製氷皿

 注ぐ量が足りないと

 取り出すのに苦労する

 注ぐ量が多すぎると

 南極大陸のように分厚い氷の板ができあがる


 「不器用なら少なめにしとけば」と毎度言うのに

 「その方が変な割れ方はしないし」と説得もするのに

 きみはいつもちょっとやり過ぎなくらいに水を張る


 「大きいことはいいことだから」ときみは笑う

 「必要な時にいっぱい冷やしてくれるのがいいんだ」と得意げに言う


 「変な形に割れちゃうとしても?」

 「変な形に割れちゃうとしても」


 力がないきみのかわりに

 毎回がんばるのは

 ぼくなんだけど……。


 おこごとしたい気持ちを製氷皿の表面ごと押さえて、ばきりと音を立てる

 散々な割れ方をした大陸から、とびきりの一かけを麦茶へとつまむ

 ぼくのはおこぼれ

 もちろんおかしな形


 「変だね」

 「きみのせいでね」


 でもまあ、確かに

 大きなことはいいことだから

 その方が人生はたのしいから

 ぼくはきみについていく

 きみがわけた道をついていく


 南極のかけらを照らす太陽は今日も晴れ

 きみが迎え

 ぼくが今年も押し入れから出した風鈴は

 ちりちりといい具合に鳴っている

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