期待に応えたいと思うのが心情だ。しかし、


「……いやぁ。アレ作るのって、実はものすごく大変なんですよね……」


 初めて日本刀を作った前回の製作過程があまりにも過酷過ぎた為、もう二度と日本刀造りはしないと、そう固く誓いを立てているのだ。


 俺は剣豪を題材にしたゲームや漫画、アニメから日本刀に興味を持ち、そういった流れから日本刀の作り方を知っていた。


 元いた世界――日本でも〝職人〟として、鍛冶屋ではなかったけれども『作る』事を生業にしていた俺はそもそも物を作る事が好きだ。

 そんな俺が、


 〝剣豪〟から〝日本刀〟、それから〝刀鍛冶〟へと、


 興味が『作り方』の方へと流れていくのは極々自然な事だった。

 ゆえに、一般人が得られる範囲での情報媒体(某動画投稿サイトなどのネット媒体)にて得られた浅い知識ではあるが、ある程度の日本刀の構造と作り方を分かっていた。


 ただ、そんな浅い知識で日本刀なんかに手を出すべきではなかったと、製作中何度後悔した事か。

 だからこそ、日本刀の製造は今回で最初で最後、そう心に留めていたのだが……。


「――金ならいくらでも出す!」


 唐突に放たれた赤髪客の甘い言葉。

 この、たった一言で俺の立てた誓いが揺らぎ始める。


 


 ◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎




 ――遡る事、半年前。


 ジークとの初対面の時、俺は今と同じような、困った表情を浮かべていた。


『とにかく良く切れる、強くて丈夫な、最強の剣を作って欲しい』


『そもそも刀剣を作った事の無い俺に〝最強の剣〟なんて、そんな依頼されましてもねぇ……』


『最近では貴方が作った斧を武器として扱う冒険者も現れる程、貴方が作る包丁や斧、その刃物類の切れ味は他に類を見ない程に凄まじい。金ならいくらでも払うから是非、その技で、〝最強の剣〟を作って欲しい!頼む!この通りだ!』

 

 ジークのその熱意と『金ならいくらでも払う』という甘い言葉に乗せられ、結局俺はその依頼を受ける事にしたわけだが、その時に〝最強の剣〟と聞いて一番最初に思い浮かんだのが〝日本刀〟だった。


 それと、『この異世界で、もし日本刀を世に出せばどうなるんだろ?』という好奇心も少なからずあった。


 しかし今思えば日本刀ではない路線で〝最強の剣〟を模索すれば良かったと思う。

 客の依頼はあくまで『俺の技で刀剣を作って欲しい』だったのだから。


 とにかく、そう考えを改める程に日本刀の製作過程は骨の折れる大変な作業だった。

 何せ、浅知恵の見様見真似での日本刀作り。『これ、本当に完成するのか?』なんて思いながら、完成までよくこぎつけたものだと、我ながら驚いている程だ。

 

 ジークへ完成した日本刀を納品後、しばらくしてから、『最近、A級冒険者のジークが、細く反り上がった、やたらと切れ味の鋭い剣を扱うようになったらしい』との噂を耳にして、なるほどA級冒険者だったからこそジークは『金ならいくらでも払う』なんて強気の発言が出来たわけかと、後から納得した。




 ◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎●◎




 ――そう。 即ち、今、目の前にしている赤髪のこの客もジーク同様に金に糸目を付けない発言をし、その事から上級冒頭者である事が窺える。つまりは太客という事だ。


「失礼ですが、冒頭者ランクは?」


「S級冒頭者、名をルージュという者だ」


「……ルージュさん……そうですか……S級ですか」


 驚いた。まさかS級とは思わなかった。それに〝ルージュ〟という名前にも聞き覚えがある。有名人だ。無論、ジーク以上の太客だ。


 そういう事ならば……


「では、聖金貨60枚でどうでしょう?この金額はジークさんの時の倍の値段ですが、ジークさんの時は初依頼だった為、見積もりを誤りました。むしろ、この聖金貨60枚が正規値だと思って下さい。それと、支払いは納品時で構いませんが、材料費として聖金貨3枚を別で頂きます。こちらは前金として頂きます。ですので、制作費の聖金貨60枚と合わせると、支払い総額は聖金貨63枚になります。あと、製作期間は半年。この条件で宜しければ依頼をお引き受け致しますが如何されますか?」


 半年はさすがに長く取り過ぎたかもしれないが、おおよそ今の言葉に嘘は無い。しかし、聖金貨63枚は日本円にして約630万円程。さすがに吹っかけ過ぎたか。

 でもまぁ、これで退くならばそれはそれで構わない。己の技術を安売りするつもりは無いからな。

 そう思いつつも、


「分かった。それでいい。宜しく頼む」


 意外にもルージュは簡単にその条件を承諾。同時に聖金貨3枚をカウンター上に置いた。


(マジか。 もう少し吊り上げてもイケたかもしれないな……)


 そんな少しよこしまな後悔はさて置き、俺は聖金貨3枚を受け取ると、ルージュへ頭を下げた。


「承りました」


 こうして、再び俺は日本刀製作に打ち込む事となった。


 もう二度とあんな手間暇の掛かる日本刀など作るつもりは無かったのだが、ここまでの太客ならばその誓いも揺らぐというもの。どの世界でも金は大事だ。稼げる時に稼いでおこうと思う。

 但し、いくら勘弁願いたい仕事とはいえ、仕事は〝仕事〟。ましてや、価格は前回の倍だ。当然、ジークの時よりも高品質な仕上がりにするつもりだ。


 ルージュの退店後、俺は一人「よし!やるか!」と、意気込む。


「ともあれ、まずは材料調達だな……」


 日本刀に最適な鋼を求め、俺は馴染みの鉄材店へと外へ出た。


 空は快晴。

 眩しい日差しに手をかざし、目を細めると俺は鉄材店の方向へ歩き出した。




 ここはブルック伯爵領にあるカノン村。

 人口約500人規模の、この辺りの村としては大きい部類に入る。

 この村の中には俺が営む鍛冶屋や、今目指している鉄材店の他にも、青果店や、肉屋、魚屋、木材店、生地屋といった店が点在し、さらには孤児院もある。

 孤児院では、パンやジャム、漬け物などの加工食品が買える。いわば、元いた世界でいうアンテナショップ的な感じか。

 その為、生活に必要な大概の物は村内だけで買い揃う。

 おまけに領都や商業都市カストレアも近く、そんな恵まれた立地にあるのも相まって、カノン村は年々人口が増加傾向にあるのだとか。


 そして、俺もまたこのカノン村に店を構えているわけだが、

 俺の作る包丁や斧は村人達の間で好評を博し、更に最近では〝ニホントウ〟の噂も広がり、今や俺はちょっとした有名人だ。この村の中では、だが。


 有名になれば自然と村人達との交流も広がっていく。ゆえに、一歩外へ出れば誰かしらがこうして声を掛けてくる。


「こんにちは、ユウキくん」


「バレンシアさん。こんにちは」


 バレンシアさんは30代前半くらいの綺麗な女性だ。主婦である彼女は俺の作った包丁を気に入って使ってくれる有り難いお客様でもある。


「よぉ、ユウキ!」


「あぁ、どうもスパーキンさん」 


 次に声を掛けてきたのはC級冒険者のスパーキンさん。俺に格安での日本刀製作をしつこく言ってくる、正直面倒な男だ。


「聞いたか? あのジークって冒険者、S級に上がったらしいぞ!お前の作ったニホントウのお陰だな」


「それは違いますよ。ジークさんの実力でしょ?」


 そう謙遜しつつも、自分が生み出した物が世間から評価されている事を肌で感じ、内心ニンマリと笑みを零す。


「あぁ……いいなぁ、ニホントウ。俺も欲しいなぁ、ニホントウ。俺にも作ってくれないかなぁ、ニホントウ。……金貨5枚で」


 またこの人はわけのわからない事を。

 金貨5枚といえば日本円で約5万円。まったく、本当にふざけた客だ。


「金貨5枚?スパーキンさんの持ってるその剣の研ぎ直しくらいならしてもいいですよ?」


 そう言って俺はスパーキンさんの背中にある剣を指差した。


「研ぎ直しだけで金貨5枚!?高っ!!」


(チッ)


 心の中で舌打ちをして、俺は何も言わず無視するように鉄材店へ向け再び歩き出したのだった。



――――――――――――――――――――


同じく、カクヨムコン応募作である

『この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。』

もよろしくお願いします。

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330654637102719

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